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カンヌライオンズ2026「Creative Commerce部門」受賞作まとめ

この記事のまとめ

カンヌライオンズ2026のCreative Commerce部門は、創造性を売上や顧客との関係づくりの原動力として活用した作品を評価しました。要点は次のとおりです。

  • Grand Prixはポーランドのサッカークラブ、ヴィスワ・クラクフとVML Warsawによる『Lucky Fan Index』が受賞
  • AIが25万人分のファンプロフィールを分析し、観客動員を42%増加させた事例が注目された
  • フランスのBETCとBETC Fullsixは『The Password Heist』でSilverを獲得
  • アジアからはシンガポール、インド、中国本土、UAEの作品がショートリスト入り

Creative Commerce部門の定義と審査観点

Creative Commerce部門の定義と審査観点

対象領域と評価基準

Creative Commerce部門は、物語性と購買行動を切れ目なくつなぐ作品を対象にしています。

評価の中心は、接点形成(engagement)から購入までを自然に導く体験設計にあります。売上目標との明確なつながりを示し、革新的なメディアや技術を用いて、パーソナルで双方向な体験をつくり出すことが求められます。強いブランド識別性と文化的な関連性を持ち、消費者に意味ある影響を与えることも重視されています。対象領域には、ライブ配信、ソーシャルコマース、没入型Eコマースプラットフォーム、物理とデジタルのチャネルをまたぐオムニチャネル施策、遊び心のあるゲーム化された購買体験、InstagramやTikTokを活用したソーシャルコマース、サステナブルで倫理的な購買の解決策、決済工程を簡素化する工夫、ロイヤルティを育むコミュニティ施策なども含まれます(参照*1)。

これらの評価軸は、単発の販売促進ではなく、体験と商業成果を統合する設計思想を求めていることを示します。ブランドの世界観と購買動線を1つの流れで組み立てられているかが、判断の要となります。

ジュリープレジデントが語る2026年の潮流

2026年の選考基準は、Phil Camarota氏の発言に端的に表れています。

受賞には、作品が商業的に成果を動かす必要があると示しています。単に割引を届ける仕組みではなく、創造性がビジネスの真の推進力になっている必要があるとし、価格を下げれば誰でも売上のスパイクは作れるが、消費者の心の中でブランドや商品の価値を再定義することこそが本物の達成であると語りました(参照*2)。また、Cannes Lionsは2026年に全カテゴリで新しいAwards Integrity Standardsを導入し、応募の信頼性、結果の正当性、審査の公正性を、創造的卓越性を評価する上での譲れない柱としました(参照*3)。

この2つの姿勢は、値引きで数字を作る発想から距離を置き、創造性がビジネスを動かした証拠を厳密に見極める方向を示しています。応募側は、成果の背景にある考え方と検証の透明性を、これまで以上に丁寧に組み立てる必要があります。

Grand Prix受賞作『Lucky Fan Index』の全貌

Grand Prix受賞作『Lucky Fan Index』の全貌

Wisła KrakówとVML Warsawの挑戦

Creative Commerce部門のGrand Prixは、ポーランドのサッカークラブ、ヴィスワ・クラクフとVML Warsawによる『Lucky Fan Index』が獲得しました。

このキャンペーンは、サポーターの間にある「自分が観に行くと勝てる」という信念を、来場、ロイヤルティ、収益を動かす仕組みへと転換したアイデアです。当時のクラブは2部に降格し、難しい時期を過ごしていました(参照*4)。このプロジェクトは、Cannes Lions International Festival of Creativity 2026で計6つの賞を獲得し、そのなかにGrand Prixが含まれます。ヴィスワはヨーロッパのクラブとして初めてGrand Prixを受賞しました(参照*5)。

降格という逆境の中で、勝敗そのものではなくファン一人ひとりの存在に意味づけをした点が、他の応募と大きく異なる出発点になっています。クラブ経営の課題を、創造性で顧客関係の再設計へと引き寄せた事例といえます。

AIが定量化する「ファンの幸運」の仕組み

『Lucky Fan Index』の中核は、AIによるファン単位の指標化にあります。

その仕組みは、200を超える試合メトリクスを分析する高度なアルゴリズムに基づいており、特定のファンがスタジアムにいるかどうかと照合します。試合結果だけでなく、攻撃、守備、試合のコントロール、決定的な局面といったチームのプレー品質を、そのファンがスタンドから応援していた時間に沿って評価します(参照*6)。WPPの発表では、このプロジェクトはAIを用いて25万人分のファンプロフィールを分析し、クラブのためにパーソナライズされたコマース機会を引き出したとされています(参照*7)。

数字にしにくかった「応援の効き目」を、試合の中身までさかのぼって定量化した点が特徴です。個々のファンに固有のスコアが生まれる構造は、チケット販売やグッズ提案の切り口を、集団向けから個人向けへと組み替える基盤になります。

観客動員42%増という商業成果

創造性が商業成果に結びついたことを示す数字も、審査で強く評価されました。

このキャンペーンは、ヴィスワ・クラクフが1部から降格していたにもかかわらず、試合の観客動員を42%増加させる上で重要な役割を果たしました。Phil Camarota氏は、クラブが創造性に頼り、チケットや体験の価値を高めるだけでなく、ファン自身に価値を感じさせる方法を見つけ出したとし、これまで見たことのない問題への向き合い方だったと評しました(参照*8)。

数字は結果ですが、その裏には「価値の提供先を、商品からファン自身に置き換える」という設計の転換があります。この視点の入れ替えは、スポーツに限らず、既存顧客との関係が停滞している事業にも応用しやすい考え方です。

Gold・Silver・Bronze受賞作と全体傾向

Gold・Silver・Bronze受賞作と全体傾向

受賞数の内訳と主要受賞作

『Lucky Fan Index』が獲得した6賞は、複数部門にまたがっています。

内訳は、Creative Commerce(Customer Acquisition & Retention)のGrand Prix、Creative Commerce(Entertainment Commerce)のGold、Brand Experience & Activation(Tech-Led Brand Experience)のGold、Entertainment Lions for Sport(Fan Engagement/Distribution Strategy)のGold、Creative Data(Data Storytelling & Narrative)のSilver、Direct(Use of Real-Time Data)のBronzeでした(参照*9)。フェスティバル全体では、WPP傘下のエージェンシー群がTitanium 1、Grand Prix 7、Gold 29、Silver 40、Bronze 63の計140 Lionsを獲得し、OgilvyとVMLがCreative Network of the Yearの1位と2位となりました(参照*7)。

1件のプロジェクトが顧客獲得、エンタメ、体験、データ、リアルタイム施策の各部門で評価されたことは、Creative Commerceが独立した領域ではなく、複数の専門を束ねる交差点であることを表しています。応募設計の段階から、どの断面で語るかを整理する意義が高まっています。

フランスBETCの『The Password Heist』ほか注目作

欧州の他国からも、Creative Commerce部門で成果が生まれました。

フランスは、BETCとBETC Fullsixがルロワ・メルラン向けに手がけた『The Password Heist』でSilver Lionを受賞し、パルマレスに名を連ねました。392件のキャンペーンのうち、最終ショートリストに残ったのは41件のみで、選考が厳しいカテゴリでの受賞となりました(参照*4)。

応募392件に対しショートリストが41件という比率は、Creative Commerceが単なる販促施策の集積ではなく、絞り込まれた事例で語られる領域であることを示します。受賞作の一覧を追うだけでなく、ショートリストに残った作品群まで確認することが、潮流を読む上で有効です。

日本・アジア勢のショートリストと存在感

日本・アジア勢のショートリストと存在感

アジアからの参加動向は、Creative Commerce部門の地理的な広がりを示す指標です。

Creative Commerce Lionsは地域の代表性が広く、シンガポール、インド、中国本土、アラブ首長国連邦からショートリスト作品が並び、インフルエンサーコマース、リテール体験、アクセシビリティ、社会的インパクトにまたがりました。具体例として、Social / Influencer CommerceではOgilvy Singaporeによるヴァセリン向けの『Vaseline Originals』、Entertainment CommerceではLeo India, MumbaiによるLenovo Laptop向けの『Gamers on Duty』が挙げられます(参照*10)。フェスティバル全体では、300名を超えるジュリーがカンヌに集まり、92か国から寄せられた20,050件の応募を審査しました(参照*3)。

参照した情報の範囲では、Creative Commerce部門のショートリストや受賞に、日本発の作品名は確認できませんでした。一方でアジア勢は、ソーシャル起点の購買や、ゲームを媒介にしたブランド体験などの切り口で存在感を示しています。

92か国、20,050件という応募規模と、地域横断のショートリストを踏まえると、日本市場向けの施策も、生活者の文化的文脈と購買動線を接続する視点で組み立て直す余地があります。国内での成功事例を、他地域のショートリスト作品と並べて読み比べることが、次の応募設計のヒントになります。

Creative Commerceに見る2026年の潮流

Creative Commerceに見る2026年の潮流

オンラインとオフラインの補完設計

デジタルと物理空間は、代替関係ではなく補完関係として捉えられています。

Phil Camarota氏は、デジタルはキュレーション、記憶、パーソナライゼーションに優れ、フィジカルは安心感、没入、関係構築に優れると整理しました。物理とデジタルの体験を丁寧に振り付けるケースを取り上げることで、この部門はオンラインとオフラインのコマースが代替関係ではなく補完関係にあると示せる、と語っています(参照*2)。

この見方は、EC強化か店舗改装かという二者択一で語られてきた議論に、別の軸を差し込むものです。両者の得意領域を書き出し、顧客が価値を感じる瞬間ごとに、どちらが主役でどちらが支えるかを設計する視点が求められます。

ロイヤルティの再定義とリアルタイム性

Grand Prix受賞チームの言葉は、Creative Commerceの本質を端的に語っています。

最もインスピレーションを受けるのは、効率性と感情のどちらかを選ぶ必要がないという点であり、『Lucky Fan Index』は、プロジェクトが売上を押し上げ、ブランドを築き、人々の体験の一部になることを同時に実現できると示していると述べられました(参照*9)。Creative Commerce部門の対象領域には、ブランドロイヤルティを育むコミュニティ施策やロイヤルティ構築プログラムも含まれています(参照*1)。

効率と感情を対立させず、両立させる設計思想は、既存の顧客プログラムを見直す起点になります。リアルタイムのデータで、その瞬間のファン体験に意味を返す流れは、購買後の関係づくりまで含めた再設計を促しています。

おわりに

カンヌライオンズ2026のCreative Commerce部門は、値引きに頼らず、創造性で商業成果を動かした作品が評価される場となりました。Grand Prixの『Lucky Fan Index』は、AIで25万人分のファンプロフィールを分析し、降格下のクラブで観客を42%増やした、感情と数字を両立させた事例として象徴的でした。

欧州、アジアを含む多地域からの受賞とショートリストは、Creative Commerceが世界共通の課題領域になっていることを示します。国内の作り手にとっては、経営層が抱く想いを言葉に起こし、顧客との新しいつながりへ翻訳する作業が、次の応募と事業成果の両方を支える出発点になります。

お知らせ

カンヌライオンズ・2026・Creative×Commerceが提示した顧客体験の新基準を受け、想いを言語化するインナー・コピーライティングが企業と社会のつながりを深化させ、コミュニケーション戦略へと自然に橋渡しします。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

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