
この記事のまとめ
カンヌライオンズ2026のCreative Data部門は、データを人の課題解決に結び付けた作品が評価されました。要点は次のとおりです。
- グランプリはペルーのBCP銀行『SOS POS』で、決済端末を口座凍結の緊急拠点に変える発想が受賞
- 審査員長は「大きなデータ」「小さなデータ」「見えないデータ」の3つの潮流を提示
- Suncorp『Haven』やHyundai『Forests Without Names』、Mastercard『Here to Stay』が注目作として登場
- 日本からはCreative Data部門での受賞情報は確認できず、他部門での動きが報じられた
Creative Data部門とは

部門の定義と評価軸
Creative Data部門は、データを起点に発想したアイデアをビジネスや社会の成果につなげた仕事を評価するカテゴリーです。
2026年のカンヌライオンズは6月22日から26日までフランス・カンヌで開催され、世界の広告・マーケティング関係者が集う祭典として運営されています(参照*1)。Creative Data部門では、データを活用したアイデアをビジネスに活かした事例が表彰対象とされます(参照*1)。
評価軸は、データ量の多さではなく、そのデータで何を解いたかに置かれています。読者としては、事例を見るときに「どんなデータを、どんな課題に、どう結びつけたか」という3点で整理すると理解が進みます。応募側の視点では、扱うデータの規模より、発想と実装の質が問われる部門だと捉えられます。
2026年新設カテゴリーの変化
2026年のCreative Data部門では、新カテゴリーが加わりました。
公式のカテゴリー説明では、C01「Data Infrastructure & Architecture Innovation」が新設され、突破口となるデータ基盤、システム設計、データ管理プラットフォームによって実現した創造的な解決策を対象としています(参照*2)。あわせてC02「Data-Driven Media Innovation」とC05「AI Craft」も新設されました(参照*2)。
新設カテゴリーからは、データ基盤やAI活用に加えて、メディア活用も評価の切り口として明示されたことが読み取れます。実務担当者にとっては、応募時にインフラ設計やAI固有の価値を語る余地が広がったと読み取れます。
グランプリ受賞作『SOS POS』

ペルーBCP銀行の社会課題
グランプリの背景には、ペルーで深刻化するスマートフォン盗難という社会課題があります。
ペルーでは毎日4,000台を超える携帯電話が盗まれており、銀行アプリが端末に紐づくため、被害者は数分のうちに端末と口座の両方へのアクセスを失う状況に置かれていました(参照*3)。ペルーの銀行BCPはこの問題に対し、支払い端末を通じて口座アクセスを止められるサービスSOS POSを立ち上げ、食料品店・薬局・花屋を含む17,500以上の店舗に展開し、多くの住民が2分以内に緊急停止拠点へ到達できる状態を整えました(参照*3)。
課題の性質は、被害の速度に対して被害者の対処手段が追い付かないという時間差にあります。ここから、緊急時に「どこで」「どれだけ速く」動けるかが設計上の焦点になったと読み取れます。
決済端末を命綱に変える発想
SOS POSの核は、既存の決済端末を役割の異なる「命綱」として再定義した点にあります。
この施策は、支払い端末を役割軸ではなく機能軸で見つめ直すことで生まれ、導入以降、スマートフォンを通じた金融犯罪の通報件数は48%低下し、780万ドル相当の口座情報が窃盗犯から守られたと報告されています(参照*1)。制作面では、リマのCircus GreyがBCP向けに設計し、日常的なカードマシンを危険な状況にある人々の頼りへ変える発想で、レジの中にすでにあるデータだけで成立させた点が特徴として紹介されています(参照*4)。
既存インフラの再定義という切り口は、新しい端末や新規開発に頼らずに社会課題へ届かせる型を示しています。担当者としては、自社の稼働資産を別の役割で語り直せないかという問いに翻訳できます。
審査員長の評価コメント
審査員長は、SOS POSを人の課題を解いた仕事として位置づけました。
Creative Data Lionsの審査員長を務めたPublicis Groupe South Asia CEOのAnupriya Acharya氏は、SOS POSについて「人間の問題を解決し、差別化が難しい銀行カテゴリーで信頼を強め、Creative Dataが人々と社会の保護を広げつつ事業成果を生み出せることを示した」と評価しました(参照*5)。同氏は受賞理由を語る際、これは「データがデータを守る」事例であり、それが飾らない簡潔さで表現されていると述べています(参照*4)。
評価の軸は、事業効果と社会的インパクトの両立に置かれていました。差別化が難しい業種でも、顧客の切実な瞬間に応える設計が信頼の源泉になり得るという示唆が読み取れます。
審査員長が示した3つのトレンド

複雑データを人の役に立てる潮流
1つ目の潮流は、大規模で複雑なデータを人の役に立てる方向へ結び付けた仕事です。
審査員長は、複雑さを誇示するためではなく意味のある問題を解くために大規模データを使ったブランドがあったと語り、Suncorp AustraliaのHavenが気候・不動産・災害データを住宅ごとの防災計画に変えたこと、McCann NZのFantasy Herdが酪農のライブデータを娯楽に変えたこと、Philipstown WireCar Grand Prixが地図データと実レースデータで地域の子ども向け伝統を世界に開く体験に変えたことを例示しました(参照*6)。同氏の整理では、この一群は「大きなデータ、より大きな胆力」と呼ばれ、規模に挑んで結果を出した仕事として位置づけられました(参照*4)。
この潮流は、量そのものではなく、量を人の生活へ翻訳する設計に価値があることを示しています。担当者は、社内の大規模データを「誰の、何の判断を助けるか」で語り直す視点を持てます。
小さなデータと発想の飛躍
2つ目の潮流は、控えめなデータでも発想の飛躍が大きな作品群です。
審査員長は、SOS POSが苦情データと位置データを使って決済端末を緊急保護拠点に変えたこと、そしてSkodaのDuoBellが音響データで安全上の隙間に応えたことを挙げ、これらの作品が「Creative Dataはデータの量ではなく使い方だ」と証明したと述べました(参照*7)。同氏はこの一群を「小さなデータ、鋭い機知」と呼び、データは控えめでも想像の跳躍が大きい仕事として位置づけました(参照*4)。
この視点は、データ資産が限られた組織にも希望を与えます。手元の記録を別の文脈につなぎ直すという発想が、規模の壁を越える鍵になると読み取れます。
見えない現実を可視化する仕組み
3つ目の潮流は、見えない現実を可視化し、そこから行動できる仕組みへつなげた作品です。
審査員長は、この一群を「見えないデータが変化の仕組みになる」と表現し、データで不可視の現実を見えるようにし、その周りに仕組みを築いた仕事群だと整理しました(参照*4)。具体例として、MastercardのHere to Stayが移民の潜在的な低就業をキャリア経路と経済機会に変えたこと、HyundaiのForests Without Namesが断片化した海藻データを共有の環境マッピング基準に変えたこと、Hospice NZのDying Reviewsが終末期にある人々のニーズを組織に可視化したことが挙げられ、「最良の仕事は問題を明らかにするだけでなく、行動する方法を作り出した」と評されました(参照*6)。
可視化を「見せる」で終わらせず、動ける仕組みまで設計する姿勢が共通点です。担当者は、可視化の次に用意する行動導線までを企画段階から描く必要があります。
注目の受賞作ラインアップ

Suncorp『Haven』の気象リスク可視化
Havenは、住宅ごとに気象リスクを描き出すデータ主導のデジタル基盤です。
Suncorp Havenは、オーストラリアの1,100万戸の住宅所有者に、自宅固有の気象リスクと防災の必要性を映像的なレポートとして届けるプラットフォームで、Suncorp独自の災害リスクデータやインサイトを含む巨大なデータ群を、住宅ごとに個別化した高度なWebGLの地理可視化で表現し、NASA AMMOSと新たに公開されたGoogle 3D Tilesを組み合わせて、標準APIでは届かない映像品質を実現しました(参照*8)。公開後は28万人超の訪問、平均滞在2分55秒、全国紙で200万を超えるリーチと139本の掲載を獲得し、IPSOSの調査では利用者の95%が有益で魅力的と回答、74%が自宅の防災対策を進める意向を示したと報告されています(参照*8)。
巨大データを個別体験まで落とし込む設計が、態度変容にまで届いた点が特徴です。担当者は、可視化の解像度と滞在時間の関係を設計指標として意識できます。
Hyundai『Forests Without Names』
Forests Without Namesは、海の森である海藻のデータを共有基準へ育てた仕事です。
Hyundai向けのForests Without Namesは、断片化していた海藻のデータを、共有の環境マッピング基準に変えた作品として紹介されました(参照*6)。この作品は審査員長が示した「見えないデータを行動の仕組みに変える」流れに位置づけられ、可視化を超えて共通基盤の整備へ踏み込んだ事例として語られました(参照*6)。
断片化の解消を単発の発信で終わらせず、業界や研究が共に使える基準へ育てる発想が読み取れます。ブランドの関与が、公共財としてのデータ整備につながる余地を示しています。
Mastercard『Here to Stay』
Here to Stayは、移民の働き方に関する現実を機会につなぎ直した仕事です。
MastercardのHere to Stayは、移民の低就業という不可視の課題をキャリア経路と経済機会へ変えたと紹介され、審査員長が挙げた「見えない現実を可視化し、行動可能にする」潮流の代表例として位置づけられました(参照*6)。同じ潮流の中で、審査員長は「最良の仕事は問題を明らかにするだけでなく、行動する方法を作り出した」と総括しました(参照*6)。
課題提示から機会設計までを一連の流れで描く点が学びどころです。担当者は、可視化の後に用意する具体的な受け皿づくりを設計に組み込めます。
日本勢の動向と学び

Creative Data部門における日本勢の受賞情報は、参照した記事の範囲では確認できません。日本発の話題としては別部門とプログラムでの動きが報じられました。
花王の3D探索型ホラーアクション兼清掃シミュレーションゲーム『しずかなおそうじ』は、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2026の「Entertainment Lions for Gaming」部門でブロンズライオンを受賞し、これは花王として初のカンヌライオンズ受賞と発表されました(参照*9)。また、国内で開催された「マーケティングアジェンダ2026」会期中の若手クリエイター向けコンペティション「ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2026」でグランプリが決まり、これはカンヌライオンズ内の「ヤングライオンズコンペティション」から着想を得たプログラムだと紹介されました(参照*10)。
Creative Data部門の受賞作を見返すと、扱うデータの規模より、既存資産の再定義や見えない現実への接近が共通点でした。日本の担当者にとっては、社内にある業務データや顧客接点を、別の役割で語り直せるかという問いが起点になります。まず自社の稼働資産を棚卸しし、誰のどの瞬間に届くかを言語化してから、データの使い方を設計する順序が有効だと読み取れます。
おわりに
カンヌライオンズ2026のCreative Data部門は、データそのものの派手さではなく、データで何を解いたかを問う受賞傾向を示しました。グランプリのSOS POSに象徴されるように、既存の端末や記録を別の役割で語り直す発想が、社会課題と事業成果の両方に届いています。
審査員長が示した3つの潮流は、規模の異なる組織にも応用可能な視点を含みます。手元にあるデータと接点を棚卸しし、誰のどんな瞬間に届けるかを言葉にすることから、次の企画を組み立てていく視点が持てます。
お知らせ
カンヌライオンズ、2026、Creative Dataが示す洞察は、想いの言語化とコピーライティングで社会との新しいコミュニケーションを生む出発点です。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) PR EDGE – 【速報】カンヌライオンズ2026「Engagement」部門グランプリ受賞作品まとめ
- (*2) Creative Data | Lions | Awards | Cannes Lions
- (*3) Cannes Lions 2026: Creative Data winners
- (*4) What it takes to win: Anupriya Acharya on the Cannes Lions’ creative data jury
- (*5) The Drum – Cannes Lions 2026: Watch every Grand Prix winner
- (*6) Campaign Brief Asia – Cannes Creative Data Lions 2026: Anupriya Acharya identifies three trends shaping the category
- (*7) BMI – Anupriya Acharya identifies three creative data trends emerging from Cannes Lions 2026
- (*8) HAVEN | Entry
- (*9) 時事ドットコム – 花王『しずかなおそうじ』が「カンヌライオンズ2026」でブロンズライオンを受賞 花王初の受賞、若年層との新たな接点創出の取り組みが国際的に評価
- (*10) 時事ドットコム – 当社社員 高井佑輔と中村はづきのチームが「ヤング・クリエイティブ・アジェンダ2026」でグランプリを受賞!