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はじめに
長い歴史を持つブランドほど、いつの間にか「古い」という印象が定着し、次の世代に届かなくなるという課題を抱えがちです。狙いとするターゲットと実際の購買層にズレが生じたまま放置すると、売上の停滞だけでなく、ブランドそのものの存在意義が問われる局面に追い込まれます。
では、何をどう変えれば、ブランドは新鮮さを取り戻せるのか。本記事では、視覚表現やチャネル設計といった具体的な変更要素と、食品・アパレル・和菓子など業界をまたいだ若返りの事例を通じて、その道筋を整理していきます。
ブランド若返りの定義と背景

リブランディングの本質
ブランドの若返りを語るうえで欠かせないのが、リブランディングという考え方です。リブランディングとは、既存のブランドイメージやアイデンティティを見直し、新たな方向性や価値を打ち出すプロセスを指します。時代の変化や市場の要求に対応するために行われ、ブランドの鮮度を取り戻して競争力を強化することが目的です(参照*1)。
ロゴ変更や広告強化といった表層的な打ち手だけでは不十分です。ブランドが停滞感に直面したとき必要なのは、感覚的な刷新ではなく体系的な再設計であり、自社の強みを再解釈して新しい市場ニーズと結びつけ、一貫したストーリーとして再編集する一連の流れがあって初めてリブランディングは成果につながります(参照*2)。つまり、ブランドの若返りとは見た目の更新ではなく、内側にある価値の再定義から始まる取り組みです。
老舗が「古い」と見なされる構造
老舗や中堅企業が「古い」と見なされる背景には、ターゲットと実際の購買層とのズレがあります。ある企業では、会社が狙いとするターゲットと実際の購買層にズレが生じており、顧客の若返りが起こっていたにもかかわらず、ブランド側の発信が追いついていなかったといいます(参照*3)。
また、従来のブランディングやマーケティング手法そのものが機能しづらくなっている現実も見逃せません。Z世代やその後に続くα世代は、これまでの常識を大きく覆すライフスタイルや価値観を持っており、テクノロジーの進化や社会構造の変化に伴って、旧来の手法では彼らに届きにくくなっています(参照*4)。こうした構造的なズレが蓄積されることで、歴史あるブランドほど「時代遅れ」という印象を持たれやすくなります。
世代別インサイトの理解

Z世代の消費志向と情報行動
ブランドの若返りを考える際、まず理解すべきはZ世代の消費行動です。デジタルネイティブであるZ世代はデジタルデバイスへの依存度が高く、商品購入においてはオンライン上の情報やSNSの口コミ、信頼するインフルエンサーの意見が購買行動を左右する要素となっています(参照*5)。従来のテレビCMや紙媒体を中心としたコミュニケーションだけでは、この世代との接点をつくることが難しいといえます。
加えて、Z世代の経済的な存在感は今後ますます大きくなる見込みです。1997年から2012年に生まれたZ世代は世界人口の25%にあたる約20億人を占めており、2030年までにその世界全体の消費力は12兆ドルに成長すると予測されています(参照*6)。ブランドがこの世代に届く言葉と接点を持てるかどうかは、中長期の事業成長に直結する課題です。
X世代・ミレニアル世代の影響力
Z世代に目が向きがちですが、消費額という点ではX世代の影響力を軽視できません。現在45歳から60歳にあたるX世代は2021年以降すでに消費のピーク期に入っており、2033年まで世界で最も消費額が大きい世代であり続けると見込まれています。2025年単年の消費額は15.2兆ドルに達し、2035年には年間23兆ドルでピークを迎えるとの予測も出ています(参照*7)。
ブランドの若返りは「若い世代だけに向けた施策」と捉えられがちですが、実際には現時点で最大の購買力を持つX世代との関係を維持しながら進める必要があります。片方の世代だけを見て発信を変えてしまうと、既存顧客との断絶を招くリスクがあるため、世代間のバランスをどう設計するかが実務上の論点になります。
変えるべき5つの要素

ロゴ・VI(視覚表現)の刷新
ブランドの若返りで真っ先に議論にあがるのが、ロゴやカラー、フォント、グラフィックといった視覚表現の刷新です。これらの視覚要素は、ブランドの提供価値を「ひと目で伝える言語」として機能します。ただし、本質はその逆で、まずブランドの意味や提供価値を再定義したうえで、そのストーリーを視覚化することが欠かせません(参照*2)。
視覚表現は最終的なアウトプットであり、出発点ではありません。リブランディングはロゴの変更よりもはるかに深い取り組みであり、ブランドの名前やロゴだけでなく、ブランドが持つ意味やポジショニングを含む文脈全体を考える必要がある、という見解も示されています(参照*8)。視覚表現は最終的なアウトプットであり、出発点ではないという認識が、若返りを成功に導くための前提になります。
パッケージとプロダクト体験の再設計
視覚表現と並んで、パッケージやプロダクト体験そのものの再設計も若返りの鍵を握ります。化粧品メーカーのコーセーは、これまで大きく書かれていたブランドロゴを小さくし、シンプルなボトルデザインへと変更しました。その背景には、マーケティング調査の結果から、若い世代の間では化粧水を無地のボトルに移し替える人が多いことが判明したという事実があります(参照*9)。
この事例が示しているのは、パッケージ変更の起点は社内の美意識ではなく、ユーザーの実際の行動にあるという点です。「どう見せたいか」ではなく「どう使われているか」を起点に再設計することで、世代のズレを埋める手がかりが得られます。
ターゲット・チャネル・パーパスの再定義
視覚やパッケージの変更だけでなく、誰に届けるか、どこで届けるか、なぜ届けるかという3つの軸を見直すことも、ブランドの若返りには不可欠です。和菓子メーカーの事例では、ギフト目的で購入する50~60歳代が購買の中心であったところ、より若い層にも届けたいという意図から、ペルソナを「36歳の主婦、お子さんが二人いらっしゃって、子育て中の方」と具体的に再設定しました(参照*10)。
ターゲットを再定義すれば、おのずとチャネルも変わります。Z世代やα世代には従来のブランディングやマーケティング手法が機能しづらくなっている以上、接点の設計はターゲット像と一体で考える必要があります(参照*4)。ターゲット、チャネル、パーパスの3つを同時に問い直すことで、変更の方向性にブレが生まれにくくなります。
業界別・若返り成功事例

食品・飲料:湖池屋、ココナッツサブレ、ぬま田海苔
食品・飲料分野には、ブランドの若返りを体現した事例が複数あります。湖池屋は2016年にコーポレートブランドの再編を決定し、企業ロゴや社屋、スローガン、社章、名刺など数多くの要素を刷新しました。「ポテトチップスの老舗」というポジションを明確に打ち出した結果、2017年2月に誕生した「KOIKEYA PRIDE POTATO」は、既存のスナック菓子にはない洗練されたパッケージデザインや高い品質が評価され、年間40億円を達成する大ヒット商品となりました(参照*1)。
ココナッツサブレは、ブランドとしての古さを逆手に取ったアプローチで成功しています。「ニューレトロ」をテーマに新商品を開発したところ、SNSで話題となり、「パッケージがかわいい」と若者にも受け入れられました。既存のブランド価値を守りつつ時流を捉えたことで、新規顧客の獲得につながった事例です(参照*9)。
ぬま田海苔は、海苔に「漁場名」と「等級」があり、それぞれおいしさや個性が異なることに着目しました。産地と等級をオープンにして商品のネーミングに反映させることで、「海苔のシングルオリジン」として販売するリブランディングを実施しています。その結果、リブランディングから6~7年で売上は10倍にまで伸びました(参照*11)。いずれの事例にも共通するのは、既存の強みを捨てるのではなく、新しい文脈で語り直している点です。
アパレル・日用品:ユニクロ、Old Spice
アパレル分野では、ユニクロの事例が代表的です。ユニクロはヒートテックやエアリズムといった低価格かつ高機能なヒット商品を連発することで、「安かろう、悪かろう」というイメージを覆し、世界に通用するブランドとして復活を遂げました(参照*1)。商品そのものの品質向上と価格のバランスを再設計したことが、ブランドの認識を根本から変えた好例です。
海外の日用品分野では、Old Spiceの若返りが広く知られています。Old Spiceはかつて年配向けのイメージが強いブランドでしたが、母親が息子の成長に戸惑うという普遍的な体験をテーマにした「Mom Song」キャンペーンを展開しました。このキャンペーンは10年以上を経て再び展開され、新たな世代にも訴求を続けています(参照*12)。プロダクトの変更だけでなく、コミュニケーションの軸を再構築したことが若返りの推進力になっています。
和菓子・地方メーカー:梅林堂の共同制作企画
地方メーカーのブランド若返り事例として、和菓子の梅林堂が取り組んだ共同制作企画があります。梅林堂では、若手クリエイターと組んで限定パッケージ品を制作しました。2021年7月に発売された「夏の花畑」という限定パッケージ品は、若い層にも好評を博しています。ある店舗からは「『あの箱可愛いから買って!』と彼氏に言っている20代ぐらいの女性がいらっしゃいましたよ」という報告が寄せられたといいます(参照*10)。
梅林堂は50~60歳代のギフト購入者が中心の和菓子ブランドであり、20代の来店者がパッケージをきっかけに購入するという体験はそれまでなかったとのことです。デザインの力でこれまで接点のなかった世代との関係が生まれた事例であり、大規模な広告投資を伴わなくとも若返りの糸口はつくれるという示唆を含んでいます。
失敗事例に学ぶ注意点

ブランドの若返りは、進め方を誤ると逆効果になります。コカ・コーラ社は100周年を前にした1985年に、コカ・コーラの味をリニューアルするという大胆なリブランディングを実施しました。大規模な味覚テストを行うなど入念なリサーチのもとで進められましたが、消費者からは大きな反発を招き、半年もたたずに元の味に戻すことになりました(参照*9)。データ上は裏付けがあっても、顧客がブランドに抱く感情的な結びつきを軽視すると、変革は受け入れられません。
海外のパッケージ変更でも同様の教訓があります。2009年にTropicanaがパッケージを極端にシンプルなデザインへ刷新したところ、消費者が店頭で商品を見つけられなくなるという事態が起き、結局もとのデザインに戻しています(参照*8)。
これらの事例に共通するのは、リブランディングの目的やビジョンが顧客目線で十分に共有されなかった点です。何のためにリブランディングを行うのかが曖昧なまま進めると、適切な戦略を立てられず、ブランドに愛着を持つ顧客や従業員の納得も得られません(参照*1)。変えるべきものと守るべきものの境界線を、事前に言語化しておくことが欠かせません。
おわりに
ブランドの若返りは、ロゴやパッケージを新しくすることだけでは実現しません。自社の強みを再解釈し、届けたい相手を再定義し、その価値を一貫したストーリーとして編み直す。この「内から外へ」の順序を守ることが、成功事例に共通する原則です。
湖池屋やぬま田海苔、梅林堂の事例が示すように、既存の資産を活かしながら新しい文脈をつくることで、大規模な投資がなくとも若い世代との接点は生まれます。変えるべき要素とその優先順位を見極めるところから、ブランドの若返りは始まります。
お知らせ
ブランド若返りの事例を通じて、インナー・コピーライティングで想いを言語化し、広告やPRと連携して共感を醸成し新たなつながりを生み出す道筋をご覧ください。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) CMS開発・Webサイト制作|LeadGrid – リブランディングの成功事例13選|実践して成果を出すポイントも解説|Webサイト制作 / CMS・MAツール|LeadGrid(リードグリッド)
- (*2) 朝日広告社 – リブランディングとは?意味・手順・成功の条件をわかりやすく解説
- (*3) F-INC. (エフインク) – 全員参加「ワークショップ」で“覚醒”!「リブランディング」で「ブランド」を統合
- (*4) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – イグニション・ポイントと超十代、新時代を牽引する超Z世代タレントをCZOに迎えて事業開発を支援する組織横断チーム「超未来ラボZ」を発足
- (*5) Deloitte – 2025年度「国内Z世代意識・購買行動調査」
- (*6) NIQ – NIQ and World Data Lab unveil “Spend Z” Report
- (*7) NIQ – “Gen X” Emerges as Most Influential Global Consumer Cohort
- (*8) Emerson Today – From X to Barbie: Marketing Faculty on the Good, the Bad, and the Ugly of Rebranding
- (*9) 【業界別】リブランディングの事例一覧!20の成功事例と5の失敗事例から学ぶ
- (*10) FG Platz 【エフジープラッツ】プリンティングビジネスの未来を広げるひろば – 老舗和菓子メーカー・梅林堂に聞くブランドの個性を引き出すパッケージ戦略(前編)商品に新たな価値をプラスするRevoria Press PC1120の表現力
- (*11) ツギノジダイ – ソース自販機や海苔のリブランディングで販売促進 老舗の商品開発に迫る
- (*12) Old Spice Teams Up With Iconic R&B Group to Ignite Beloved “Mom Song” in New Campaign: ‘The End of Adolescents’