
この記事のまとめ
カンヌライオンズ2026のEntertainment部門で、どの作品が世界の頂点に立ったのかを1本にまとめます。読み進めることで、ブランドが文化に入り込む最新の作法が見えてきます。
- Entertainment部門のグランプリはadidasとOasisの「Original Forever」でした
- Gaming、Music、Sportの3つのサブ部門でもグランプリが決まりました
- Entertainment Person of the YearはAppleのEddy Cue氏、LionHeart AwardはOprah Winfrey氏でした
- 共通する評価軸は、注目を奪うのではなく共感で選ばれる「Relevance」でした
Entertainment部門の全体像

Entertainment部門の定義と対象領域
Entertainment部門は、ブランドが作るコンテンツを文化へ押し上げるクリエイティビティを評価する領域です。
公式ガイドによれば、対象にはテレビ、ラジオ、ストリーミング向けのコンテンツに加えて、エンターテインメントを通じて文化的・社会的な課題に向き合う作品も含まれます。ここでいうブランドの範囲も広く、タレント、アーティスト、クリエイター、インフルエンサー、配信者、アスリート、チーム、団体、スポンサー、プラットフォーム、メディア所有者、権利保持者など、エンターテインメント産業に関わる商品やコンテンツを生み出し配布する主体すべてを指します(参照*1)。今年のEntertainment Lionsには656件のエントリーが集まり、グランプリを含めて20点が受賞し、内訳はゴールド3、シルバー6、ブロンズ10でした(参照*2)。
対象領域の広さは、単なる広告制作の枠を超えた作品評価につながっています。ブランドと制作者の境界が薄くなるなかで、どの立場から文化に関わるかを整理する視点が求められます。
4つのサブ部門の構成
Entertainmentトラックは、Entertainment、Gaming、Music、Sportの4部門で構成されています。
フェスティバル2日目に発表された部門一覧では、Entertainment、Entertainment for Gaming、Entertainment for Music、Entertainment for Sportの4つがEntertainmentトラックとして並び、それぞれで受賞作が選ばれました(参照*3)。ゲーム、音楽、スポーツという生活者の熱量が集まる領域ごとに独立した評価軸を設けることで、ブランドがどのようにファンダムへ入り込んだかを丁寧に見比べられる設計になっています。
各部門でグランプリが発表され、Entertainment for Musicでは2作品がグランプリを受賞しました。以下で受賞作を順に確認します。
Entertainment部門グランプリ「Original Forever」

adidasとOasis再結成の文化的必然性
Entertainment Lionsのグランプリは、Johannes Leonardo(ニューヨーク)とadidas(ロンドン)による、adidasの「Original Forever」に贈られました。
審査員は656件のエントリーから同作を頂点に選び、adidasが持つOasisとの文化的な関わりを起点に、公式ツアーマーチや象徴的な文化的瞬間をバンドとともにつくり、ファンダムを育てた点を評価しました(参照*4)。キャンペーンはOasisの再結成ツアーに合わせて展開され、中心となったのは3分間のフィルムで、リアムとノエルのギャラガー兄弟が16年ぶりに画面上で共演し、英国全土から集められた300人以上のファンを起用しながら、Oasisとadidas、そのフォロワーの数十年にわたる関係を描きました(参照*5)。
1990年代から続くバンドとブランドの結びつきを土台にしたことで、キャンペーンは新しい流行を作るのではなく、すでにある物語の続きとして受け取られました。文化的な必然性が評価の芯にあったといえます。
スポンサーではなくバンドの一員という戦略
「Original Forever」の戦略の核は、スポンサーとして関わるのではなくバンドの一部になるという姿勢でした。
再結成ツアーの公式ルックを制作し、16年ぶりに共演したギャラガー兄弟のショートフィルムをツアーのオープニング映像として活用したうえで、Oasisと最も関連付けられるブランドNo.1を獲得し、英国での在庫が完売、グローバルツアー各拠点でも85%以上の販売率を達成し、新規顧客の33%を獲得、そのうち28%がZ世代となりました(参照*3)。スタジアム周辺のポップアップやスタンドで公式ツアーマーチを販売し、ピーク時には1秒あたり1点が売れる状況となり、1994年の楽曲「Live Forever」に乗せた懐かしさのある映像は世界41のスタジアムでオープニングとして流されました(参照*6)。adidasはOasisとの協業を、2025年のライフスタイル売上を12%押し上げた要因の一つに挙げ、Originalsブランドも二桁成長を記録しました(参照*4)。
ロゴを大きく掲げるのではなく、ツアー体験そのものに溶け込む発想が数字にもつながりました。関わり方の設計が、文化とビジネスの両方を動かした事例です。
Gaming部門グランプリ「Copycats Welcome」

模倣ゲーム問題への逆転の発想
Entertainment for GamingのグランプリはDAVIDによる、Clash Royaleの「Copycats Welcome」でした。
Clash Royaleは世界的に成功したモバイルゲームでありながら、ブランディングやゲームプレイ、キャラクターを模倣した多数のクローンゲームに長年悩まされてきました。キャンペーンは法的手段に訴える代わりに、模倣ゲームのプレイヤーに対して、これまでの進行度やゲーム内通貨を本家Clash Royaleに移せると呼びかけました(参照*7)。模倣という長年の頭痛の種を、ユーザー獲得の入り口に置き換えた発想が高く評価されました(参照*8)。
敵対ではなく歓迎という姿勢を選んだことで、コミュニティ側の反応も肯定的なものになりました。守りの姿勢から攻めの物語への転換が特徴です。
Clash Royaleが得た定量成果
「Copycats Welcome」は数値でも突出した成果を残しました。
有料プロモーションを実施する前の段階で、230万人のプレイヤーがクローンゲームから実績を移行し、新規アカウントを165万件獲得し、さらに540万人の離脱ユーザーを再エンゲージし、継続的なプレイへとつなげました(参照*3)。獲得、復帰、話題化を同時に動かした点で、キャンペーンとしての設計の完成度が示されています。
単発の話題づくりに終わらず、事業指標に直結する規模まで押し上げた点が受賞の決め手になりました。ゲーム領域での新しい成長モデルとしての意味を持ちます。
Music部門グランプリ「Berghain」

AI時代への濃密なアートによる反論
Entertainment for Musicでは、Rosalíaの「Berghain」とadidasの「Original Forever」の2作がグランプリを受賞しました。
制作はCanada、監督はNicolás Méndezで、Snow Whiteのモチーフを取り入れた幻想的な映像には、コラボレーターのBjörkが賢い鳥として登場し、失われた無垢さや有害な失恋、感情の再生といったテーマが描かれました(参照*6)。この作品は、AIによるクリックベイトや使い捨ての文化への反論として受け止められ、素早く消費されるのではなく観客の全神経を要求するアートとして機能し、公開2か月で3,500万回の再生を集めました(参照*9)。
短尺で分かりやすい映像が量産される流れのなかで、あえて濃度の高い作品を送り出した判断が評価の核にありました。密度そのものが差別化になった事例です。
難解さをエンゲージメントに変える設計
「Berghain」は難解さと大衆的成功を両立させました。
YouTubeで公開2か月で3,500万回再生を記録し、公開初日には700万回に到達し、Billboard 200でRosalíaのキャリア最高位、スペインでは初登場1位となり、Pitchfork読者が選ぶ年間No.1ソングにも選出され、メディアやSNSで大きな議論を呼びました(参照*3)。作品が象徴主義を多層に重ねているからこそ、視聴者が意味を読み解き、共有し、語り合う動きが自然に生まれました。
分かりにくさは離脱の原因になると考えられがちですが、この作品は語りたくなる余白として機能しました。作品の解釈がそのままエンゲージメントに変換されていった構造が読み取れます。
Sport部門グランプリ「The Thousand Sponsors of Muni」

降格クラブを救う1000社スポンサー構想
Entertainment for Sportのグランプリは、ペルーのサッカークラブClub Deportivo Municipalの「The Thousand Sponsors of Muni」でした。
クラブは降格の後にメインスポンサーを失い、資金の穴を埋めるために、McCann Limaがスポンサーシップのプラットフォームを構築し、1,000のファン所有ビジネスがマイクロ寄付を通じてチームを支えられる仕組みを整え、ユニフォームは1,000のスポンサー枠のグリッドとして再設計されました(参照*6)。わずか3か月で1,000社が参加し、目標資金である254,000ソルを完全に達成しました(参照*3)。
1社の巨大スポンサーを1,000社の小さな支援に置き換えた発想が、地域とクラブの結び付きを再定義しました。
ファンを能動的参加者に変える仕組み
この施策は、ファンの立場そのものを更新しました。
アイデンティティや忠誠心、クラブへの信念といったファン文化に踏み込み、スポンサーシップを遠くのブランドロゴから、個人的で集合的な体験へと変えました(参照*10)。地元メディアやファンを巻き込み、1,050万人にリーチし、ファンは単なる観戦者からクラブの存続を支える能動的な参加者へと変わり、クラブのブランド価値の再構築へつながりました(参照*3)。
応援する側から支える側へと役割が移ったとき、クラブとファンの関係は取引ではなく共有の物語になります。スポーツ領域におけるスポンサーシップの再定義として位置付けられます。
Entertainment Person of the YearとLionHeart Award

フェスティバル2026では、作品の受賞に加えて、人物に贈られる2つの称号も発表されました。
Entertainment Person of the Year 2026には、AppleのSVP of Services and Health、Eddy Cue氏が選ばれ、ステージ上で表彰されました(参照*11)。同氏のリーダーシップのもと、6年あまり前に完全オリジナルのストリーミングプラットフォームとして始動したApple TVは、業界屈指の受賞歴と文化的存在感を持つサービスへと成長し、全ストリーミングサービスのなかで最も高い批評家評価のオリジナル番組ラインアップを5年連続で維持しています(参照*12)。
もう一つのCannes LionHeart Awardは、自らの発信の場を使って世界に意味ある持続的な影響を与えた個人を称える賞で、グローバルなメディアリーダー、プロデューサー、慈善家、俳優であるOprah Winfrey氏に、ステージ上で贈られました(参照*2)。作品単位の評価とは別に、産業と社会に長期的な影響を与えてきた個人を可視化する意味を持つ2つの表彰です。プラットフォームを持つ人物がどう文化を動かしてきたかを、フェスティバル全体の物語として位置付ける役割を果たしました。
日本の受賞作と受賞傾向の総括

日本作品の受賞状況
Entertainment部門とそのサブ部門のグランプリを見ると、上位を占めたのは英国、スペイン、ペルー、そして米国拠点のブランドや制作会社でした。
参照した情報の範囲では、Entertainment、Gaming、Music、Sportの4部門のグランプリに日本発の作品は含まれていません。Entertainment Lions全体ではグランプリを含めて20点が発表され、ゴールド3、シルバー6、ブロンズ10という内訳でしたが、この情報の中には日本作品の具体名は挙がっていません(参照*2)。
本記事の参照範囲に限れば、Entertainment領域の頂点は海外作品が占めた形です。日本作品の詳細は今後の一次情報で確認する必要があります。
Relevanceを軸とした受賞傾向
Entertainment部門全体を貫く軸は、視認性ではなくRelevance、つまり関係性の深さでした。
今年のEntertainment Lionsから読み取れる教訓として、オーディエンスは注目を奪おうとするブランドに対して抵抗感を強めており、逆に信頼を勝ち取るブランドを受け入れやすくなっていて、可視性よりもRelevanceが重要になっており、称賛された作品の多くはファンダム、コミュニティ、情熱の対象、文化的行動といった、人々がすでに深く関心を寄せているものの上に築かれていました(参照*10)。Entertainment Lions審査委員長でBBDO WorldwideのCCOであるChris Beresford-Hill氏は、多くのブランドがRelevanceを人工的に生み出そうとするなかで、ブランドにできる最も強力なことは、正しいタイミングに、正しいコミュニティに対して、大切にする価値のある何かを持って現れることだと語りました(参照*4)。
Oasisとadidasの積み重ね、Clash Royaleのプレイヤー体験、Rosalíaのアート性、Deportivo Municipalの地域性は、いずれも既存の関係性を出発点にしています。ブランド側の都合ではなく、コミュニティの側から出発する順序が、Entertainmentの新しい共通言語になりつつあります。
おわりに
Entertainment部門とそのサブ部門を通して見えてきたのは、ブランドがコミュニティの中心に立とうとするのではなく、すでにある熱量の隣に腰を下ろすという姿勢でした。Oasisの再結成、模倣ゲームの現場、AI時代の音楽、降格クラブの再起という4つの舞台は、テーマも規模も異なりますが、共通して人々の関心の内側から物語を組み立てています。
経営者や担当者にとって、この流れは自社の想いをどのコミュニティの言葉に翻訳するかという問いに置き換えられます。内側の想いを外に届ける道筋を、参照した事例に照らして整理してみてください。
お知らせ
カンヌライオンズ2026Entertainmentで問われる独創的な表現は、企業の想いを言語化するインナー・コピーライティングで形式から本質へとつなぐ重要な鍵であり、ブランド戦略や広告・広報の現場で表現を磨くヒントになります。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) Entertainment Lions
- (*2) Cannes Lions International Festival of Creativity announces winners across the Entertainment and Craft Track Lions
- (*3) note(ノート) – カンヌライオンズ2026 速報 – エンターテインメント、エンターテインメント for ゲーミング、エンターテインメント for ミュージック、エンターテインメント for スポーツ部門
- (*4) Variety – Adidas’ Oasis Collab Wins Grand Prix
- (*5) Cannes Lions 2026 Winners: Entertainment
- (*6) Adidas’ Oasis Homage Among 8 Grand Prix Winners From Cannes Lions 2026 Day 2
- (*7) Marketing Report – Ogilvy Network reaches 30 Lions at Cannes
- (*8) WPP.com – WPP agencies triumph at Cannes Lions 2026, with Ogilvy and VML claiming the top two creative network honours
- (*9) note(ノート) – Why did the Cannes 2026 Entertainment Lions for Music Grand Prix winner create a music video that ‘requires full concentration to understand’ in the age of AI?|とある若手広告プランナーのメモ
- (*10) The Drum – What Cannes’ Entertainment Lions reveal about the new rules of relevance
- (*11) 73rd Cannes Lions International Festival of Creativity announces first winners
- (*12) Cannes Lions announces Apple’s Eddy Cue as its 2026 Entertainment Person of the Year