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カンヌライオンズ2026の傾向まとめ:グランプリ受賞作から読むトレンドとは

この記事のまとめ

カンヌライオンズ2026は、92か国から20,050件の応募が集まり、「組織の内側の仕組み」や「ブランドの一貫性」を評価する傾向が鮮明になった年でした。グランプリ受賞作から浮かび上がる傾向は、大きく次の4つに整理できます。

  • 「Creative Brand Lion」が新設され、作品単体ではなく、ブランドが創造性を生み出す組織文化や仕組みそのものが審査対象になりました。
  • Heinzのように長年のブランド資産を活かした「一貫性の勝利」や、adidasのように社会課題を製品で解決する「社会実装型」の作品がグランプリを獲得しています。
  • AI活用が進む一方で、Apple TVのデザイン部門グランプリのように「人の手で作られたもの」への評価も高まり、テクノロジーと人間性の両軸が問われています。
  • クリエイターの存在感が増し、250人以上がカンヌに参加するなど、広告業界の枠を超えた共創の場へと変化しています。

カンヌライオンズ2026の全体像

カンヌライオンズ2026の全体像

応募数・参加国・審査体制の変化

カンヌライオンズ2026には、92か国から20,050件の作品が応募されました。

前年の応募数は26,900件だったため、約25%の減少です。300人を超える世界各国の審査員がカンヌに集まり、審査にあたりました(参照*1)。

応募総数は減ったものの、ブランド企業が直接応募した割合は全体の10%に達し、前年の8%から伸びています(参照*2)。広告会社だけでなく、ブランド自身が審査の場に作品を送るという動きが強まっていることがわかります。応募件数の減少と、ブランド直接応募比率の上昇を並べてみると、量よりも質、そして発信主体の多様化が進んでいるといえます。

Awards Integrity Standardsの導入

カンヌライオンズは2026年、全部門に「Awards Integrity Standards」と呼ばれる新しい審査基準を導入しました。

応募内容の信頼性、成果の正当性、審査の公正性を揺るがないものとするための仕組みです。

この導入の背景には、前年までに受賞作の一部で、応募映像に記載された成果が実際に検証できるのかという疑問が持ち上がっていたことがあります。「2〜3年前、賞を取った作品の多くは効果的とは言えないスタント(話題作り)だった。業界全体が道を見失いかけていた」という声も出ていました(参照*3)。

審査の透明性を制度として担保することで、「派手な演出だけでは受賞できない」という方向に舵を切ったかたちです。この基準変更は、後述するグランプリ受賞作の傾向にも影響を及ぼしています。

「内側の仕組み」を評価する新潮流

「内側の仕組み」を評価する新潮流

Creative Brand Lionの誕生と意図

2026年のカンヌライオンズで新設された「Creative Brand Lion」は、個別の広告作品ではなく、ブランドが優れた作品を継続的に生み出すための「仕組み・文化・能力」を評価する賞です。

70年にわたりアウトプットとしての作品を評価してきたカンヌライオンズが、「そもそも画期的なアイデアを可能にするインプットは何か」という問いを立てたことが、この賞の出発点になっています(参照*4)。

初年度は73件のエントリーが集まり、2つのライオンが授与されました。そのうち1つがグランプリです(参照*5)。作品単体の出来栄えではなく、創造性を「再現可能にする組織」そのものに光を当てたという点で、カンヌライオンズ2026の傾向を象徴する新部門です。

AB InBevのグランプリが示す組織力

Creative Brand Lionのグランプリを受賞したのは、ベルギー・ルーヴェンに本社を置くAB InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)で、タイトルは「Creativity at Scale」でした(参照*5)。

この受賞は、単発のキャンペーンではなく、世界規模で創造性を仕組み化してきた組織運営そのものが認められたことを意味します。Creative Brand Lionが「創造的な成果を持続的なビジネスインパクトに変える実践」を評価する賞であることを踏まえると、AB InBevの受賞は、広告業界に対して「良い作品を作る力」だけでなく「良い作品を作り続ける力」が問われ始めたことを示しています。

経営層がクリエイティブの仕組みづくりに関与することの重要性が、賞という形で可視化されたといえます。

グランプリ受賞作に見る5つの傾向

グランプリ受賞作に見る5つの傾向

ブランド一貫性の勝利:Heinz・Heineken

カンヌライオンズ2026の傾向として、まず挙がるのが「ブランドの一貫性」への高い評価です。

Print & Publishing部門の審査員長は、グランプリについて「製品が映っていないことではなく、ブランドの存在感そのものを評価した。長年にわたる一貫性を信頼し、時間をかけて築いたブランドが仕事を成し遂げると信じたキャンペーンだ」と語っています(参照*6)。

商品を見せなくてもブランドだと伝わる。それは一朝一夕では実現できない蓄積の成果です。ブランドが長期にわたって一貫したメッセージを発信し続けてきたことこそが、審査の場で「勝ち筋」になったという事実は、短期的な話題作りとは対極にある戦略の有効性を裏づけています。

社会実装型クリエイティブ:adidas・Suncorp

もう1つの傾向は、社会課題を広告ではなく製品やサービスとして形にする「社会実装型」の作品が評価されたことです。

adidasの「Supernova Adaptive」は、ダウン症のあるランナー向けに設計された初のパフォーマンスランニングシューズでした。ダウン症のある人の66%が足に合う靴を見つけるのに苦労していたという調査結果を起点に、開発が進められています(参照*7)。

Innovation部門の審査員長は、「adidasが靴を作ったからではなく、ダウン症のある人々にとっての『走る可能性』を広げ、社会を前進させたからグランプリを贈った。AI時代において、作ること自体はかつてないほど簡単になったが、変化を作ることは簡単ではない。私たちの審査は『概念実証から変化の実証へ』という視点で行った」と述べています(参照*8)。

課題を「伝える」のではなく、課題を「解く」ところまで到達した作品が評価される傾向が明確に表れています。

ファンダム起点の共創:Muni・Clash Royale

Entertainment部門のグランプリ審査では、「適切なタイミングで、適切なコミュニティに、関心を持つに値する何かを届けること」が決め手になったと審査員長が語っています。

多くのブランドが無理に存在感を作ろうとしている時代に、自然にコミュニティの文脈に溶け込む作品が最高評価を得ました(参照*9)。

ブランドが一方的にメッセージを発信するのではなく、ファンやコミュニティと共にコンテンツを作り上げるという姿勢が評価されている点は、カンヌライオンズ2026の傾向のひとつです。「内から外へ」という視点で見ると、ブランドの内側にある価値観が、外のコミュニティと自然に接続した時に生まれる共鳴が、審査において高く位置づけられたことがわかります。

AI×人間のクラフト融合:Google・Claude

Dan Wieden Titanium部門の審査員長は、「創造性は次にどこへ向かうのか。それこそがTitanium Lionの体現するものだ。本当にゲームチェンジャーと呼べるアイデア、可能性を再定義させるアイデア、創造性の未来を切り拓くアイデアを称えた」と語っています(参照*10)。

AIを道具として活用しながら、最終的には人間の意図と構想力が問われる。カンヌライオンズ2026の傾向として、AIそのものが評価されるのではなく、AIと人間が組み合わさった時に生まれる新しい表現や体験が審査の対象になっています。「概念実証から変化の実証へ」というInnovation部門の審査基準とも通じるこの傾向は、AIをどう使うかだけでなく、何のために使うかというブランドの意志が試される局面に入ったことを映し出しています。

ヒューマンメイドへの回帰:Apple TV・De’Longhi

テクノロジーへの評価が高まる一方で、「人の手で作られたもの」に対する敬意もグランプリに現れています。

Design部門の審査員長は、「グランプリを贈ったのは、その作品が輝かしいまでに人の手で作られていたからだ。映画のドラマ性、光と音の魔法を取り戻した。テクノロジーの脅威に取り憑かれた時代において、これは美しい反抗だ」と評しました(参照*5)。

AIやデジタル技術の進化が加速するからこそ、人間にしか生み出せない表現が際立つ。カンヌライオンズ2026の傾向は、AI活用とヒューマンメイドという一見相反する2つの価値が、同じ年のグランプリに並存しているところに特徴があります。どちらか一方ではなく、両方を見据える視座が求められているといえます。

クリエイターとインディーズの躍進

クリエイターとインディーズの躍進

クリエイターが主役になった転換点

カンヌライオンズ2026には250人以上のクリエイターが参加しました。

「Call Her Daddy」のAlex Cooper、TikTokのKeith Lee、YouTuberのColin & Samirなど、プラットフォームを横断して活躍する人物が名を連ねています(参照*3)。

YouTuberのBrandon Baumは、「数年前、私たちは華やかな添え物だった。今やクリエイターが基調講演の壇上に立っている」と述べています。ブランド側もクリエイターを単なる拡散手段ではなく、自社の編集的なコンテンツをより良くする存在として捉えるようになっています。クリエイターの台頭は、ブランドと生活者の間に立つ「語り手」の構造が変わりつつあることを物語っています。

インディペンデント勢の存在感

カンヌライオンズ2026の「Independent Network of the Year」には、Rethink、Mother、Wieden+Kennedyが選ばれました。

「Independent Agency of the Year」では、カナダ・トロントのRethink、アメリカ・ニューヨークのIsle of Any、イギリス・ロンドンのMotherが受賞しています(参照*10)。

大手グループに属さない独立系の会社が、ネットワーク賞とエージェンシー賞の両方で上位を占めた事実は注目に値します。組織の規模ではなく、クリエイティブの質と独自性が評価の軸になっていることが、受賞結果から読み取れます。

ブランドの想いを言語化し、独自の視点で社会に届けるという姿勢は、規模の大小を問わず成果につながることを、この結果が裏づけています。

AI時代のブランド戦略と注意点

AI時代のブランド戦略と注意点

LLMが問う「ブランド一貫性」

カンヌライオンズ2026の会場で広く議論されたテーマのひとつが、大規模言語モデル(LLM)時代におけるブランドの一貫性です。

従来の検索では、ブランドの発信内容に矛盾があっても、広告費で検索結果の上位を確保できました。しかしLLMは、インターネット上に散在する情報を統合し、矛盾も含めてひとつの回答として提示します。つまり、PR・口コミ・製品ページがバラバラの物語を語っていれば、それがそのまま生活者に伝わるということです(参照*11)。

カンヌで話題になっている「AI検索の危機」は、実は検索の問題ではなく、ブランドの一貫性がようやく公開の場で採点されるようになったということです。経営層がブランドのメッセージ開発に関与し、「内から外へ」一貫した言葉を発信する体制を整えることが、AI時代の基盤になっていきます。

CMOが直面する実装の壁

AIの可能性を理解しながらも、実行に移すまでには大きな隔たりがあります。

300人の最高マーケティング責任者(CMO)を対象にした調査では、96%が「AIはマーケティングを変革する」と考えていました。しかし、AIの価値を取り込むために業務フロー・組織モデル・人材戦略を実際に再構築した人は3分の1にとどまっています。マーケティング部門がAI投資の意思決定を主導していると回答したCMOは約半数で、CEOや取締役会が主導しているのは14%、戦略部門が主導しているのは15%でした(参照*11)。

「AIが大事だ」と認識する段階から、組織の仕組みを変える段階へ進めているかどうかが、今後のブランド競争力を分ける分水嶺になります。Creative Brand Lionの新設が示すように、カンヌライオンズ2026は「仕組みを変えたブランド」を明確に評価しました。

その傾向は、CMOだけでなく経営層全体に向けられた問いかけです。

おわりに

カンヌライオンズ2026の傾向は、「派手な一発」から「再現可能な仕組み」へ、「伝えること」から「変えること」へと、評価の軸が移り変わったことに集約されます。ブランドの一貫性、社会実装、コミュニティとの共創、AI活用、人間の手仕事への敬意。これら5つの潮流は、いずれもブランドの内側にある意志が外側に表れた結果です。

来年以降に向けて、経営者やブランド担当者が考えるべきは、自分たちの組織がどのような文化と仕組みで創造性を支えているかという根本の問いです。その答えを言語化し、社会とのつながりへ変換していくことが、カンヌライオンズ2026が残した示唆だといえます。

お知らせ

カンヌライオンズ×2026の傾向が示すクリエイティブ変化を踏まえ、企業やサービスのコミュニケーション設計に落とし込み、インナー・コピーライティングで想いを言語化する表現戦略の検討が今こそ求められます。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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