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カンヌライオンズ2026「Creative Business Transformation部門」受賞作まとめ

この記事のまとめ

カンヌライオンズ2026のCreative Business Transformation部門では、152件のエントリーから7つのライオンが選ばれました。この記事では受賞作の全体像と、日本の作品状況までを整理してお伝えします。

  • グランプリはギリシャのWikifarmerとMcCann Athensによる「The Wedding Rice」
  • ゴールドはM&M’sとBBDO Chicagoの「Protect the Peanut」
  • シルバー・ブロンズにVaseline、IKEA、Heineken、L’Oréal Luxeの4作品
  • 本部門での日本作品の受賞はなし、他部門では電通やTBWA\Hakuhodoが受賞

Creative Business Transformation部門とは

Creative Business Transformation部門とは

部門の定義と審査対象

この部門は、クリエイティビティを起点にビジネスそのものを前進させた仕事を評価する枠組みです。

審査対象はマーケティングコミュニケーションの範囲を超え、事業モデルや運営、顧客との関係の作り直しにまで踏み込みます。エントリーには、成果を裏づける検証可能な証拠の提出が求められ、この情報は審査員には共有されず、応募書類の記述内容の裏取りに用いられます。さらに、応募ブランドと応募主体の双方から、CEOやCMOに相当するシニアエグゼクティブが正式に承認したことを示す情報の提出も必要です(参照*1)。

つまり、話題性だけでは評価されず、事業の意思決定層が関与し、実際に数値として跡が残る変革であることが前提となります。読者としては、応募要件そのものが「経営が動いた仕事かどうか」を選別する装置になっている点を押さえておくとよいでしょう。

6つの審査カテゴリー

部門は6つのカテゴリーで構成され、変革の切り口ごとに評価軸が分かれています。

1つ目は業務変革(Operational Transformation)で、業務モデルやプロセス、ツールの新規採用や刷新を通じて全社規模で価値を生み出した仕事を対象とします。2つ目の新しい関係モデル(New Relationship Models)は、既存の商品やサービスを顧客が使うあり方そのものを作り直す取り組みで、直販モデル、サブスクリプション、サービス型の提案などが該当します。3つ目のC03はMarketing Technology for Growth、4つ目のC04はCreative Application of Emerging Technology、5つ目のC05はVenture Models & Corporate Innovation、6つ目のC06はExperience Transformationです(参照*2)。

この6分類は、コミュニケーション施策と事業運営が地続きであることを示しています。応募側は「どの切り口でビジネスを変えたのか」を明確に位置づける必要があり、審査側は変革のタイプごとに比較検討できる仕組みになっています。カンヌライオンズ2026のCreative Business Transformation部門も、この枠組みに沿って審査されました。

カンヌライオンズ2026の開催概要と部門結果

カンヌライオンズ2026の開催概要と部門結果

開催期間と全体像

Creative Business Transformation部門の発表は、カンヌライオンズ2026の4日目に行われました。

4日目には事業変革、戦略、コマース、イノベーション、エフェクティブネス、ブランドエクスペリエンス、ラグジュアリーの7カテゴリーに焦点をあてた発表が行われ、この日だけでグランプリ7件、ゴールド18件、シルバー34件、ブロンズ50件、合わせて109の賞が贈られました(参照*3)。

Creative Business Transformation部門の発表もこの4日目に組み込まれており、事業変革をテーマにした一群として位置づけられていたことがわかります。

部門の受賞内訳とエントリー数

カンヌライオンズ2026のCreative Business Transformation部門には152件がエントリーし、7つのライオンが授与されました。

内訳はグランプリ1件、ゴールド1件、シルバー2件、ブロンズ3件です。グランプリは、ギリシャのオンライン農業マーケットプレイスであるWikifarmerのために、McCann Athensが制作した「The Wedding Rice」に授与されました。この仕事は、農家が商業基準を満たさない米を結婚式のプランナーに直接販売できる持続可能な仕組みをつくり、明確な商業的成果と行動変容の双方をもたらしたと紹介されています(参照*4)。

エントリー152件に対して受賞7件という比率は、一定の狭き門であることを示します。読者としては、この後に紹介する各作品を「152件のなかで残った7件」として捉えると、選ばれた理由を読み解きやすくなります。

グランプリ「The Wedding Rice」徹底解説

グランプリ「The Wedding Rice」徹底解説

ギリシャの結婚式文化と農家の課題

「The Wedding Rice」は、ギリシャの結婚式にまつわる文化と農業の構造的なずれを起点にしています。

ギリシャでは年間平均53,896組の結婚式が行われ、その多くで新郎新婦の繁栄と多産を願って米を投げる伝統があります。この習慣によって、地元の生産者が消費者需要を満たすのに苦労しているにもかかわらず、毎年数百トン単位の食用米が浪費されてきました(参照*5)。もう一つの側面として、ギリシャでは毎年200トンを超える米が結婚式で無駄になる一方、国の農業生産の約30%が商業基準を満たせず、廃棄されるか、安値で売られている状況が指摘されています(参照*6)。

伝統行事の需要と、規格に届かない農産物という2つの事実が並んでいる点が、このキャンペーンの出発点です。文化的な儀礼と事業課題を同じ地図の上に置いたことが、後の設計を可能にしています。

廃棄米を収益源に変えるマーケットプレイス

解決策は、既存のオンライン農業マーケットプレイスを活用し、規格外の米を結婚式のプランナーに直接売れるようにすることでした。

ドキュメンタリー作品とともにキャンペーンが立ち上げられ、農家がWikifarmerのマーケットプレイスに自分の米を掲載し、結婚式のプランナーに直販できることが広く知られるようになりました。初週だけで3トンの米が購入され、その後、政府もこの取り組みを支持しました。仕組みは最終的にオープンモデル化され、同じ結婚式の伝統を持つ他国が模倣できる形に整えられています(参照*7)。実装初週には3トンを超える米が販売され、プラットフォームのトラフィックは100%以上増加し、システム全体で農産物売上が大きく伸びたことも報告されています(参照*6)。

広告表現でメッセージを届けるだけでなく、売買が実際に成立する場を提供している点が特徴です。読者としては、キャンペーンとインフラの境目がなくなっている構造に注目するとよいでしょう。

審査員が評価したビジネス変革の本質

審査員の講評は、この仕事の評価軸を端的に示しています。

Creative Business Transformation Lionsの審査員長で、南アフリカのTelkomのChief Marketing Officerを務めるGugu Mthembu氏は、「The Wedding Riceは、文化的インサイトが創造性とビジネス変革の双方の火種になり得ることを示した。その創造性は、戦略の拍子抜けするほどの簡潔さのなかにあった。新しいインフラも、複雑な戦略も、大規模な市場投入投資も要らなかった」と述べています(参照*8)。加えて、強さはクリエイティブなアイデアそのものではなく、そのアーキテクチャにあり、「The Wedding Rice」はサステナビリティのメッセージを伝えるだけでなく、機能する市場そのものを作り出した、キャンペーンが事業を支えるのではなく、キャンペーンそのものが事業になっているとも評されました(参照*6)。

表現の巧みさよりも、事業構造そのものを動かした点が評価軸に据えられています。企業側にとっては、既存資産の組み替えと文化的視点の組み合わせで変革が起こり得るという読み解きが可能です。

ゴールド受賞作「Protect the Peanut」

ゴールド受賞作「Protect the Peanut」

M&M’sが挑んだ落花生の遺伝的脆弱性

ゴールドライオンは、Mars SnackingのM&M’sのために、BBDO Chicagoが制作した「Protect the Peanut」に授与されました(参照*5)。

このキャンペーンは、落花生が遺伝的に脆弱な作物であるという、あまり知られていない現実を出発点にしています。M&M’sにとって、実際に商品として採用される落花生は100粒に1粒の割合にとどまるという厳しさが指摘されています。この状況を受けて、M&M’sはジョージア大学と提携し、より耐性の高い落花生の品種を開発しました(参照*9)。

お菓子の原料という日常的な素材の背後に、農業の持続可能性という長期の課題が横たわっている構図です。ブランドが自らの原材料調達の脆弱性を公に語り、研究機関との連携に踏み込んでいる点が特徴です。

1200万ドル投資と農家連携の変革

変革の中身は、コミュニケーションだけでは完結しません。

親会社であるMarsは、より健康な落花生を生産するために、農家プレミアム(生産者への上乗せ支払い)として1200万ドルを投じました(参照*9)。この位置づけは、Creative Business Transformation部門のグランプリを「The Wedding Rice」が獲得したのに続くゴールド受賞として整理されており、事業モデル、サービス、オペレーション、事業関係の変革をテーマとする本部門の中核例に数えられています(参照*3)。

研究機関との共同開発と、生産者への金銭的インセンティブが同時に走っている点が、この仕事の骨格です。ブランドコミュニケーションと調達戦略、研究投資が一体で動いている構造として読み取れます。

シルバー・ブロンズ受賞作ハイライト

シルバー・ブロンズ受賞作ハイライト

VASELINE VERIFIED(Ogilvy Singapore)

シルバーライオンには、シンガポールのVaselineのために、Ogilvy Singaporeが制作した「VASELINE VERIFIED」が選ばれました。

この仕事はAPACの受賞例としても紹介されており、同じ作品はブロンズライオンにも位置づけられています(参照*4)。

アジア太平洋地域の作品がCreative Business Transformation部門で複数のライオンを獲得している事実は、地域の代理店が事業変革の文脈でも評価されていることを示しています。

IKEA Preowned Marketplace(McCann Spain)

ブロンズライオンには、スペインのIKEAのために、マドリードのMcCann Spainが制作した「IKEA PREOWNED/SECOND-HAND MARKETPLACE」が選ばれました(参照*10)。

中古品のマーケットプレイスは、家具の一次販売という既存事業に、二次流通の受け皿を接続する取り組みです。C02 New Relationship Modelsに掲げられた、顧客が既存商品を使う方法の作り直しという審査軸を思い出すと、位置づけが理解しやすくなります。

TOCAYOSとAfroluxeの社会変革型モデル

さらに、イタリアのHeinekenのためにミラノのLePubが制作した「TOCAYOS」がブロンズライオンを、ブラジルのL’Oréal LuxeのAfroluxeのために、サンパウロのBeta Collectiveが制作した「CODE FOR THE PROTECTION AND INCLUSION OF BLACK CONSUMERS」がシルバーライオンを獲得しました(参照*10)。

飲料と美容という異なる業種で、社会的な包摂を事業モデルに組み込む方向の仕事が並んで評価されている点は、この部門の受賞傾向を読むうえでの手がかりになります。

日本作品の状況と他部門での躍進

日本作品の状況と他部門での躍進

カンヌライオンズ2026のCreative Business Transformation部門の受賞リストに、日本の作品は含まれていません。

一方、他部門では日本の作品が評価されています。東京の電通は、JR GroupのためのMY JAPAN RAILWAYでブロンズライオンを獲得し、APACの受賞作として紹介されました(参照*4)。東京のTBWA\Hakuhodoは、株式会社ニチイ学館のためのRADIO TIME MACHINEでシルバーライオンを獲得しています(参照*10)。加えて、Innovation Lionsの審査員長を務めた電通のExecutive Creative Director、Kazuhiro Shimura氏は、「私たちは『Supernova Adaptive』にグランプリを与えたのは、adidasが単に靴を作ったからではなく、ダウン症の人々にとってのランニングの可能性を広げ、社会を前に動かしたからだ。AIの時代においては、作ることはかつてないほど容易になったが、変化を作ることは容易ではない」と述べました(参照*8)。

本部門と他部門を合わせて眺めると、日本のプレーヤーは審査側と受賞側の両面で存在感を示しつつ、事業変革の文脈での受賞獲得が課題として残っている状況が読み取れます。

受賞作に共通するビジネス変革の視点

受賞作に共通するビジネス変革の視点

文化的インサイトを起点とした設計

受賞作を並べると、文化や慣習のなかにある事業機会を掘り起こす姿勢が共通します。

「The Wedding Rice」については、ギリシャの結婚式で米を投げる伝統と、規格外農産物の廃棄という2つの現実を重ね、既存のマーケットプレイスを活用して直接取引の場を作った点が特徴です。強さはアイデアそのものではなくそのアーキテクチャにあり、キャンペーンがサステナビリティメッセージを届けるだけでなく、機能する市場を生み出し、キャンペーンが事業そのものになっているという指摘があります(参照*6)。過去の同部門でも、L&C New YorkによるDole Sunshine CompanyのためのPiñatexがグランプリを獲得しており、審査員長のRonald Ng氏は「Doleは廃棄物を事業課題として認識し、解決に協力してくれるパートナーを見つけ、提供物を改善しスケールさせるために業務を変革した」と述べました(参照*11)。

文化や現場の観察から出発し、そこにある摩擦を事業構造の設計変更につなげる流れが、複数の受賞例に共通しています。企業内での想いを言語化し、社会との新しいつながりを設計するという観点でも、参考になる筋道です。

経営層の関与と長期的コミットメント

もうひとつの共通点は、経営層の関与と、長期的な資源投入です。

本部門の応募要件には、応募ブランドと応募主体の双方から、CEOやCMOに相当するシニアエグゼクティブが正式に承認したことを示す情報の提出が求められており、成果を裏づける検証可能な証拠の提出も条件になっています(参照*1)。前提となる姿勢についても示唆があります。LIONSのState of Creativity 2025調査では、回答者のうち自社をリスクを取れる企業と見なしているのは13%にとどまり、29%のブランドがリスク回避的であると認めている一方、WARCとKantarの調査ではリスクを取るブランドは4倍高い利益率を生み、Deloitteのレポートでは創造的リスクへの意欲が高いブランドは長期的な売上成長を実現する可能性が33%高いとされています(参照*12)。

経営層の承認と長期投資の覚悟が、応募要件そのものに埋め込まれている点が、この部門の性格を決めています。読者としては、経営者の想いを言葉にし、社内で共有し、外部との共同事業に翻訳する筋道を思い描きながら受賞作を眺め直してみてください。

おわりに

カンヌライオンズ2026のCreative Business Transformation部門は、152件のエントリーからグランプリ「The Wedding Rice」を筆頭に7つの受賞作を選び出しました。文化的インサイトを起点に、既存資産の組み替えや研究機関との連携、二次流通や社会的包摂といった多様な切り口で、事業構造そのものが動いた事例が並びました。

日本の作品は本部門では受賞に届きませんでしたが、他部門では電通やTBWA\Hakuhodoの仕事が評価されています。経営層の想いを言語化し、社会との新しいつながりを設計する姿勢が、次の一手を考える手がかりになります。

お知らせ

カンヌライオンズ2026 Creative Business Transformationの潮流を踏まえ、企業の想いを言語化するインナー・コピーライティングが、新たな社会とのつながり構築にどう寄与するか、具体的事例や戦略でご案内します。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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