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はじめに
市場や顧客が変化し続けるなかで、企業が過去に築いたブランドの印象と、いま届けたい価値の間にズレが生まれることは珍しくありません。このズレを放置すると、商品やサービスの実力に反して選ばれにくくなり、採用や社内の士気にも影響が及びます。
リブランディングの進め方を体系的に押さえておけば、表層的なロゴ変更で終わることなく、調査から言語化、クリエイティブ開発、効果測定までを一貫して設計できます。本記事では、各フェーズで発注側が整理すべきポイントを順を追って解説します。
リブランディングの定義と前提整理

リブランディングの意味と対象範囲
リブランディングとは、既存のブランドアイデンティティや市場でのポジショニングを戦略的に見直し、再定義する取り組みです。企業名、ロゴ、ビジュアルアイデンティティ、メッセージング、対象市場、価値提案など、ブランドを構成するあらゆる要素がその対象となります(参照*1)。
ここで押さえておきたいのは、リブランディングにはふたつの方向性がある点です。将来の成長や新市場参入を見据えて自発的に行う「攻めのリブランディング」と、ブランドイメージの低下や合併・買収、競合環境の激変など外部要因への対応として行う「守りのリブランディング」です(参照*1)。自社がどちらの状況にあるのかを見極めることが、プロジェクトの出発点になります。
実施を判断すべきタイミング
リブランディングの必要性は、おもに4つの兆候から見えてきます。まず、顧客層が変化し競合が増えたことで自社のポジションが曖昧になっている状態です。次に、事業の拡大や合併、新製品の投入、新たな地域展開などで事業構造自体が変わった状態が挙げられます。さらに、ブランドが社内のチームを鼓舞しなくなっている状態、そして市場から過小評価されたり誤解されたりしている状態です(参照*2)。
これらの兆候はひとつだけで現れることもあれば、複数が同時に進行することもあります。自社の状態を冷静に棚卸しし、どの兆候にあてはまるのかを整理することが、リブランディングの進め方を検討する最初の一歩になります。
プロセス全体像と6つのフェーズ

リブランディングの進め方は、いきなりデザインに着手するのではなく、戦略的な順序に沿って進行します。まず「何がうまく機能していないのか、なぜか」を明確にするところから始まり、そこから関係者の認識合わせ、戦略策定、クリエイティブ表現、そして実行へと移ります。各フェーズは前のフェーズの成果のうえに成り立ち、各段階で明確なアウトプットが得られる構造です(参照*2)。
具体的な期間の目安としては、戦略策定に2〜3か月、デザイン開発に2〜4か月、社内浸透と実装に3〜6か月、合計で6か月〜1年程度を見込むのが一般的です。急ぎすぎると品質が低下し、長すぎると組織の求心力が薄れるため、適切なスケジュール管理が欠かせません(参照*1)。本記事では、このプロセスを「現状調査」「言語化」「社内合意形成」「クリエイティブ開発」「展開設計」「効果測定」の6つのフェーズに分けて、それぞれの進め方を順に説明していきます。
現状パーセプション調査の進め方

定量・定性を組み合わせた調査設計
リブランディングは、現状のパーセプション調査から始めることが基本です。パーセプションとは、顧客や社会がブランドに対して抱いている認識や印象を指します。ここでは、社内と社外の両面から情報を集めることが求められます。
社内向けには、従業員から企業イメージやニーズを把握するための調査を行い、「自社らしさ」や「向上させるべきイメージ像」の示唆を得ます。方法としては、インターネットを用いたアンケートやインタビューなど、目的や組織の規模に応じたさまざまなアプローチがあります(参照*3)。
社外に向けては、市場・顧客・競合の3つの観点で情報を収集します。市場は伸びているのか縮んでいるのか、価格競争の激しさはどうか。顧客は誰が何に困っていて、購入の決め手は何で、どんな不安がブレーキになっているのか。競合はどんな言葉で約束し、どんな体験を提供しているのか(参照*4)。この3軸を定量と定性の両面で押さえることで、後のフェーズで判断を誤るリスクを下げられます。
認識ギャップの可視化手法
認識ギャップを可視化すると、リブランディングで優先すべき論点が整理できます。認識ギャップとは、企業側が「自社の製品はこのような価値を提供している」と信じていることと、顧客側が「その製品はこういうものだ」と実際に認識していることの間に存在する深い溝を指します。多くのマーケティング活動が成果を上げられない根本的な原因は、この認識ギャップにあるとされています(参照*5)。
可視化の方法としては、社内調査で得られた「自社が伝えたい価値」と、社外調査で明らかになった「顧客が受け取っている印象」を並べ、項目ごとにズレの大きさを整理する方法が実務的です。なお、新規事業やリニューアル時に詳細なペルソナを最初から作り込むと方向修正が難しくなるため、仮説ベースの「プロトペルソナ」で複数のユーザー像を並行して検証する進め方も有効です(参照*6)。ギャップが大きい項目こそ、リブランディングで優先的に手を打つべき領域になります。
目指す姿の言語化と社内合意形成

ブランドアイデンティティの再定義
目指す姿の言語化は、リブランディングの進め方のなかでも核となる工程です。現状分析を踏まえ、次のフェーズでは「自社はこれからどう見られたいのか」を言葉にする作業に入ります。
具体的な進め方の一例として、東邦ガスグループの事例があります。自社の現状分析を踏まえ、社内外のステークホルダーが共通認識を持てるよう、目指す方向性を「魅力的な地域をつくる会社」へと再定義しました。この過程では、現場社員も参加する制作ワークショップを実施し、そのアウトプットをもとに数百パターンにおよぶブランドアイデンティティ案が作成されています(参照*3)。
またコクヨは、長期ビジョンの策定やパーパスの制定、東京・品川オフィス「THE CAMPUS」の開設・改装などを経て、ステークホルダーからの見え方が大きく変化しました。自社の目指す先がより明確に言語化されたことを受け、会社の顔であるロゴとビジュアルアイデンティティを含むコーポレートアイデンティティを再定義しています(参照*7)。いずれも、経営方針の変化を起点に「言葉」と「視覚表現」の両面で再定義を行っている点が共通しています。
経営層から現場までの合意形成手法
合意形成を先に固めると、リブランディングの過程が断片化するリスクを下げられます。リブランディングはブランドに関わるあらゆる領域に影響するため、経営層レベルでの認識合わせなしにプロジェクトを進めると、過程が断片化するリスクがあります。まず関係者を集め、何を変えるのか、成功とは何かを定義するところから始めることが求められます(参照*2)。
一方で、社内だけで進めると、部門間のバランスや社内政治への配慮が重なり、尖っていたコンセプトが誰からも反対されない「無難な言葉」に落ち着いてしまうケースがあります。誰も傷つけない言葉は、誰の心にも届きません(参照*8)。
東邦ガスグループの事例では、経営陣向けの説明資料の作成を支援しながら、全社が納得できる成果物になるよう約半年をかけて合意形成を丁寧に進めました(参照*3)。合意形成は一度の会議で終わるものではなく、経営層と現場の双方が「自分ごと」として捉える時間と対話が不可欠です。
クリエイティブ開発と展開設計

VI・メッセージ・ガイドラインの開発
クリエイティブ開発では、言葉と見た目を一貫したルールとして整えます。戦略と合意形成が固まったら、それを目に見える形に落とし込むクリエイティブ開発のフェーズに入ります。ブランドアイデンティティとは、人々がそのブランドに接したときに見て、聞いて、感じるものすべてを指します。視覚面ではロゴ、カラーパレット、タイポグラフィ、画像表現、デザインテンプレートが含まれ、言語面では語り口(トーン・オブ・ボイス)、メッセージ構造、言葉づかいのスタイルが含まれます。言語面の設計によって、誰が発信しても、どの媒体であっても、ブランドが「自分らしい声」で語れるようになります(参照*2)。
国内の事例としては、NTTグループが新たなコーポレートアイデンティティとして定めたロゴデザインをグループ各社のコーポレートロゴにも適用する方針を示しました。NTTデータグループは国内事業でも「ダイナミックループ」を採用し国内外でのブランド統一を図り、NTTドコモグループは国内で定着しているレッドをダイナミックループに適用しています(参照*9)。グループ全体の視覚言語を統一しながらも、各社の個性を残すというバランスが設計されています。
タッチポイント別ロールアウト計画
展開設計は、品質と一貫性を左右する重要な工程です。クリエイティブが完成しても、一斉にすべてを切り替えられるとは限りません。リブランディングの進め方において、展開設計は品質と一貫性を左右する重要な工程です。
オランダの不動産情報サービス大手fundaのリブランディングでは、影響度の高いタッチポイントを優先し、共通コンポーネントについて早期に足並みを揃える方針が採られました。マーケティングチームが先行して多くの新デザインテンプレートを作成し、他のデザイナーと連携してプラットフォーム全体の視覚的統一を進めています。デザイン面での最大の課題は、「意味のある刷新」と「利用者にとっての唐突さの回避」のバランスでした。利用者に愛されているブランドだからこそ、段階的な展開のほうが受け入れられやすいと判断されたのです。技術面では、ロゴやヘッダーの差し替え、スタイルの更新、異なるフロントエンドの同期など、ホームページからログイン画面、メールに至るまであらゆる箇所に変更が及び、一貫性の確保が最も難しいポイントでした(参照*10)。展開計画を立てる際には、優先順位づけと段階的なリリースの設計が欠かせないことが分かります。
効果測定と継続的な改善

効果測定と改善の循環に入ることで、リブランディングは「展開して終わり」になりにくくなります。リブランディングの進め方は、展開して終わりではなく、効果測定と改善の循環に入ってはじめて完成します。リブランディング後は、設定した目標に対する達成度を定期的に測定します。ブランド認知度、顧客満足度、売上推移、SNSでのエンゲージメントなど、複数の指標を追跡し、必要に応じて微調整を行うことが求められます(参照*1)。
想起や印象の方向性も確認すると、数値だけでは見えないズレを把握できます。数値の変化だけでなく、「どう覚えられているか」という質的な面にも目を向ける必要があります。認知が増えても、想起される印象の方向性がズレていれば効果は限定的です。そのカテゴリで思い出してもらえるか、真っ先に名前が挙がるか、といった観点での確認が欠かせません(参照*4)。
パーセプションの変化を継続的に把握し、戦術を柔軟に修正していくことがポイントです。こうしたパーセプションの変化を継続的に監視する手段としては、ブランドトラッキング調査やソーシャルメディア分析が挙げられます。計画通りに進んでいない部分を特定し、戦術を柔軟に修正していくPDCAサイクルを回すことが、長期的な成功には不可欠です(参照*5)。
失敗パターンと回避策

リブランディングの進め方を知っていても、陥りやすい落とし穴は存在します。よくある失敗のひとつが、ロゴやカラーを変えただけで「リブランディング完了」としてしまうケースです。見た目は変わっても、ブランドの提供価値や顧客体験が変わらなければ、消費者は違和感を覚えます。ビジュアルの変更はリブランディングの一部分に過ぎず、ブランド体験全体の設計が不可欠です(参照*1)。
もうひとつの典型的な失敗は、プロジェクトの優先順位が下がり続けるパターンです。ブランディングは「重要だが、緊急ではない」経営課題であり、内製チームの多くは各部署からの兼務で結成されます。目の前のトラブル対応や今月の売上目標の達成が優先され、結果としてリブランディングが停滞するのです(参照*8)。
社内でのテスト工程を挟むと、展開前の見落としを拾いやすくなります。これらを回避するためには、社外に公開する前に社内でリブランディングの成果を試す工程を設けることが有効です。社内テストでは、想定通りに受け止められていない箇所や見落としを検出でき、適切なフィードバックをこの段階で得ることが、最終的な展開の精度を高め、後から発生するコストの大きな手戻りを防ぎます(参照*2)。
おわりに
リブランディングの進め方は、現状調査で認識ギャップを把握し、目指す姿を言葉にし、社内の合意を固めたうえで、クリエイティブ開発と展開設計を経て効果測定に至る一連のプロセスです。どのフェーズも前段の成果を土台にしているため、順序を飛ばすと手戻りが大きくなります。
特に言語化と合意形成のフェーズは、経営層と現場の対話を通じてブランドの芯を定める工程であり、ここに十分な時間をかけられるかがプロジェクト全体の質を左右します。「内から外へ」の順序を意識しながら、自社に合ったリブランディングの進め方を設計してみてください。
お知らせ
リブランディング×進め方は、想いを言語化して社内外の共感を築くことが肝心です。コピーライティングやネーミング、広報の視点で戦略を整理し、実務的な手順へつなげる設計が有効です。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) reiro | Start Up Branding – Start Up Branding
- (*2) Motto® – A complete guide to a successful rebranding process
- (*3) SEVEN DEX POST – ブランディングの流れについて解説!実際の事例を交えながら進め方、ポイントをおさえる!|セブンデックス
- (*4) SEVEN DEX POST – ブランディング方法を完全解説|進め方の流れと成功ポイントまで|セブンデックス
- (*5) パーセプションチェンジとは何か? 市場を創る前に、“認識”を創るBtoB戦略の真髄
- (*6) PM x LLM STUDIO – 現役PdMがプロダクトマネジメントと生成AI活用について発信 – 「プロトペルソナ」の考え方で、新規事業・リニューアル・新機能でハズレを最小化する
- (*7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – コクヨ、120周年を機にリブランディング。初のコーポレートメッセージ「好奇⼼を⼈⽣に」を設定、ロゴ刷新
- (*8) 朝日広告社 – 企業ブランディングの内製化が失敗する理由|外部パートナーとの共創で成功する方法
- (*9) NTT – NTTグループのCIの刷新について
- (*10) Funda Engineering blog – Rebranding at scale: how we sharpened Funda’s visual identity across the platform