
この記事のまとめ
カンヌライオンズ2026のSocial & Creator部門を、受賞作と審査の視点から整理します。要点は次のとおりです。
- グランプリはHeinekenの「Could Have Been a Heineken」で、WhatsAppの長いボイスノートを対面の乾杯に置き換える施策でした。
- ゴールドライオンにはKitKat、Popeyes、Vaseline、Uber、Coca-Cola、Lego、Doveの各キャンペーンが並びました。
- 審査員長はLePubのMihnea Gheorghiu氏、審査員には博報堂のSatoshi Chikayama氏が入りました。
- クリエイターは制作の主体として、経営層のメッセージ開発にも近づいています。
Social & Creator部門の定義と位置づけ

部門が評価する対象領域
Social & Creator部門は、ソーシャル領域とクリエイター起用の両輪を評価する部門です。
この部門は、創造的なソーシャル思考と戦略的なインフルエンサーマーケティングを表彰します。受賞事例は、エンゲージメントの水準、ソーシャル上のリーチ、そしてソーシャルメディア、ブランドアンバサダー、クリエイター、著名人、インフルエンサーの創造的な活用が、どのように商業的な成功につながったかを示さなければなりません(参照*1)。
つまり、拡散の数字を追うだけではなく、事業成果まで因果を通した設計が求められます。ブランド側から見ると、話題化と売上の橋渡しを説明できる筋書きが評価の入口になります。クリエイター側から見ると、単発の投稿ではなく、ブランドの中に入り込んで役割を担う姿勢が問われます。
「Social & Creator」という部門名そのものが、ソーシャルとクリエイターを一体として扱う方針を示しており、両者を切り分けずに設計することが応募段階からの前提になります。
2026年の審査体制と審査員長
審査体制は、審査員長と国際色ある審査員の組み合わせで構成されました。
Social & Creator部門の審査員長は、LePub グローバルのGlobal Chief Creative Officerを務めるMihnea Gheorghiu氏です。第73回のカンヌライオンズは2026年6月22日から26日までフランス・カンヌで開催されました(参照*2)。
審査員には、VMLのRafael Pitanguy氏、Clemenger BBDOのAmy Weston氏、Droga5 São PauloのBrisa Vicente氏、McCann北米のBritt Nolan氏、Dentsu Creative インドネシアのDefri Dwipaputra氏、Grey LondonのHelen Rhodes氏、MetaのJulie Hogan氏、LePub メキシコのRicardo Avilés氏、博報堂のSatoshi Chikayama氏、Safaricom/MPESAのZizwe Vundla氏が名を連ねました(参照*3)。
LePubはグランプリ作品の制作にも関わっており、部門全体の方向性を読むうえでも接点として押さえておきたい存在です。日本からも審査員が入っており、応募の潮流をつかむ手がかりになります。
グランプリ「Could Have Been a Heineken」

施策の背景とインサイト
グランプリを受賞したのはHeinekenの「Could Have Been a Heineken」です。
この施策は、長すぎるWhatsAppのボイスノートを、対面で会うきっかけに変える発想で組み立てられました。制作はLePub MilanとLePub São Pauloで、実験の舞台はボイスノートの利用が世界平均の4倍にのぼるブラジルです(参照*4)。
背景データとして、WhatsApp上では1日あたり90億通以上のボイスノートが送られ、人々は年間150時間をボイスノートの視聴に費やしています。さらにHeinekenの調査では「ボイスノートが対面で会う機会を代替している」と答えた人が過半数にのぼり、その傾向はZ世代で強い、と示されました(参照*5)。
ビール銘柄が語りかける文脈として、「画面から離れて、直接会って乾杯しよう」という誘いは自然に響きます。生活の中に定着した習慣の負の面をブランドが引き受ける姿勢が、企画の芯になっています。
WhatsAppボットの仕組み
仕組みはシンプルで、日常のやりとりに軽く滑り込む設計です。
利用者は3分以上のボイスノートを受け取ったとき、それをWhatsApp上のボットに転送すると、Heineken1杯と交換できるバウチャーを受け取れます。あわせて、対面で会える近くのバーの推薦も届く仕組みです(参照*4)。
受賞をめぐる紹介でも、この施策は「WhatsAppのボイスメッセージを、再びつながるための招待状に変えた」と説明され、画面から離れて1杯を分かち合う行動に報いる設計が評価されました(参照*6)。
新しいアプリを作らず、すでに生活に根付いたWhatsAppの上に行動の分岐を置く判断は、参加のハードルを下げます。ブランドが提供するのは製品ではなく、行動を切り替える理由と機会だと言えます。
成果と評価されたポイント
成果は数字と評価の両面で確認できます。
施策は82か国で話題となり、合計280時間ぶんのボイスノートがビールに置き換えられました(参照*5)。
Social & Creator部門のグランプリは、LePub Milanが手がけたHeinekenの「Could Have Been a Heineken」に贈られた、と各媒体が伝えています(参照*7)。
評価軸で見ると、生活者の課題認識、既存プラットフォームの活用、リアル店舗への送客までを一つの線で結んだ点が強みです。ソーシャル上の話題を、対面での消費行動に接続する設計は、部門の定義そのものに素直に応えています。
ゴールドライオン受賞作の全体像

受賞作品リストと傾向
ゴールドライオンには、地域も業種も幅広い作品が並びました。
Social & Creator部門のゴールドライオン受賞作は次のとおりです。
- Popeyes Louisiana Kitchenの「Pope Yes」(Gut Miami)
- Vaselineの「Vaseline and the Real Nigerian Prince」(Leo, Singapore)
- Vaselineの「Vaseline Originals」(Ogilvy Singapore)
- Uberの「Uberlândia E.C.」(Wieden+Kennedy, São Paulo)
- KitKatの「The KitKat Heist」(VML, London)
- Coca-Colaの「Chicken Screams for Coke」(VML, New York)
- Legoの「Everyone Wants a Piece」(Wieden+Kennedy, AmsterdamおよびOur Lego Agency, Billund)
- Dove Hairの「Dove R/eal Reviews」(David, LondonおよびDavid, Madrid)
(参照*4)
食品、飲料、日用品、モビリティ、玩具まで散っており、業種横断でソーシャル設計の巧拙が問われた1年だとわかります。制作拠点はマイアミ、シンガポール、サンパウロ、ロンドン、ニューヨーク、アムステルダム、ビルン、マドリードと分散しています。
注目事例「The KitKat Heist」
個別事例で押さえたいのがKitKatの「The KitKat Heist」です。
この作品はVML LondonとBursonが手がけ、PR部門でグランプリと2つのゴールドライオンを、MediaとSocial & Creator部門でゴールドライオンとシルバーライオンを獲得しました。企画は現実に起きたサプライチェーンの事故を、参加型のブランドストーリーに変えたものです。イースター直前、輸送中に12トンのKitKatが姿を消したところ、VML LondonとBursonはニュースを隠さず公開に切り替え、消費者を「事件解決」に招き入れました(参照*8)。
危機を隠すのではなく、物語の入口として開くという判断は、ソーシャル上の関与を引き出す設計として機能しました。ブランドが自ら弱みを提示することで、生活者側に「参加する余白」が生まれます。Social & Creator部門で複数の階級をまたいで評価された事実は、ソーシャルとPRの境界が薄いことも示しています。
日本関連の動きと審査員

日本からの動きは、審査員側での存在感が中心です。
Social & Creator部門の審査員として、博報堂のExecutive Creative DirectorであるSatoshi Chikayama氏が名を連ねました。加えて、Sustainable Development Goals部門ではEarth Centric DesignのChief Creative Officer兼CEOであるKazoo Sato氏が審査員に入りました(参照*3)。
アジア太平洋地域の全体傾向としては、オーストラリアがTitanium Grand Prixを獲得して閉幕した一方、APAC全体の受賞総数は前年から大きく減った、と報じられました(参照*9)。
Social & Creator部門の日本作品の受賞情報は、本記事で参照した範囲では確認できません。審査員としての参画が示すのは、日本の視点が評価側で反映されているという事実であり、応募側の設計にも影響が及ぶ位置にあると読めます.
受賞作が示すクリエイター起用の潮流

クリエイターの役割変化
クリエイターは、単なる出演者から企画の当事者へと役割が動いています。
2025年に始まったCreator Passは1,494ユーロ(1,732ドル)で、法人マーケター向けの「クラシック」パスの4,465ユーロ(5,178ドル)と比べて約70%安く、ネットワーキング、円卓討議、そしてPalais des Festivalsの数百のセッションへのアクセスを提供します(参照*10)。
TikTokは開幕日の2026年6月22日にSymphony Agentを発表し、16名のクリエイターを会場に招きました。最初に導入するブランドはStarbucksで、2024年に始めた社員コンテンツ施策「Green Apron Creator Program」を土台に、2026年夏に運用を開始します(参照*11)。
参加費の設計と登壇の場が整ったことで、クリエイターは「呼ばれる側」から「議論に加わる側」へ移りつつあります。Social & Creator部門の受賞作を読むうえでも、この背景を押さえておくと成り立ちが見えてきます。
ブランド経営層との対話の深化
受賞作の裏側で進むのは、ブランド経営層とクリエイターの直接対話です。
UTAは、スポーツ、ファッション、食、ライフスタイル、ニュースにまたがる70名超のクリエイターを招いた招待制ディナーを開きました。ステージに立ったP&GのChief Brand Officerを務めるMarc Pritchard氏は、ブランド構築を3つの声、すなわちブランド自身の声、クリエイターとインフルエンサー、著名人、アフィリエイトを束ねた「エキスパートの声」、そして生活者の声で捉える枠組みを提示しました(参照*12)。
ブランド側の言葉と、クリエイターの言葉を、生活者の言葉と並べて設計する姿勢が語られたことは重要です。経営層の想いを言語化し、外側の声と接続する動きは、社内のメッセージ開発と外部発信の距離を縮めます。Social & Creator部門の受賞作が対面や参加を軸に据えていることは、この考え方と地続きにあると読めます。
おわりに
Social & Creator部門は、ソーシャル上の話題づくりと、事業成果への接続を同じ土俵で問う部門です。グランプリのHeinekenは、生活に染み込んだボイスノートの負の側面を反転させ、対面での1杯につなげました。ゴールドライオンには、危機を物語に転じたKitKatをはじめ、業種も国もまたぐ作品が並びました。
日本からは審査員としての参画が確認できました。経営層の想いを言葉にし、クリエイターや生活者の声と重ねていく設計が、次の応募を考えるうえでの手がかりになります。
お知らせ
カンヌライオンズ 2026で注目されるSocial & Creatorの潮流を踏まえ、想いをインナー・コピーライティングで言語化し、共感を呼ぶコミュニケーションへとつなげます。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) Social & Creator
- (*2) Cannes Lions reveals 2026 Jury Presidents
- (*3) Cannes Lions announces 2026 Awarding Jury line-up
- (*4) Cannes Lions 2026: Social & Creator winners
- (*5) note(ノート) – カンヌライオンズ2026 速報 – クリエイティブ・データ部門、ソーシャル&クリエイター部門
- (*6) KitKat Wins PR Grand Prix For Turning A Crisis Into A Cultural Moment
- (*7) Uber Eats Triumphs on Day 3 of Cannes Lions 2026 Among 5 Grand Prix Winners
- (*8) Cannes 2026: Social & Creator; Direct; Media; Creative Data; PR
- (*9) Campaign Asia – Cannes Lions 2026
- (*10) Digiday – Cannes this year marks a real tipping point for creators
- (*11) TikTok Symphony Agent: Cannes 2026 Creative AI Guide
- (*12) Digiday – Cannes Briefing: Creators didn’t come to Cannes for parties this year. They came for briefs.