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カンヌライオンズ2026「Creative B2B部門」受賞作まとめ

この記事のまとめ

カンヌライオンズ2026のCreative B2B部門では、355件の応募から11作品が受賞し、その頂点であるGrand PrixはSKFによる『The Faroe Islands Space Program』が獲得しました。この記事では受賞作の全体像を、以下の観点で整理してお伝えします。

  • 開催期間と部門の定義
  • Grand Prix・Gold・Silver・Bronzeの各受賞作
  • 審査員長Ty Heathが語った評価軸
  • 日本関連の受賞状況とB2B領域の潮流

カンヌライオンズ2026の全体像

カンヌライオンズ2026の全体像

開催概要と位置づけ

カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルは、世界のクリエイティブ表現の水準を測る場として位置づけられています。

2026年の開催は6月22日から6月26日までの5日間で、フランスのカンヌに世界中の専門家が集まり、審査と発表が行われました。運営側は、この場に招かれた審査員たちを「グローバルなクリエイティブの基準を定める例外的な専門家集団」と紹介しています(参照*1)。

Creative B2B部門はこのフェスティバルのなかで、企業間取引を担うブランドの表現を評価する枠として設けられています。受賞発表はフェスティバル会期中に順次行われ、各部門のGrand Prixから下位のLionまでが公表されました。

Creative B2B部門の定義

Creative B2B部門は、企業の意思決定者に向けて設計された商品・サービス・体験を対象としています。

公式の説明では、対象は「企業を代理して専門家が購入するあらゆる製品またはサービス」とされ、部門内にはチャネル横断の物語設計(Cross-Channel Storytelling)のように、オンライン・オフラインを横断してブランドや商品のメッセージを届ける表現を評価するカテゴリーが用意されています(参照*2)。別の紹介では、B2Bブランドが需要創出、信頼、差別化、そして測定可能な成長をつくるうえで、創造性を中心に据える取り組みを評価する部門だと説明されています(参照*3)。

つまりこの部門は、消費者ではなく職業人に向けた表現でも、感情や物語、体験の設計が評価対象になることを示しています。B2Bという領域でも、単なる仕様説明を超えたブランド構築が問われる場だといえます。

Creative B2B部門の審査結果

Creative B2B部門の審査結果

応募数と受賞数の内訳

2026年のCreative B2B部門は、応募件数と受賞点数のバランスから、選考の厳しさがうかがえます。

発表によれば、Creative B2B Lionsに寄せられた355件の応募のうち、受賞したのは11作品でした。内訳はGrand Prixが1作品、Gold Lionが2作品、Silver Lionが4作品、Bronze Lionが4作品という構成です(参照*4)。同じ内訳はアジア圏の業界メディアでも伝えられています(参照*5)。

この数字を見ると、応募のうち受賞まで到達したのは全体の3%程度にとどまります。企業間取引に関わる表現でも、限られた枠に世界中の応募が集中し、通過は狭き門であることが読み取れます。

審査員長Ty Heathの評価軸

審査を統括した審査員長は、B2B表現に求める姿勢を明快に語りました。

2026年のCreative B2B Lions審査員長は、LinkedInでGlobal Director, Thought Leadership, GTM Strategyを務めるTy Heathです(参照*3)。Ty HeathはGrand Prixを獲得したSKFについて、産業用ベアリングと摩擦低減の世界的リーダーであるSKFが、合理的な仕様説明という定石を完全に退け、代わりに「摩擦のない働き」への信念を体現するために実際の宇宙計画を作り上げたと評しました。そのうえで「見逃せず、忘れられず、極めて独自性が高い。これがB2Bにおけるクリエイティブの勇気だ」と述べ、コモディティ領域におけるクリエイティブの勇気が実際の事業成果につながることを、SKFが証明したと語っています(参照*6)。

この評価軸は、スペック訴求から離れる大胆さと、それが事業成果に結びつくかどうかを両立させることを重視しています。B2B表現の作り手が何を目指すべきかを示す言葉として受け止められます。

Grand Prix受賞作「The Faroe Islands Space Program」

Grand Prix受賞作「The Faroe Islands Space Program」

SKFとNORD Stockholmの挑戦

Grand Prixに選ばれたのは、スウェーデンの技術・製造企業SKFの取り組みです。

受賞作の正式なエントリーは『THE FAROE ISLANDS SPACE PROGRAM』で、カテゴリーはA11、応募主体はSKFのTECHNICAL SOLUTIONS AND INNOVATIONS, BEARINGS, SEALS AND LUBRICATION、制作はストックホルムのNORDです(参照*7)。この作品は、Creative B2B部門の11受賞作のなかで唯一のGrand Prixに輝き、スウェーデンにこの部門の頂点をもたらしました。同国は同じ年のフェスティバルで、Lions Health & UN Grand Prix for Goodの『Vehicle of Hope』も獲得しています(参照*8)。

SKFはベアリングや産業用部品の製造で知られる企業で、フェロー諸島での潮力発電プロジェクトにおける役割を伝えるため、潮力エネルギー開発のMinesto、地元電力会社のSEVと組み、地球を離れない「宇宙計画」を立ち上げました。この計画によって、B2Bのコミュニケーションが地球規模のサステナビリティに関する対話へと転換したと評価されています(参照*9)。

『月の力』への発想転換

この作品の中核にあるのは、シンプルな観察に基づく発想の転換です。

作品の着想は「潮汐は月の重力によって生まれる」というひとつの観察に基づいています。潮力エネルギーを『moon power(月の力)』として捉え直すことで、宇宙探査の言葉と美意識を使い、新興の再生可能エネルギー技術の物語を語る構成になりました(参照*9)。

産業用ベアリングという一見地味な領域を、宇宙という文脈に置き換えることで、専門的な話題を広い読者に届く物語へと引き上げています。B2Bという文脈でも、比喩の設計次第で語り口が大きく変わることを示す事例だといえます。

Gold Lion受賞作

Gold Lion受賞作

Soil Stay(Tra Mongkut Fertilizer)

Gold Lionの1作目は、タイの肥料ブランドによる取り組みです。

受賞作『SOIL STAY』はTRA MONGKUT FERTILIZERのためにバンコクのVMLが制作し、PRはバンコクのVERVE PRが担当しました。エントリー番号はA02、制作国はタイと記録されています(参照*7)。この作品はBrand Experienceのカテゴリーで金賞を得ており(参照*10)、VML Bangkokにとってのハイライトのひとつだと伝えられています(参照*5)。

アジア発の肥料という産業領域から金賞が生まれた点に、Creative B2Bの多様さがうかがえます。

Tocayos(Heineken)

Gold Lionのもう1作は、ビールブランドHeinekenの企画です。

受賞作『TOCAYOS』はHEINEKEN BEERを対象とし、制作はミラノのLEPUB、協力はマドリードのANTIESTATICO、エントリー番号はA04で、制作国はイタリアと記録されています(参照*7)。カテゴリーはTargeting & Engagementで、この領域における金賞として紹介されています(参照*10)。

消費者向けブランドとして広く知られるHeinekenが、B2Bの枠組みで金賞を得ている点は、ブランドの二面性を活かした表現設計の可能性を感じさせます。

Silver・Bronze受賞作

Silver・Bronze受賞作

Silver Lion受賞4作品

Silver Lionには4作品が並び、地域と題材の広がりが際立ちます。

公式リストによれば、受賞は次の4作品です。

  • 『THE TROJAN FAX』(IUCN FRENCH COMMITTEE×FUJIFILM、制作:パリのBETC、フランス)
  • 『REVERSE MEDIA SCHEDULE』(SEA CLEANERS&JCDECAUX、制作:オークランドのDENTSU CREATIVE、ニュージーランド)
  • 『KEEP THINKING』(CLAUDE、制作:ロンドンのMOTHER、イギリス)
  • 『VASELINE ORIGINALS』(VASELINE、制作:OGILVY SINGAPORE、シンガポール)

いずれもエントリー番号と対象カテゴリーが公表されています(参照*7)。このうち『REVERSE MEDIA SCHEDULE』は、Dentsu Creative Aucklandが、Carat Auckland、JCDecaux New Zealand、Nielsen Auckland、Sea Cleaners Aucklandと組んで制作し、海岸に打ち上げられるゴミを「意図せぬブランド広告」として捉え直し、監査データと視聴者モデリングから、清掃活動への出資に商業的な意義があることを示した企画です(参照*11)。

Bronze Lion受賞4作品

Bronze Lionにも4作品が選ばれ、テーマは環境・社会性から市場破壊まで幅広く並びました。

業界メディアの紹介によると、受賞は次の4作品です。

  • 『DARK MODE ADS』(PLENITUDE、制作:LEPUB、Innovative Use of Content)
  • 『THE PUB THAT REFUSED TO DIE』(HEINEKEN、制作:LEPUB、Corporate Purpose & Social Responsibility)
  • 『T-REX LEATHER』(LAB-GROWN LEATHER、制作:VML、Market Disruption)
  • 『¡HOLA!』(COLAS ICELAND、Market Disruption)

これらはフェスティバル初日の受賞紹介で並記されています(参照*10)。上位を得たBETCも、Creative B2Bでは『THE TROJAN FAX』のSilver Lionにあわせ、Print and PublishingのGold LionやOutdoorのBronzeを他部門で獲得しており、複数部門をまたぐ活躍が伝えられています(参照*8)。

日本関連の受賞状況と示唆

日本関連の受賞状況と示唆

Creative B2B部門の2026年の受賞11作品を確認すると、参照可能な公式リストと業界メディアの紹介のなかに、日本の企業や日本拠点の制作会社を主体とする作品は見当たりません。受賞国として名前が挙がっているのは、スウェーデン、タイ、イタリア、フランス、ニュージーランド、イギリス、シンガポール、アイスランドといった顔ぶれです(参照*7)。

ただしSilver Lionを獲得した『REVERSE MEDIA SCHEDULE』は、Dentsu Creative Aucklandがオークランド拠点で制作した企画であり、グループとしての実績には日本発のネットワークが関わっています(参照*11)。この事実は、日本の産業界がCreative B2Bという評価軸をどう受け止め、経営層の言葉や事業の意義を国際基準の表現へと翻訳していけるかという問いを投げかけているとも読めます。

B2Bクリエイティブに見る潮流

B2Bクリエイティブに見る潮流

2026年のCreative B2B部門の受賞傾向からは、いくつかの潮流が読み取れます。

ショートリストを紹介した業界メディアは、「B2Bマーケティングはもはや、合理的・技術的・商品中心の主張だけで定義される時代ではない」と整理し、企業ブランドがエンターテインメント、テクノロジー、コンテンツ、データ、デザイン、影響力、パーパスを用いて、より人間的で記憶に残る形で職業人にアプローチしていると解説しました(参照*3)。Grand Prixに関する評として、コモディティ領域におけるクリエイティブの勇気が実際の事業成果につながることをSKFが証明したという言葉も紹介されています(参照*6)。潮汐エネルギーを『月の力』と捉え直したSKFの発想は、その象徴だといえます(参照*9)。

この潮流は、経営層が持つ想いや事業の意義を、社内の合意形成と社外への発信の両面で言語化していくことの重みを、あらためて浮かび上がらせています。事業の内側にある信念を外に向けて翻訳する作業が、B2Bの表現でも中心に置かれ始めているといえます。

おわりに

2026年のCreative B2B部門は、355件の応募から11作品が選ばれ、Grand PrixにはSKFとNORD Stockholmによる『The Faroe Islands Space Program』が輝きました。仕様説明ではなく、月と潮汐という比喩を軸にした語り口が、B2B表現の可能性を大きく広げています。

Gold以下の受賞作にも、環境、社会、産業のあり方を問い直す視点が並びました。経営者や担当者の想いを言葉に変え、社内から社外へと伝えていく作業の重みを、あらためて確認できる年になったといえます。

お知らせ

カンヌライオンズ2026で示されたCreative B2Bの潮流を踏まえ、ブランドの想いを言語化して社会との新しいつながりを生むコミュニケーション設計が重要です。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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