クリエイティブ最前線

国内外のクリエイティブ動向を
ピックアップするメディア

カンヌライオンズ2026「Sustainable Development Goals部門」受賞作まとめ

この記事のまとめ

カンヌライオンズ2026の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)部門で発表された受賞作を整理します。ポイントは次のとおりです。

  • グランプリはケニアの『Paid Sick Leave for Cows』で、ケニア初のグランプリ獲得となりました。
  • ゴールドは『The Māori Roll Call』と『The Period Uniform』の2作が受賞しました。
  • アジア勢で唯一のライオンはタイの『Fertiliser 2.5』で、ブロンズを獲得しました。
  • 審査委員長は日本人として初めて同部門を率いた佐藤カズー氏が務めました。

カンヌライオンズ2026 SDGs部門の全体像

カンヌライオンズ2026 SDGs部門の全体像

開催概要と部門の位置づけ

カンヌライオンズ2026のSustainable Development Goals部門は、社会課題の解決に貢献するクリエイティブを評価する部門です。

同フェスティバルは2026年6月22日から6月26日までの5日間、南フランスのカンヌで開催され、広告・ブランディング・コミュニケーション領域の作品が審査対象となりました(参照*1)。最終日には、Glass: The Lion for Change、Sustainable Development Goals Lions、Film Lions、Dan Wieden Titanium Lions、Grand Prix for Goodの各受賞者が発表されました(参照*2)。

この部門は、国連が掲げるSustainable Development Goalsの枠組みに沿ってクリエイティブが果たす役割を可視化するもので、単発の広告表現にとどまらず、社会実装につながる取り組みが問われます。応募者は、環境・経済・社会にまたがるテーマに対して、どのような具体的な変化を生み出したかを示す必要があります。

応募総数と受賞ライオン数

SDGs部門の応募規模と受賞の内訳は、今回の狭き門を示しています。

Sustainable Development Goals Lionsには289件の応募が寄せられ、そのうち9作品にライオンが授与されました。内訳はゴールド2、シルバー2、ブロンズ4で、グランプリはナイロビのThe Partnership AgencyによるToo Goodの『Paid Sick Leave for Cows』に贈られました(参照*3)。

受賞率は3%程度にとどまり、応募作の大半がライオンに届かなかった計算になります。数の少なさは、審査の目線が「発信」よりも「変化を生む仕組み」に置かれたことをうかがわせます。

審査対象カテゴリーの構造

SDGs部門は、目標ごとに細分化されたカテゴリー群で構成されています。

たとえばC01「Decent Work and Economic Growth」は、持続可能で包摂的な経済成長を促す取り組みを対象とし、C02「Industry, Innovation and Infrastructure」は、強靱なインフラや持続可能な産業化を扱います。C03「Reduced Inequalities」は、国内および国家間の不平等の是正を目指す作品が対象です(参照*4)。

このカテゴリー構造は、SDGsの17の目標に紐づく形で審査軸を分けることで、抽象的な「良い活動」ではなく、どの社会課題に対して具体的に貢献したかを問う設計になっています。応募者は自作がどの目標に接続しているかを明確に示すことが求められます。

グランプリ『Paid Sick Leave for Cows』

グランプリ『Paid Sick Leave for Cows』

ケニア初のグランプリの背景

グランプリを射止めた『Paid Sick Leave for Cows』は、ケニアの酪農現場に根ざした課題から出発しました。

この作品はナイロビのThe Partnership AgencyがToo Goodのために制作したもので、カンヌライオンズの歴史上、ケニアとして初めてのグランプリ獲得となりました。審査では「ほぼ全会一致に近い決定」だったと審査委員長が述べています(参照*5)。

乳牛に抗生物質を投与すると、休薬期間中の生乳は出荷できず、農家の収入が途絶えるという構造的な問題がありました。ここに焦点を当てた点が、単なる啓発ではなく、当事者の経済的な痛点を直接扱う姿勢として評価されたと考えられます。

仕組みと成果の実数値

この施策の核心は、農家が抗生物質治療中に失う収入を補填する仕組みにあります。

農家は各乳牛を登録し、治療が必要になった際にWhatsAppを通じて獣医師の診断書を提出します。申請が承認されると、乳牛の回復期間中に失われる収入分の支払いが受けられます。開始から最初の8か月間で、農家に対して27,000米ドルが支払われ、生乳の廃棄はほぼゼロにまで減少しました(参照*6)。

既存のメッセージングアプリを申請窓口に使うことで、専用アプリの開発負担を避け、農家が使い慣れた導線に載せた点が実装上のポイントです。抗生物質の適切な使用と農家の生計維持を両立させる設計は、動物福祉と生産者保護の二項対立を解消する試みといえます。

審査委員長・佐藤カズー氏の講評

審査委員長の講評は、グランプリ選定の視点を明確に示しています。

Earth Centric DesignのChief Creative Officer兼CEOである佐藤カズー氏は、「審査員団は、認知の獲得を超えて持続的な仕組みの変化を生み出す、見事にシンプルなアイデアにグランプリを授与した」と述べました。さらに「一見トレードオフに見える構造を共有価値へ転換し、人・ビジネス・他の生き物にとっての利益を同時に生み出す」と評しています(参照*2)。

講評は、単一の課題解決を超えて「他地域でも複製可能なモデル」を提示した点を強調しています。クリエイティビティが未来のシステム設計に関与しうる、という審査軸の宣言としても読み取れる内容です。

ゴールド受賞2作の共通点

ゴールド受賞2作の共通点

『The Māori Roll Call』の社会的インパクト

ゴールド受賞作の一つ『The Māori Roll Call』は、ニュージーランドの政治参画をテーマに据えました。

オークランドのMotion Sicknessが制作したこの作品は、Whānau Oraのキャンペーンとして展開され、マオリのアーティスト兼活動家であるTāme Iti氏が前面に立ちました。500人を超える実在の有権者名を掲げ、Iti氏が読み上げる30分の広告を通じて、マオリ選挙人名簿への登録を促しました(参照*7)。

Motion Sicknessはこの成果を背景に、Agency of the Year – GoodおよびIndependent Agency of the Year – Goodの二冠にも輝いています(参照*3)。長尺のフォーマットを恐れず、選挙人名簿という具体的な行動導線に接続した点が、社会的インパクトの評価につながったと読めます。

『The Period Uniform』が問う不平等

もう一つのゴールドは、ドイツから登場しました。

ミュンヘンのServiceplan Germanyが手がけた『The Period Uniform』は、Somos Martinaのために制作された作品で、月経にまつわる不平等を問い直す内容です。ゴールドはこの作品と『The Māori Roll Call』の2作のみに授与されました(参照*5)。

2作に共通するのは、社会構造に組み込まれた「見えにくい格差」を可視化し、当事者の声を主役に据えた点です。政治参加と身体をめぐる不平等という異なるテーマを扱いながら、いずれも受け手の行動変容に接続しうる設計であることが、ゴールドという評価に結びついたと考えられます。

日本・アジア勢の受賞状況

日本・アジア勢の受賞状況

アジア唯一のブロンズ『Fertiliser 2.5』

アジア勢の受賞は、タイからの1作にとどまりました。

Grey ThailandがThai Health Promotion Foundationと組んで制作した『Fertiliser 2.5』が、Sustainable Development Goals部門でアジア唯一のライオンとなるブロンズを獲得しました(参照*8)。

日本からの受賞作品は、今回のSDGs部門については確認できませんでした。アジア圏でも受賞が1作のみという結果は、この部門における評価のハードルの高さを映し出しています。

日本人初のSDGs審査委員長就任

受賞作品の面では静かだった日本ですが、審査側では大きな出来事がありました。

TBWA\HAKUHODOの子会社Earth Centric Design Lab(ECD)のCEO/CCOである佐藤カズー氏が、カンヌライオンズ2026のSustainable Development Goals部門で審査委員長に選出されました。日本人がこの部門の審査委員長を務めるのは初めてで、日本のクリエイティブ産業への国際的な評価の高まりを示す出来事とされています(参照*9)。

同グループからは佐藤氏を含め、合計3名のリーダーが今回のカンヌライオンズで審査に関わりました(参照*10)。作品受賞と審査参画は異なる指標ですが、審査軸そのものに関与する立場に日本人が就いた意義は見逃せません。

受賞作から読み解くSDGs実装の潮流

受賞作から読み解くSDGs実装の潮流

今回のSDGs部門を通底するのは、「キャンペーン終了後も残る変化」への強い志向です。

佐藤氏は、「私たちはキャンペーンが終わった後も長く続くポジティブな変化を生み出せる作品を探していた」と語りました(参照*5)。また、同部門の審査員であり、DoconomyのChief Creative Officer兼共同創業者であるJohan Pihl氏は、ブランドに対して「自らが引き起こした問題を見つめ、それを直すこと。SDGsの目標に手を伸ばすブランドではなく、目標を自社のエコシステムに統合し、プロジェクトとしてではなくビジネスモデルの一部として組み込むブランドとして立ち現れるべきだ」と提言しています(参照*11)。

グランプリの『Paid Sick Leave for Cows』が農家への実支払いという経済的な仕組みを組み込んだこと、ゴールドの2作がそれぞれ選挙人名簿への登録行動や不平等の可視化という具体的な変化に接続していたことは、この潮流と重なります。読者が自社の取り組みを見直す際には、単発の発信ではなく、事業構造のどこにSDGsを組み込めるかを起点に整理する視点が有効です。

おわりに

カンヌライオンズ2026のSustainable Development Goals部門は、応募289件からわずか9作品にライオンが授与されるという狭き門となりました。ケニア初のグランプリ、ニュージーランドとドイツからのゴールド、タイからのアジア唯一のブロンズという顔ぶれは、地域や産業の垣根を越えて社会実装型のクリエイティブが評価されたことを示しています。

作品受賞では静かだった日本ですが、日本人として初めて同部門の審査委員長を務めた佐藤カズー氏の存在は、今後の応募を考える手がかりになります。経営者や担当者の想いを言語化し、事業の内側からSDGsへの向き合い方を編み直していく作業が、次のライオンにつながる第一歩になりえます。

お知らせ

カンヌライオンズ×2026×Sustainable・Development・Goalsの視点から、企業の想いを言語化して社会とつながる表現戦略が不可欠です。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

クリエイティブ最前線 クリエイティブ最前線

メルマガ登録はこちら

クリエイティブ情報や広告制作に役立つ情報を配信する
メールマガジンを配信しています。お気軽にご登録ください。