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BtoBリブランディング事例で学ぶパーセプションの変え方:ケーススタディを中心に

BtoBリブランディング事例で学ぶパーセプションの変え方:ケーススタディを中心に

はじめに

BtoB企業の多くは「認知されていない」のではなく「正しく見えていない」という課題を抱えています。事業内容が変化しても、市場からの見え方が古いままだと、商談の入り口で摩擦が生じ、本来リーチすべき顧客層を逃してしまいます。では、こうした誤ったパーセプションを変えるには、何が鍵になるのでしょうか。

答えは、社名やビジュアルの刷新だけでなく、事業戦略と連動したリブランディングの設計にあります。本記事では、SaaS・製造業・専門サービス業のケーススタディを軸に、BtoBリブランディングの事例から学べるパーセプションの変え方を詳しく見ていきます。

BtoBリブランディングの定義と前提

BtoBリブランディングの定義と前提

リブランディングとリフレッシュの違い

BtoBでは「リブランディング」と「ブランドリフレッシュ」を区別して捉える必要があります。ブランドリフレッシュとは、既存のブランド名を維持したまま、ロゴやビジュアルを刷新し、メッセージを更新する取り組みです。予算は25,000〜75,000ドル、期間は6〜12週間が目安とされています(参照*1)。

リブランディングは、社名変更を含む場合もある、ポジショニングやメッセージングを再構築する取り組みです。予算は100,000〜500,000ドル以上、期間は4〜6か月に及びます。BtoBリブランディングは、将来の成長に向けてブランドを再配置するための戦略的な方向転換であり、ポジショニング、コアバリュー、ブランドパーソナリティ、メッセージング、さらにはロゴやビジュアルアイデンティティの大幅な刷新を伴います(参照*2)。

つまり、表面的な見た目の変更で済む場合はリフレッシュ、事業の方向性そのものとブランドの乖離を解消する場合はリブランディングという区分になります。自社が必要としているのがどちらなのかを見極めることが、プロジェクトの出発点です。

BtoB特有の「誤認知」問題

BtoB企業がリブランディングを迫られる背景には、BtoC企業とは異なる「誤認知」の構造があります。よくある引き金は、事業戦略やターゲット市場の転換、M&A、製品群の拡大によって元のブランドの範囲を超えてしまうケース、そして見込み顧客から「何をしている会社なのか分からない」というフィードバックが続くケースです。いずれの場合も根底にある問題は同じで、ブランドが事業の実態を映しておらず、そのギャップが営業プロセスで摩擦を生んでいるという点です(参照*3)。

BtoBでは取引額が大きく、導入後の影響も長期に及ぶため、買い手は安心感に対して上乗せコストを払う傾向があります。1.50ポンドのチョコレートと150万ポンドのITネットワークを比べれば明白で、ここにブランドの「信頼」が果たす役割があります(参照*2)。誤認知を放置すると、信頼の構築に至る前に候補から外されてしまうため、正しいパーセプションを形成する運用が欠かせません。

パーセプション変革が必要な背景

パーセプション変革が必要な背景

購買委員会と複数意思決定者の壁

BtoBの購買判断は、個人ではなく複数の関係者で構成される「購買委員会」が行うのが通例です。ある調査では、BtoB取引の94%が3人以上の購買委員会を経由し、38%は10人以上のチームで意思決定が行われていると報告されています(参照*4)。

「ブランドが響かない」という声の実態は、「購買委員会の全員に通用していない」ということです。技術部門、財務部門、経営層など、立場の異なるメンバー全員が同じ理解に至らなければ、稟議は前に進みません。リブランディングにおけるメッセージ設計は、この多層的な意思決定構造を前提に組み立てる必要があります。

単一のターゲット像に向けた発信ではなく、複数の意思決定者それぞれの関心事に対応できるブランド体系を構築することが、パーセプション変革の出発点になります。

購買プロセスのデジタルシフト

購買プロセスのデジタル化が進んだことも、パーセプション変革を急務にしている要因です。BtoBの買い手の90%がオンライン検索から購買の旅を始めており、購買プロセスの3分の2は、営業担当者に接触する前にデジタル上で完了しています。また、意思決定までに2〜7のウェブサイトを比較検討するのが一般的です(参照*5)。

国内でも同様の傾向が見られます。顧客企業は製品導入の意思決定前にインターネットで徹底的に情報収集を行い、営業担当者が訪問する前にすでに技術的な課題や解決策の候補を把握しています。購買プロセスの半数以上がオンラインで完結しているという指摘もあります(参照*6)。

営業担当者と会う前にパーセプションが固まるこの環境では、ウェブサイトやデジタルコンテンツ上のブランド表現が、そのまま第一印象であり最終選考にも影響します。

業種別ケーススタディ

業種別ケーススタディ

SaaS事例:社名変更で上位市場を獲得

SaaS企業のリブランディング事例として、Demochimpという社名をConsensusへ変更したケースがあります。創業者のGarinとJedは、遊び心のあるDemochimpという名前がエンタープライズ向けの商談では「小さく見えてしまう」と判断し、社名変更を決断しました。新社名のConsensusは、企業向けBtoBソフトウェアの購買を容易にするという自社の価値をより的確に反映するものでした(参照*7)。

リブランディング後、Consensusは業界アナリストや顧客から「より正統で関連性のあるエンタープライズ向けサービス」として認識されるようになりました。コア製品自体は当時大きく変わっていなかったにもかかわらず、パーセプションが変わったことで市場での評価が一変したのです。この勢いと売上成長を受け、2023年にはSumeru Equity Partnersから1億1,000万ドルを調達するに至り、数十億ドル規模のソフトウェアカテゴリを定義づけたと評価されています。

製品そのものではなく、ブランドの見え方を変えたことが市場でのポジションを引き上げた事例であり、BtoBリブランディングにおけるパーセプション変革の効力を端的に示しています。

製造業事例:技術力の見える化と新市場開拓

製造業のBtoBリブランディング事例として、国内の2社を取り上げます。1社目はハードロック工業株式会社です。同社は「ねじの緩み・締結のことならここ」という専門家としての地位を確立し、情報収集を目的とした潜在顧客の集客に成功しました。その結果、従来の鉄道産業だけでなく、ロボット業界など新たな成長分野からの引き合い獲得にもつながっています(参照*6)。

2社目は株式会社日本テクノです。同社は熱処理技術という専門分野を、脱炭素という現代の社会的課題と結びつけて発信しました。抽象的な技術の説明にとどまらず、具体的な事例とデータを公開することで技術力を証明し、顧客に安心感を与えることに成功しています(参照*6)。

両社に共通するのは、技術力を「見える化」し、自社の専門性を顧客が理解できる言葉で再定義した点です。製造業では「優れた技術を持っている」だけでは市場に正しく見えません。技術をどの文脈に置き、誰に向けて語るかという設計が、リブランディングの成否を分けます。

専門サービス業事例:ポジション再定義

専門サービス業のBtoBリブランディング事例では、ポジションの再定義が中心的なテーマになります。あるデジタルエージェンシーでは、ブランド監査と調査の結果、従来の社名が小規模なニッチエージェンシーとしてのイメージと結びついており、自社が目指す「BtoBデジタルブランド体験の提供者」という位置づけと合っていないことが判明しました。そこでブランドメッセージの策定を通じて、エージェンシーの存在意義、ポジショニング、約束を再定義しています(参照*8)。

クラウドベースの接続サービスを提供するConnectbaseも同様の課題を抱えていました。既存のブランドが製品の高度さや顧客との関係規模を反映しておらず、単なるビジュアル刷新では不十分だったのです。新しい社名、新しいタグライン「Connectbase, Where the World Connects」、そしてブランド体系の再構築によって、エンタープライズバイヤーに対して自社の価値を明確に伝え、より高い水準で競争するための信頼性を獲得しました(参照*3)。

いずれの事例も、サービスの中身を変えたのではなく、市場から見たときの「自社はどういう存在か」を言語化し直すことで、商談の質と到達先を変えています。

リブランディング実行の手順と注意点

リブランディング実行の手順と注意点

社内合意形成とステークホルダー巻き込み

リブランディングを成功させるうえで最初に乗り越えるべき壁は、社内の合意形成です。リブランディングがうまくいかない主な障壁の一つは、組織内部でのエンゲージメントや支持が不足していることだと指摘されています。社員は日々の業務に追われており、リブランディングが自分にどう影響するのか、あるいはどう役立つのかをすぐには理解しません。理解が得られなければ、新しいブランド素材を共有することも、顧客向けの資料を更新することも、顧客対応に新しいブランドアイデンティティを反映することも進まなくなります(参照*9)。

社内浸透は「内から外へ」の順で進めることがポイントです。経営層との対話を通じてメッセージを開発し、経営者や担当者が持つ想いを言語化するプロセスが、社内浸透の土台になります。ブランドの変更理由と目指す姿を社内全体で共有できているかどうかが、外部に発信する前の最も重要なチェックポイントです。

SEO資産保全とサイト移行の要点

ウェブサイトの移行は、BtoBリブランディングにおいて見過ごせないリスク要因です。移行が正しく実行されれば、検索順位の一時的な低下は数週間程度で収まります。しかし最悪のケースでは、移行の不備によってブランドがGoogle上から長期間、あるいは恒久的に消えてしまう可能性があります(参照*10)。

一方で、適切な戦略を伴えば移行をむしろ成長の起点にできた事例もあります。IT Central Stationがドメインごと移行してPeerSpotへリブランディングした際には、検索の可視性が50%以上向上し、100,000以上の新しいキーワードでの順位獲得につながりました(参照*11)。また、AtTaskからWorkfrontへのリブランディングでは、新サイトへの移行時にオーガニック検索の存在感をほぼ失いましたが、リブランディング戦略によって月間のオーガニックコンバージョンを約3倍に回復させ、ターゲットキーワードの順位も改善しています(参照*12)。

SEO資産の保全は、リダイレクト設計やURL構造の整理など技術的な対応が中心ですが、ブランドの方向性と検索戦略を一体で設計することが、移行後の成長を左右します。

成果測定と失敗回避の判断基準

成果測定と失敗回避の判断基準

リブランディングの成否を判断するには、複数の視点から成果を測定する必要があります。具体的には、顧客パーセプションをアンケートやフィードバックで把握すること、売上・市場シェア・収益性などの財務指標を追うこと、新しいブランドの価値観やミッションに対する社員のエンゲージメントを測ること、そして競合と比較した市場でのポジションを評価することが挙げられています(参照*3)。ベトナムの企業を対象にした研究では、リブランディングがブランド認知、知覚品質、ブランド連想に対して有意な正の効果を持ち、特にブランド連想への影響が最も大きいことが示されました。さらに、ブランド認知と知覚品質がリブランディングとブランドロイヤルティの関係を媒介しており、長期的な顧客関係の強化に重要な役割を果たすことが確認されています(参照*13)。

一方で、失敗のパターンにも目を向ける必要があります。ある分析プラットフォーム企業は、社内向けの告知だけでリブランディングを公開した結果、初週にサポート部門へ340件の「なぜ変えたのか」という問い合わせが殺到しました。新しいインターフェースに戸惑ったトライアルユーザーの12%が離脱し、事後対応のコミュニケーションに40,000ドルの費用がかかっています(参照*1)。また、社内マーケターの86%が各マーケティングチャネルのパフォーマンスへの影響を判定できず、72%が「データの山」を前にしても実行可能な示唆を引き出せていないという調査結果もあります(参照*4)。

成果測定の設計と、変更に対する事前の説明設計は、リブランディングの「実行後」ではなく「計画段階」で組み込むべき要素です。数値を追うだけでなく、顧客や社内メンバーの認識の変化を定点で捉える仕組みをあらかじめ用意しておくことが、失敗コストの抑制につながります。

おわりに

BtoBリブランディングの事例を横断して見えてくるのは、「何を変えたか」よりも「なぜ変えたのか」を社内外に伝えきれたかどうかが成否を分けるという点です。SaaS、製造業、専門サービス業のいずれにおいても、パーセプションの変革は製品やサービスの改変ではなく、ブランドと事業の一致を取り戻す作業でした。

押さえるべきポイントは、購買委員会の全員に通用するメッセージ設計、デジタル上の第一印象を左右するサイト移行の精度、そして計画段階から組み込む成果測定の仕組みの3つです。想いを言語化し、内から外へブランドを再構築するプロセスが、市場からの見え方を変える起点になります。

お知らせ

BtoBのリブランディング事例を参照すると、企業内に眠る理念を言語化し、外部との関係を再構築する重要性が見えてきます。コピーライティングやコミュニケーション戦略をヒントに、組織の想いを言葉にして共感を生む道筋を示します。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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