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はじめに
広告の言葉は、企業の想いと社会をつなぐ架け橋です。TCC賞は、その言葉の力を「表現のおもしろさ」という一点で評価し続けてきた広告賞であり、2025年度で63回目を迎えました。売上や認知といった数値成果ではなく「心の中でグッときたかどうか」が審査基準となるこの賞で、どのような言葉が選ばれたのかを知ることは、企業のメッセージ開発に携わるすべての人にとって大きなヒントになります。
TCC賞2025では、花王メリットのTCCグランプリをはじめ、長崎新聞社の「8.9平和企画」やACジャパンのキャンペーンなど、多彩な作品が評価されました。本記事では、受賞コピーの一覧と注目作の分析、新人賞の傾向、そして2025年のコピー表現に通底する特徴を、公式情報をもとに読み解いていきます。
TCC賞2025の概要

TCC賞の歴史と審査基準
TCC賞は、東京コピーライターズクラブ(TCC)が主催する広告賞です。2025年度で63回目の開催となり、半世紀以上にわたってコピーライティングの質を問い続けてきました。賞の構成は大きく3つに分かれており、TCCグランプリはその年の最も優秀な広告作品に贈られます。TCC賞は業種や媒体を問わず全体の上位に選出された優秀な作品に、審査委員長賞は審査委員長が特に優れていると判断した作品にそれぞれ与えられます(参照*1)。
審査の特徴は「表現のおもしろさ」にほぼ集中している点です。広告賞で重視されがちな「リザルトはどうだったか」「効率がどうだったか」といった要素はほとんど考慮されず、「心の中でグッときたかどうか」という一点が重視されます(参照*2)。この審査姿勢は、経営者や担当者が自社の想いを言語化する際にも示唆に富んでいます。数値に還元できない「内側から湧き出る言葉」の力が、TCC賞では正面から評価されるからです。
2025年度の応募状況と選出結果
2025年度のTCC賞には、一般部門で4,405点の応募がありました。内訳はグラフィック2,230点、TVCM・その他映像971点、ラジオCM175点、WEB1,029点です。このうち年鑑掲載作品数は645点で、掲載率は14.7%でした。新人部門は339名が応募し、一次通過者は78名、通過率は23%です。新人部門の内訳はグラフィック108名、TVCM・ラジオCM・TVラジオ混合19名、混合173名、WEB39名となっています(参照*3)。
選出結果としては、TCCグランプリ1作品群、TCC賞13作品群、最高新人賞1名、新人賞18名、審査委員長賞2作品、ファイナリスト31作品群が選ばれています(参照*3)。一般部門の掲載率14.7%という数字は、応募作品の約85%が掲載に至らなかったことを意味しており、選考の厳しさがうかがえます。グラフィックが応募全体の約半数を占めている点も、この賞が言葉そのものの表現力を問う場であることを物語っています。
グランプリ受賞作の分析

花王メリット「家族と愛とメリット」
2025年度のTCCグランプリは、花王「メリット」のポスターやテレビCMシリーズに贈られました。受賞コピーは「最終回は 気づかないうちに 終わっていく」です(参照*4)。花王のヘアケアブランドであるメリットの広告として展開されたこのシリーズは、「家族と愛とメリット」というテーマのもとで制作されています(参照*5)。
「最終回は 気づかないうちに 終わっていく」という一行は、家族の日常がいつか変わっていくことへの静かな気づきを促しています。商品の機能を直接語るのではなく、その商品がある暮らしの情景を描き出すことで、読み手の記憶や感情に触れる構造を持った表現です。「内から外へ」というコミュニケーションの視点で見ると、商品スペックの訴求ではなく、企業が大切にしてきたブランドの世界観そのものを言葉にした好例といえます。
栗田雅俊・早坂尚樹の仕事と評価
グランプリを受賞した栗田雅俊氏は、クリエイティブディレクター・コピーライター・CMプランナーとして言葉と映像づくりを主としています。岐阜県出身で、近年の仕事にはサントリー生ビール、ユニクロ母の日、宝くじロト、Suica、「人生には、飲食店がいる。」などがあります(参照*6)。
共同受賞の早坂尚樹氏は2015年に電通へ入社したコピーライター・CMプランナーです。花王「家族と愛とメリット」のほか、JR東海「会いにいこう」「東海道新幹線60周年CM」、日本ハム「シャウエッセン断髪式」、日清食品「日清焼そばU.F.O.」「カップヌードル」、トヨタ自動車「クラウン」「カローラ」、マクドナルド「コーヒー」、森ビルなど幅広いクライアントとの仕事を手がけてきました(参照*6)。2人の仕事の共通点として、生活者の暮らしや感情に根ざした言葉選びが際立っています。企業の伝えたいことを、受け手の体験として再構築する力が、グランプリ評価の背景にあると読み取れます。
TCC賞受賞コピー一覧と注目作

一般部門TCC賞13作品の全体像
2025年度のTCC賞は一般部門で13作品群が選出されました。そのなかから、公表情報で確認できる受賞作品をいくつか紹介します。三井住友銀行Oliveの「通帳の人①」篇では「通帳の人」というコピーが受賞しており、麻生哲朗氏(TUGBOAT)、小西慶氏(電通)、辻健太郎氏(電通)の3名が手がけています。芝浦機械の企業広告「ALWAYS 芝浦マシーン その1」では「すごいヤツを作りだしたヤツを作りだしたヤツもすごいんだ」というコピーが選ばれ、多田琢氏(TUGBOAT)が受賞者です(参照*7)。
キリンビール「キリン一番搾り 糖質ゼロ」の「誰が決めたの?」篇では、「じゃ、糖質飲んでる人がカッコいいんですか?」というコピーが受賞しました。受賞者は磯島拓矢氏、今井政広氏、諸橋秀明氏、姉崎真歩氏の4名(いずれも電通)です(参照*7)。また、長崎新聞社の「8.9平和企画」では鳥巣智行氏のコピーが選ばれています。「原爆は日常の頭上で炸裂する。ピカッ。強烈な閃光。次の瞬間、4000度の熱線が、まちを焼き尽くす。かかる時間は、わずか3秒。あなたがこの文章を読み終えるころには、多くの命が消えている。」という表現で、展示では3秒だけでなく10秒後から79年後まで様々な時間軸を体験できるコピーが並びました(参照*4)。
13作品群の全容を見ると、金融、飲料, 製造業、メディアと業種が多岐にわたっています。口語調の問いかけから、読む時間そのものに意味を持たせた長文コピーまで、表現の幅広さが際立っています。
審査委員長賞と姉川伊織の躍進
2025年度のTCC賞では審査委員長賞2作品が選出されています。審査委員長が特に優れていると判断して選んだ作品であり、TCC賞全体のなかでも独自の位置づけを持ちます。
一般部門TCC賞の受賞者のなかで注目すべき存在が、姉川伊織氏(電通)です。佐賀県出身のクリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナーで、2019年にTCC新人賞を受賞して以降、2022年から2025年まで4年連続でTCC賞を受賞しています。今回はBot Express「スマホ市役所」の広告で、「\”ありがとう\”って言われてる同僚をみたいじゃん?」というコピーが評価されました。共同受賞者は嶋崎仁美氏(電通)と泉田岳氏(TOKYO)です(参照*7)。
姉川氏はこのほかにも、PERSOL「#これ誰にお礼言ったらいいですか」、4℃「匿名宝飾店」、Netflix「STOP!地面師詐欺」、ピノ「また売れなかったらどうしよう」、佐賀県「23時の佐賀飯アニメ」など多彩な仕事を手がけています(参照*6)。新人賞からTCC賞への連続受賞という軌跡は、コピーライターとしてのキャリア形成を考えるうえで具体的な道筋を示しています。
新人賞の傾向

最高新人賞・平田純一とACジャパン
2025年度のTCC最高新人賞は、平田純一氏(BBDO J WEST)が受賞しました。受賞作はACジャパンの全国キャンペーン「決めつけ刑事」のテレビCM・ポスターなどです(参照*5)。
平田氏は大学卒業後、約15年間にわたり九州でコピーライター・CMプランナーとして活動してきました。受賞の言葉のなかで、九州での仕事には予算の制約があり、制作費だけでなく流す媒体が限られることもあったと語っています。だからこそ「少ない接触の中でも、しっかりと記憶に残るクリエイティブを作る」という信念を持ち続け、「決めつけ刑事」の企画もその延長線上で生まれたと述べています(参照*2)。地方を拠点とする制作者が、制約のなかで磨いた「一撃で記憶に残す力」を全国キャンペーンで発揮したという捉え方は、予算規模に関係なく言葉の設計次第で勝負できることを示しています。
新人賞18名にみる多様な表現
2025年度のTCC新人賞は18名が選出されました。新人部門には339名が応募し、一次通過者78名という関門を経ての受賞です(参照*3)。受賞者のなかには、AIマネージャーアプリ「NORDER」のプロモーションCMで受賞した佐藤充氏(ADKマーケティング・ソリューションズ)がいます。作品名は「お耳拝借いたします。『五月蝿い方が得をする世の中』」で、Web Movieとして公開された広告です(参照*8)。
別の受賞者は「山本にしか、撮れない写真。」というコピーで新人賞を獲得し、受賞コメントで「言葉の賞は嬉しいです。広告業界が少しでも面白くなるようこれからも頑張ります」と語っています(参照*9)。AIアプリのCMから個人名を冠したフレーズまで、扱う対象も表現手法も多様です。新人部門の応募カテゴリがグラフィック、TVCM・ラジオCM混合、WEBなど複数に分かれていることからも、コピーライティングの活躍領域が広がっていることが読み取れます。
2025年のコピー表現の特徴

「効果」を超えた表現の追求
TCC賞2025の受賞作全体を貫く特徴のひとつは、広告の「効果」を超えた領域への挑戦です。審査の場では、「認知を獲得する」「売り上げを上げる」という広告本来の目的を超えた「何か」があるとされ、その「美しさ」のようなものを追い求める姿勢がTCCに集まっているという見方が示されました。2025年の受賞作についても、いろんな意味での「効果」を超えた「何か」を獲得しようとした作品ばかりで、色とりどりの花ばかりだと語られています(参照*2)。
企業のメッセージ開発においても、この視点は見過ごせません。数値的な成果だけを追うのではなく、ブランドの世界観や送り手の想いを言葉に宿すことで、受け手の心に長く残る表現が生まれます。「内から外へ」を軸としたコピーライティングの本質が、2025年のTCC賞ではとりわけ鮮明に映し出されています。
AI時代におけるコピーライターの存在意義
もうひとつの特徴は、AI時代のなかでコピーライターがどう在るべきかという問いが、TCC賞2025の背景に浮かんでいることです。審査の場では、この状況はTCCというクラブにとって自らの存在意義をきちんと示せるチャンスであるとの認識が示されました。受賞者たちは明らかにAIに勝っており、すでに仕事にAIを活用している人も「人間の知恵」でAIを乗りこなし、よい選択をして上手に活用しているからこそ結果として勝っている、と評価されています(参照*2)。
TCC賞に多くの応募が集まったことについても、数値化しにくい「表現のおもしろさ」が集まり競う場に改めて注目が集まった「いい現象」だと捉えられています(参照*2)。AIが文章を生成できる時代だからこそ、人間のコピーライターが「心の中でグッとくる」言葉を紡ぐ意味は増しています。経営者や担当者が自社の想いを発信するとき、その言葉に固有の体温を載せられるかどうかが、これからのコミュニケーションの分水嶺になるはずです。
おわりに
TCC賞2025は、「効果」を超えて心に残る言葉の価値を改めて浮き彫りにしました。グランプリの花王メリット「最終回は 気づかないうちに 終わっていく」に象徴されるように、暮らしの情景を一行で切り取る力、地方の制約から生まれた「記憶に残す信念」、そしてAIには代替できない人間の表現力が、2025年の受賞作を貫くテーマでした。
2026年度のTCC賞では、こうした流れがさらにどのように進むのかが見どころです。企業の想いを社会へ届けるために、言葉をどう磨き、どんな物語を紡ぐのか。経営者や担当者の「内側にある言葉」を起点としたコミュニケーション設計は、これからの広告表現においてますます欠かせないものとなっていきます。
お知らせ
TCC賞や2025年の表現トレンドを踏まえ、インナー・コピーライティングで経営者の想いを可視化し、社会との新しいつながりをつくるコミュニケーション設計へとつなげ、広告やPR、ネーミングで戦略策定まで伴走します。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) 東京コピーライターズクラブ(TCC) – 東京コピーライターズクラブ(TCC)
- (*2) 東京コピーライターズクラブ(TCC) – 2025年度のTCC賞授賞式レポートPart 1 新人賞・TCC賞
- (*3) 東京コピーライターズクラブ(TCC) – 2025年度 TCC賞
- (*4) note(ノート) – Ep.6 TCC賞2025年展に行ってきた(心)
- (*5) https://www.admt.jp/communication/news/article/pdf/TCC%E8%B3%9E2025%E5%B1%95_%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9_20250827-172409.pdf
- (*6) 東京コピーライターズクラブ(TCC) – 「TCC賞2025展」アドミュージアム東京にて開催!(9/19~11/1)
- (*7) TAIYO KIKAKU Co., Ltd. – 「2025年度 TCC賞」にて<TCC賞>を受賞
- (*8) 山陽新聞デジタル|さんデジ – AIマネージャーアプリ「NORDER」のCMが2025年度TCC新人賞を受賞:山陽新聞デジタル|さんデジ
- (*9) OND°|東北新社のクリエイティブユニット – 2025年度 TCC賞にてOND°の岩崎裕介が「新人賞」を受賞!