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カンヌライオンズ2026「Audio & Radio部門」受賞作まとめ

この記事のまとめ

カンヌライオンズ2026のAudio & Radio部門は、音の役割を問い直す作品が並びました。この記事の要点は次のとおりです。

  • グランプリはヒュンダイ プエルトリコの「Coquí Alarmed」で、レンタカーの電子音を在来種カエルの鳴き声に置き換えました。
  • ゴールドは2作品、シルバーは5作品、ブロンズは7作品が選ばれ、応募数は513件でした。
  • 日本からは味の素と電通の「Voice of Food」がブロンズを獲得しました。
  • 音を情報伝達の手段としてだけでなく、文化や社会課題を動かす装置として使う姿勢が共通していました。

Audio & Radio部門の全体像

Audio & Radio部門の全体像

部門の位置づけと審査の視点

Audio & Radio部門は、音そのものの力で人を動かした仕事を評価する部門です。

Audio & Radio部門は「音のために設計された創造性」を掲げ、消費財から公共のテーマまで幅広い応募カテゴリーを用意しました。応募カテゴリーには消費財を扱うD01のほか、非営利や公共文化に関する枠も含まれ、食品飲料、家庭用品、衣料、家具、家電などが対象に入ります(参照*1)。

審査員長は、音の分野を新しい形に押し広げた仕事に価値を置く姿勢を示しました。Oriel Davis-Lyons(Mother New York、Chief Creative Officer)は、グランプリ作について部門の見方を新しい形で考えさせたと述べています(参照*2)。この視点は、音を広告の飾りではなく、体験と意味を担う中心の素材として捉える立場を映しています。

応募数・受賞数と2026年の傾向

2026年のAudio & Radio部門の受賞数と応募数は、部門の競争の厳しさを示す数字になりました。

主催者の発表によると、Audio & Radio部門には513件の応募が集まり、そのうち15作品にライオンが贈られました。内訳はグランプリ1、ゴールド2、シルバー5、ブロンズ7です(参照*3)。

受賞作の顔ぶれは、プエルトリコ、カナダ、ブラジル、フランス、インド、中国、アルゼンチン、イタリア、イギリス、ドイツ、そして日本と、地域が分散しました。局所的な文化や社会課題を音で扱う仕事が、国を越えて評価される流れが読み取れます。

グランプリ「Coquí Alarmed」の衝撃

グランプリ「Coquí Alarmed」の衝撃

レンタカーの解錠音をカエルの鳴き声へ

グランプリは、ヒュンダイ プエルトリコのためにBBDO Puerto Ricoが手がけた「Coquí Alarmed」が受賞しました。

この企画は、プエルトリコ固有のカエル「コキー」を騒音と感じ、殺す方法を問うた観光客のSNS投稿がきっかけになりました。ヒュンダイはレンタカー会社と組み、標準の施錠と解錠の電子音をコキーの鳴き声に差し替え、車内には文化的・生態学的な意味を伝えるタグを設置しました(参照*4)。観光客は車を施錠するたびにコキーの声を聞くことになり、7,000人以上に直接届き、文化と生態系への理解を促す成果につながりました(参照*5)。

ヒュンダイは、パートナーとなるレンタカーの工場出荷時の電子音をコキーの鳴き声に置き換えることで、文化の味方としての立場を強め、人々の行動と受け止め方を変えました(参照*6)。自動車ブランドが商品の機能音を地域文化のシンボルに書き換えた点に、この仕事の輪郭が集約されています。

審査員が評価した「音の再定義」

審査員長は、この作品が自分たちの部門の見方そのものを揺さぶったと語りました。

Oriel Davis-Lyonsは、「Coquí Alarmed」は極めて土地に根ざした洞察に立ちながら、実行と成果は世界的に称賛されたと述べ、Audio & Radioというクラシックな部門でも定義を刺激的な新しい範囲まで押し広げつつ、真剣な事業成果を出せることを示したとしました(参照*3)。この評価には、音を「聴かせるコンテンツ」から「体験の入口となる合図」へと広げた点への支持が読み取れます。

商品のUX音を素材にした企画は、放送や配信を前提にしない音の使い方が部門で正面から評価されうることを示しました。音のクリエイティブを考える際には、どこで鳴らすか、誰が何のために聞くかという設定自体を作り直す発想が有効だと言えます。

ゴールド受賞2作品の着眼点

ゴールド受賞2作品の着眼点

IKEA「Sleep Talk Reviews」

ゴールドの1作品目は、カナダのIKEAのためにトロントのRethinkが制作した「Sleep Talk Reviews」でした(参照*7)。

マットレスのレビューを、店内で実際に眠らせた人の寝言そのもので構成した企画です。深い眠りの中の無意識の声を、演技のできない最も正直な音として扱い、商品の証言に仕立てました(参照*8)。

書き言葉のレビューでは伝わりにくい寝心地を、音で担保するという着眼点が特徴です。証言の素材そのものを取り替える発想は、他の商品カテゴリーにも応用の余地があります。

Abradee「Searching For Birds on Wires」

ゴールドの2作品目は、ブラジルのAbradeeのためにサンパウロのAfrica Creativeが手がけた「Searching For Birds on Wires」です。

公式の受賞リストでは、Abradeeを企業広告カテゴリー(B01/011)で応募した作品として掲載しています(参照*7)。エントリー番号や制作会社の記載を含め、公式のPDFに整理されています。

作品名は「電線の上にいる鳥を探して」と読める英語で、電力インフラを掲げる団体が音の企画で金賞に到達した点に注目が集まりました。参照情報の範囲では作品の詳細な演出手法までは触れられていないため、ここでは受賞事実と応募カテゴリーの位置づけにとどめて紹介します。

シルバー受賞5作品の切り口

シルバー受賞5作品の切り口

シルバーは5作品が選ばれ、報道の自由、モータースポーツ、都市文化、飲料、フリマアプリと、扱うテーマが大きく分かれました。

フランスのReporters Without Borders(RSF)のための「A Mother’s Commentary」は、パリのThe Good Companyが制作しました。サッカー中継の実況マイクを7分目で突然黙らせ、アルジェリアで収監された記者の母親の肉声に差し替える構成で、賑やかな実況の「無音」によって報道の自由の侵害を聴かせました(参照*8)。

アジアからは2作品が入賞し、インドのStingのためにムンバイのLeo Indiaが制作した「The Unofficial Official Sound of F1」と、中国の揚州市文化放送テレビ観光局のために上海のTBWA\CHINAが制作した「The Yangzhou Qiao Bei Musical Suite」が、それぞれシルバーを受けました(参照*6)。

このほかの作品は、公式受賞リストで次のように整理されています。

  • ミラノとサンパウロのLePubが手がけたHeinekenの「Could Have Been A Heineken」(C04/027)
  • ブエノスアイレスのGUTが手がけたMercado Libreの「Doorbell Ads」(C06/006)
  • 上海のTBWA\CHINAが手がけた揚州向けの「The Yangzhou Qiao Bei Musical Suite」(D04/026)

いずれも音を通じてブランドと日常の接点をつくり直す狙いが共通しています(参照*7)。

ブロンズ受賞作と日本の「Voice of Food」

ブロンズ受賞作と日本の「Voice of Food」

味の素×電通「Voice of Food」の挑戦

日本からのブロンズは、味の素のために電通が手がけた「Voice of Food」でした。

公式受賞リストは、この作品をエントリー番号C07/006としてブロンズに位置づけ、制作にDENTSU INC. Tokyoに加え、DADAB、IE3、KOME INC.、TYO INC.が関与したと明記しました(参照*7)。アジア地域の受賞速報では、東京の電通のブロンズが味の素の「Voice of Food」だったと伝えられました(参照*6)。

企画の中身は、視覚障害者を締め出してきた「目で見るレシピ」を音で作り直すというものです。炒める音は火力、沸く音は火の通りを示す情報として扱い、盲目の料理家Mikiと本物の調理音をレシピサイトに埋め込み、見えなくても作れるレシピに仕立てました(参照*8)。音を装飾ではなく、料理を成り立たせる情報の主役に置き換えた点が、日本発の受賞の輪郭になっています。

その他のブロンズ受賞作

日本以外のブロンズ受賞作にも、音の機能を再設計する着眼点が並びました。

イギリスのŠkodaのために、ロンドンのAbbott Mead Vickers BBDOが制作した「DuoBell」は、ノイズキャンセリング機能を貫通する世界初の自転車ベルを目指した企画です。大学と組み、ANCフィルターの隙間となる750〜780Hzを特定して、その周波数でベルを鳴らす設計としました。自動車メーカーが歩行者と自転車の安全を音の周波数の問題として解いた点に特徴があります(参照*8)。

公式受賞リストは、この「DuoBell」をC07/002のブロンズとし、あわせてドイツのRoyal Society for Blind Childrenのために制作された「Bedtime Donations」をD07/005のブロンズに位置づけ、制作をINNOCEAN BERLINとしています(参照*7)。安全、寄付、食といった生活の現場で、音が果たしうる役割を具体的に組み替える企画がブロンズ帯に並んだと読み取れます。

受賞作から読み解く音のクリエイティブの潮流

受賞作から読み解く音のクリエイティブの潮流

2026年のAudio & Radio部門の受賞作を通して見ると、共通する視点がいくつか浮かびます。

Oriel Davis-Lyonsは、「Coquí Alarmed」が土地固有の洞察に根ざしつつ普遍的に評価され、Audio & Radioというクラシックな部門でも定義を新しい範囲へ広げながら真剣な事業成果を出せることを示したと述べました(参照*3)。ローカルな課題を音で扱うほど、かえって世界に届く可能性があるという道筋が見えます。

AIが大量のコンテンツを生み出す時代だからこそ、「何を作るか」よりも「どう意味づけるか」が重要になっているとも指摘されました(参照*5)。カエルの声、寝言、調理音、実況の沈黙、自転車のベルといった素材は、いずれも既存の音を別の意味に置き換えた点で共通しています。経営者や担当者が音のクリエイティブを検討する際には、「新しく音を作る」よりも「すでにある音の意味を組み替える」という切り口が、意思決定の起点として実務的だと考えられます。

おわりに

2026年のカンヌライオンズAudio & Radio部門は、レンタカーの電子音、寝言、調理音、実況の沈黙、自転車のベルといった身近な音を、意味の担い手として組み替えた仕事が並びました。グランプリの「Coquí Alarmed」から日本発のブロンズ「Voice of Food」まで、音を情報や体験の中心に据える姿勢が通底しています。

経営者や担当者にとっては、商品や事業のなかで「すでに鳴っている音」を洗い出し、その意味を語り直す入り口として参照しやすい年になりました。想いを言語化し、社会との新しいつながりを音でつくる余地は、まだ広がっていると言えます。

お知らせ

カンヌライオンズ2026のAudio & Radioで評価される表現力は、企業の想いを内面から言語化するインナー・コピーライティングで磨かれます。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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