![]()
はじめに
ビジネスの現場では、自分の想いや提案を相手に届ける場面が日常的に発生します。しかし「伝えたつもりなのに、相手に伝わっていなかった」という経験は、多くの方が持っているのではないでしょうか。伝わる言葉の作り方を知らないままでいると、どれほど優れた商品やサービスであっても、その価値が届かないまま埋もれてしまいます。
伝わる言葉には、メッセージの絞り込み、読者視点の設計、そして平易な表現への置き換えといった具体的な技術があります。本記事では、伝わらない原因の分析から、共感を生む7つのコツ、実践的な5ステップの作り方までを順を追って解説します。
「伝わる言葉」の定義と前提

「伝える」と「伝わる」の違い
コピーライティングでは、「伝えたいこと」ではなく「伝わること」が基準になります(参照*1)。発信者が情報を発する行為と、受け手がその意味を正しく理解する状態は、まったく別のものです。
「伝える」は発信者側の動作であり、「伝わる」は受け手側の状態を指します。効果的なコミュニケーションとは、アイデアや考え、情報がやり取りされ、メッセージが明確に受け取られ理解されることです。それは単に話すことにとどまらず、傾聴の技術や対人関係の深い理解を必要とします(参照*2)。つまり、発信者がどれだけ正確に語っても、受け手の理解に至らなければ「伝わった」とは言えません。伝わる言葉の作り方を考えるうえで、この視点の転換が出発点になります。
SN比で理解する伝達の原理
伝わる言葉の仕組みを理解するために役立つ概念が「SN比」です。SN比は主に情報通信の分野で用いられる考え方で、Sはシグナル、つまり相手にとって意味がある情報を指します。Nはノイズ、つまり相手にとって意味のない情報、いわば雑音です(参照*3)。
1つのメッセージが相手に伝わりやすい理由は、このSN比を大きくできるからです。シグナルが大きくノイズが小さいほど、受け手はメッセージの核を正確に受け取れます。したがって伝わる言葉の作り方とは、シグナルを明確にしながら、ノイズを限りなく減らす技術だと言えます。文章や会話を設計する際に「この情報は受け手にとってシグナルか、ノイズか」と問い続けることが、伝わる言葉を生み出す基本姿勢になります。
伝わらない言葉の共通点

情報過多と焦点のぼやけ
伝わらない文章に共通する特徴の一つが、情報の詰め込みすぎです。相手に伝わるようにしようと思うと、伝えようとするシグナルを強くすることを考えがちです。しかし、相手に伝わるために大事なのはあくまでもSN比であり、シグナルを強くすることと同じくらい、ノイズを減らすことが大切です。にもかかわらず、ノイズを減らすことは見落とされがちです(参照*3)。
読み手は特定の情報を探しています。あまりに多くの話題を盛り込むと、読み手は困惑し、メッセージはぼやけてしまいます。読み手が知る必要のある情報に絞り、提供するすべての施策変更やサービスを網羅しようとしないことが肝心です(参照*4)。焦点を絞る行為そのものが、伝わる言葉の作り方の第一歩です。
専門用語・曖昧表現の落とし穴
専門用語や業界特有の表現は、読み手にとってノイズになり得ます。英国の教育省が公開する文書作成の指針では、専門的な用語を使う場合には、最初に登場する箇所で平易な言葉による説明を添えることを求めています(参照*5)。
専門用語の問題は「知識の差」が生むノイズです。曖昧な表現もまた同様で、「なるべく早く」「できるだけ多く」といった言い回しは、書き手と読み手の間で解釈の幅が生まれます。伝わる言葉を作るには、受け手の語彙と前提知識に合わせて表現を選ぶ配慮が欠かせません。
共感を生む文章術7つのコツ

コツ1:メッセージを一つに絞る
伝わる言葉の作り方で最も基本となるのが、メッセージを一つに絞ることです。戦略コンサルティングの現場では、プレゼン資料を作る際に「1スライド、1メッセージ」で伝えることが求められます。1枚のスライドで伝えることはメッセージを一つに絞って一文で伝え、さらにプレゼン全体でも伝えることを一つに絞って一文で伝えます。すなわち「1プレゼンテーション、1メッセージ」です(参照*6)。
この原則は文章にもそのまま当てはまります。一つの文書、一つの段落、一つの文で言いたいことが複数あると、読み手はどこに焦点を合わせればよいか分からなくなります。メッセージを一つに絞ることで、先に述べたSN比が高まり、受け手の理解が格段に進みます。
コツ2:読者の悩みから書き始める
伝わる言葉は、書き手の言いたいことからではなく、読者の悩みから始まります。ターゲットが「誰でもよい」では言葉は届きません。企業規模や業種、役職、担当している業務領域、抱えている課題、導入を検討している期限、そして期待している成果など、できるだけ詳細に言語化することが求められます。そうすることで、一点集中で刺さる言葉が見えてきます(参照*1)。
読者像を具体的に描くほど、その人が抱える悩みや関心事が鮮明になります。伝わる言葉の作り方とは、読者の頭の中にある問いに先回りして答えを提示する行為とも言えます。「自分のことだ」と感じてもらえた瞬間に、言葉は初めて相手の内側に届きます。
コツ3:結論ファーストの構成
読み手が求める情報を最短で届けるには、結論を先に置く構成が有効です。読み手は特定の情報を探しており、必要な情報にたどり着けなければ離脱してしまいます(参照*4)。
結論を先に述べたうえで、その根拠や背景を後から補足する流れは、文章の本来の目的と合致します。その目的とは、読み手がストレスなく情報を取得し、正確な意思決定を行えるようにすることです(参照*7)。結論を冒頭に置くだけで、読み手は「この文章に自分の求める答えがある」と判断でき、最後まで読み進める動機が生まれます。
コツ4:一文一義と短文リズム
伝わる言葉を作るうえで、文の長さは見過ごせない要素です。一文が長くなると構造が複雑になり、主語と述語の対応が曖昧になります。文を区切ることで要点を明確に伝えられます(参照*7)。
一文一義とは、一つの文に一つの情報だけを載せるという原則です。短い文が連なるリズムは、読み手の負荷を下げるだけでなく、書き手自身の論理の破綻にも気づきやすくなります。長文を書き終えたあとに「この文は二つ以上のことを言っていないか」と確認する習慣が、伝わる言葉の作り方を底上げします。
コツ5:機能でなく価値を伝える
商品やサービスについて書くとき、仕様や機能の羅列に終始してしまうことがあります。しかし、コピーを書く際に大切なのは、商品の「機能」ではなく、それによってどんな変化が生まれるのかを伝えることです(参照*1)。
読者が知りたいのは、「その機能があることで、自分の仕事や生活がどう良くなるのか」という未来の姿です。たとえば処理速度が上がるという機能は、「作業にかかる時間が減る」といった変化に置き換えることで、読者の実感と結びつきます。機能を価値に翻訳する視点が、伝わる言葉の作り方を一段深いものにします。
コツ6:平易な言葉に置き換える
伝わる言葉の作り方で欠かせないのが、難しい言葉を易しい言葉へ置き換える作業です。埼玉県深谷市では「やさしい日本語」の取り組みとして、専門用語などを簡単な言葉に置き換え、文章自体を短くする方法を紹介しています。たとえば「高台に避難」は「たかいところへにげて」に、「ご不明な点はお問い合わせください」は「わからないことは、聞いてください」に言い換えます(参照*8)。
堅い言葉ではなく平易な言葉を選ぶことは、内容の質を下げることではありません。読み手の専門知識を前提としない言い回しを選ぶことは、忙しい相手への敬意であり、相手の時間を節約し、認知的な負荷を減らす行為です(参照*4)。
コツ7:数字と事実で裏付ける
言葉に説得力を持たせるためには、具体的な数字や事実による裏付けが欠かせません。数字という客観的な事実があるだけで、エピソードのイメージのしやすさや説得力が跳ね上がります(参照*9)。
「大幅に改善した」よりも具体的な数値を示すほうが、読み手の頭に明確な像が浮かびます。ただし、ここで気をつけたいのは数字の正確さです。誇張表現や根拠のない数字の使用は、ブランドイメージの低下や企業としての信頼が失墜するリスクもあります(参照*1)。数字は武器になる一方で、扱い方を誤れば信頼を損なう刃にもなり得ます。
伝わる言葉の作り方5ステップ

7つのコツを実践に落とし込むためには、作業の手順を明確にしておくことが役立ちます。伝わる言葉の作り方は、次の5つのステップで整理できます。
- 目的とターゲットを明確にする
- 顧客の悩みとニーズを分析する
- 商品やサービスの強みを整理する
- 顧客の悩みと商品の強みの接続点を見つける
- 伝えたい内容を長文から短文へまとめる
この手順の核となるのは、ステップ4の「接続点を見つける」作業です(参照*1)。読み手が抱える悩みと、自社が提供できる価値の重なる部分にこそ、伝わる言葉の種が眠っています。まず読み手が誰で、どんな情報を必要とし、その情報をどう使うのかを把握することが起点になります(参照*4)。
ステップ5で長文から短文へ圧縮する工程は、ノイズを削ぎ落としてシグナルだけを残す作業にほかなりません。この5ステップを順にたどることで、書き手の想いが読み手に届く言葉へと変わっていきます。
失敗を防ぐ3つの注意点

伝わる言葉の作り方を実践するうえで、避けるべき落とし穴が3つあります。1つ目は、誇張や根拠のない数字の使用です。誇張表現や裏付けのない数字は、ブランドイメージの低下や企業としての信頼が失墜するリスクをはらんでいます(参照*1)。
2つ目は、わかりやすさの効果を軽視することです。平易な言葉で書き直した規制文書について、問い合わせが半減し、遵守率が2倍になったという調査結果が紹介されています(参照*4)。言葉の平易さは単なる親切ではなく、成果に直結する要素です。
3つ目は、生成AIなどのツールに頼りきることです。生成AIによる文章補正の精度は高まっていますが、ツールが出力した文章が本当に伝わりやすい構造になっているかを最終的に判断するのは人間の役割です(参照*7)。ツールを活用しつつも、読み手の視点での最終確認を省かないことが、失敗を防ぐ鍵になります。
おわりに
伝わる言葉の作り方は、特別な才能ではなく、メッセージの絞り込み、読者視点の設計、平易な表現の選択、そして数字による裏付けといった具体的な技術の積み重ねで成り立っています。どの技術も「受け手の頭の中」を想像するところから始まります。
自社の想いを言葉にする際には、まず「伝えたいこと」を脇に置き、「相手に伝わること」を基準に据えてみてください。その視点の転換が、社会との新しいつながりを生み出す第一歩になります。
お知らせ
伝わる言葉と作り方を知ることは、想いの言語化やインナー・コピーライティングで社会とつながる第一歩です。広告や広報、ネーミングを横断したコミュニケーション設計で、事業の価値を明確にする道筋を描きます。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) 株式会社エンビジョン – 顧客の心を動かすコピーライティングのコツ!作成方法も解説
- (*2) Asana – 12 tips & styles [2026] • Asana
- (*3) ダイヤモンド・オンライン – 1メッセージ 究極にシンプルな伝え方
- (*4) https://governor.wa.gov/sites/default/files/2024-04/Plain%20Language%20Guidelines%20page.pdf
- (*5) Design manual – Guidance to meet the Plain Language standard
- (*6) ダイヤモンド・オンライン – 1メッセージ 究極にシンプルな伝え方
- (*7) U-Site – 文章作成の10のコツ:HCD専門家に求められる文章作成能力
- (*8) やさしい日本語(にほんご)/深谷市ホームページ
- (*9) アクセス就活PLUS|就活ノウハウをイラストで紹介する情報サイト – 例文付き|心を掴む1分の自己PR! 秒数で区切る要約術で選考突破