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はじめに
商品やサービスの認知度が高いにもかかわらず、売上が伸び悩むケースは少なくありません。その原因は、消費者が抱く「認識」そのものにあるかもしれません。認識が固定されたままでは、新しい顧客層やニーズにたどり着けず、成長の壁にぶつかります。
こうした壁を突破する手段として、パーセプションチェンジが注目されています。製品を変えずに認識を変えることで、新しい需要を生み出せるのがこの手法の特徴です。本記事では、パーセプションチェンジの定義から実践手順、成功事例、注意点までを順に解説していきます。
パーセプションチェンジの定義

パーセプションの意味と構成要素
パーセプションとは、消費者が商品やサービスをどのように認識しているかを表す概念です。消費者は意識するかどうかにかかわらず、特定の商品やサービスに対して何らかのイメージを抱いています。そのイメージは商品の実態を正確に反映しているとは限りませんが、「一般的なイメージ」として浸透し、定着していく点が重要なポイントです(参照*1)。
パーセプションチェンジとは、この消費者の認識や感じ方を変えることを指します。商品やサービスの価値を再定義し、消費者の心に新たな認識を根づかせることで実現されます。その結果、消費者が商品やサービスを必要とする瞬間に、そのブランドが最初に思い浮かぶ状態をつくり出すことができます(参照*2)。
つまり、パーセプションチェンジとはAという認識をBに変える、あるいは拡張することです。製品そのものや機能を変える必要はなく、認識を変えることで新しい顧客層に訴求でき、新しいニーズが生まれます(参照*3)。ブランドの核となる要素はそのままに、消費者の頭の中だけを動かすのがパーセプションチェンジの本質です。
認知向上との違い
認知向上は「知っているかどうか」を高める取り組みであり、ブランド名や商品名を覚えてもらうことが目的です。一方、パーセプションチェンジは「どう認識しているか」を変える取り組みであり、すでに知られている商品に対して新しい意味づけを行います。
たとえば森永「ラムネ」は認知度85%と、ほとんどの人が知っている商品です。しかし共通認識は「子どものお菓子」にとどまっていました(参照*3)。この場合、認知度をさらに上げても購買層は広がりません。必要なのは「子どものお菓子」という固定された認識を動かすことです。認知が十分に高い商品にとって、パーセプションチェンジは認知向上とは質的に異なるアプローチとなります。
いま求められる背景

市場飽和とコモディティ化
パーセプションチェンジが求められる背景には、市場にモノやサービスが行きわたり、飽和状態になっている現実があります。たとえば子ども向けのお菓子はすでに多種多様な商品が発売されており、これまでにないまったく新しいお菓子を市場に投入して売上を大きく伸ばすことは容易ではありません(参照*1)。
メンズシェーバー市場にも同様の構造が見られます。人口減少のなかで市場全体が縮小し、40代を超えるとブランドの乗り換えがほとんど起こらない傾向があります。各メーカーは「深ぞり」と「肌に優しい」という共通の訴求を続けており、新たな需要の創造ができていなかったと指摘されています(参照*4)。製品の性能差だけでは差別化が難しいとき、消費者の認識そのものを動かすパーセプションチェンジが有力な選択肢になります。
認知があっても売れない時代
認知度が高ければ売上につながるという考え方は、飽和した市場では通用しにくくなっています。森永「ラムネ」は認知度85%という高い水準にありながら、45年にわたって「子どものお菓子」という共通認識が固定されていました(参照*3)。認知されていても、消費者がその商品を「自分向け」と感じなければ、購入に至ることはありません。
こうした状況では、知名度をさらに広げる広告よりも、既存の認識を別の文脈に変換する施策のほうが効果的です。パーセプションチェンジは、製品そのものや機能を変えずに認識だけを動かすことで、新しい顧客層や利用場面を開拓できます(参照*3)。「知っているけれど選ばない」という壁を越えるために、認識の転換が求められています。
関連概念との違いと位置づけ

リポジショニングとの比較
リポジショニングとは「ブランドのポジショニングを変えること」であり、しばしばターゲットの変更やブランド・コンセプトの変更を伴います。ここでいうポジショニングとは「心の空白地帯にメッセージや名称やイメージを送り届けること」であり、トラウト(1996)は「リ・ポジショニングこそが、ポジショニングである」と言い切っています(参照*5)。
一方、パーセプションチェンジは製品やブランドの基本構造を変えずに、消費者の認識だけを動かす手法です。リポジショニングではターゲットやコンセプトの再設計が前提となるのに対し、パーセプションチェンジはブランドの核を保ったまま認識の拡張や転換をはかります。両者は重なる部分もありますが、パーセプションチェンジのほうがブランドの骨格に手を入れない分、取り組みやすいアプローチといえます。
リブランディングとの関係
リブランディングはブランド全体のアイデンティティを評価し直し、再構築する取り組みです。視覚的な刷新であるリフレッシュ、ブランドの物語や提供価値を更新するリポジショニング、そしてブランド全体の再設計であるリブランディングという3つの段階が区別されています(参照*6)。
リブランディングにはリポジショニングとパーセプションチェンジの両方が含まれ得ると位置づけられています(参照*5)。パーセプションチェンジはブランドの資産が健全である場合に、その資産を壊さず認識だけを動かす手段として機能します。ブランド全体を根本から見直す必要がなければ、パーセプションチェンジから着手するのが現実的な選択です。
実践の手順と進め方

現状パーセプションの把握
パーセプションチェンジの出発点は、消費者がいま自社ブランドをどのように認識しているかを正確につかむことです。具体的には、商品カテゴリー全体のパーセプションを理解したうえで、自社ブランドと競合ブランドそれぞれのパーセプションを確認します。さらに、自社ブランドが想起されるシーンや目的を把握し、熱狂的なファンが価値を感じているポイントを特定するという流れがあります(参照*1)。
メンズシェーバーの事例では、「どんな商品が欲しいですか」とストレートに尋ねても、顧客から答えは出ないことが前提として語られています。自社で作ったアイデアの種を、感度が高く言語化できる層にまず提示して反応を探り、そこから需要予測を行うという手順が取られました。デプスインタビューを何度も実施して仮説を検証する方法です(参照*4)。現状の認識を多角的に掘り下げることが、次の打ち手の精度を左右します。
ビフォーアフターの言語化
現状パーセプションを把握したら、次に行うのが「何をどう変えたいのか」の言語化です。「なんとなくイメージを変えたい」という曖昧な状態のまま施策に進むと、手段が定まらなくなります。現状の認識がどうなっているかをまず明文化し、それをどのように変えるかをビフォーアフターとして明確にすることが求められます(参照*3)。
この言語化は、社内の関係者だけでなく外部の支援会社へのオリエンテーションでも必要になります。ビフォーアフターが明確であれば、広告表現やコンテンツ設計の方向性がぶれにくくなり、施策の一貫性を保てます。経営層が持つ想いを言葉にするプロセスが、言語化の精度を左右します。
CEPとエボークトセットの設計
パーセプションチェンジは、カテゴリーエントリーポイント(CEP)を新たにつくるうえで大きな役割を果たします。CEPとは、消費者が商品やサービスを必要とする瞬間に、そのカテゴリーを最初に思い浮かべる入口のことです。パーセプションチェンジによって消費者の心に新たな認識を根づかせると、これまでとは異なる場面で自社ブランドが想起されるようになります(参照*2)。
一方、エボークトセットとは「想起集合」とも訳され、あるカテゴリーにおいて消費者が頭に思い浮かべるブランドや商品のことです。人が何かを買おうとするとき、頭の中にはすでに選択肢があり、その中から選ぶことがほとんどだといわれています(参照*7)。パーセプションチェンジでCEPを広げ、エボークトセットに自社ブランドを入れることが、購買につながる設計の核となります。
効果測定の方法と指標

ブランドリフト調査の活用
パーセプションチェンジの成果を数値で確認する代表的な方法が、ブランドリフト調査です。ブランドリフトとは、施策の結果としてブランドの認識や行動がどれだけ変化したかを測定するものです。施策前にベースラインとなる調査を実施し、施策後のデータと比較することで効果を算出します(参照*8)。
主な指標には、広告の記憶、ブランドの認知、検討意向、第一想起、購入意向、ブランド好感度などがあります(参照*8)。こうしたアンケート調査に基づく手法は、ブランドに焦点を当てた施策が消費者の態度や行動にどのような影響を与えたかを直接的に把握できるため、パーセプションチェンジの効果検証に適しています(参照*9)。
エボークトセット率による評価
ブランドリフト調査と並んで有効な指標が、エボークトセット率です。消費者がある商品カテゴリーで購入を検討するとき、頭に思い浮かべるブランドの集合がエボークトセットです。購入候補に入ったかどうかを測るこの指標は、パーセプションチェンジの最終ゴールに直結します(参照*7)。
施策の前後でエボークトセット率を比較すれば、消費者の頭の中で自社ブランドの位置がどう動いたかを把握できます。認知度が変わらなくても、エボークトセット率が上がっていれば、パーセプションチェンジが購買検討の段階にまで作用していると判断できます。認知の量ではなく、認識の質を測る指標として活用する価値があります。
成功事例に学ぶ5つのケース

森永ラムネの認識拡張
森永「ラムネ」は認知度85%で、45年の歴史を持つロングセラー商品です。共通認識は「子どものお菓子」でしたが、「ラムネが二日酔いに効く」という口コミが話題になったことが転機となりました。これをきっかけに、「子どものお菓子」から「大人のパートナー」へと認識が変容・拡張されています(参照*3)。
注目すべきは、中身の成分も、象徴的なグリーンとレッドのビジュアルアイデンティティも変えていない点です。むしろ試行錯誤のなかで、変えないほうが良いということを森永自身が学んだとされています(参照*3)。製品を変えずに認識だけを動かすという、パーセプションチェンジの典型的な成功例です。
シーブリーズのターゲット転換
資生堂は2007年にシーブリーズのポジションを大きく転換しました。ターゲットを「16歳から25歳、特に男性」から「13歳から18歳、特に女性」へ変更し、コンセプトも「サポート アクティブ ライフ」から「スライス オブ スクール ライフ」に切り替えています。その結果、10代への浸透率が上がり、デオ&ウォーターのティーンにおける使用経験率は2007年から2010年にかけて飛躍的に向上しました。10代の約3人に1人が経験したアイテムに成長しています(参照*5)。
この事例はリポジショニングの要素も含みますが、「海やアウトドアで使うもの」という認識を「学校生活の日常に寄り添うもの」に書き換えた点で、パーセプションチェンジとしても示唆に富んでいます。ターゲットと文脈を同時に動かすことで、ブランドの生存領域を広げた事例です。
味の素Cook Doの用途拡大
Cook Do オイスターソースでは、従来のパーセプションである「中華専用の調味料」から、「いろいろな料理に使える普段使いの万能調味料」への転換が図られました。利用用途を意図的に増やし、商品を使う「入口」をたくさん用意するという設計です(参照*10)。
味の素冷凍食品のケースも同じ考え方にもとづいています。冷凍餃子を使うことを「手抜き」ではなく「手間抜き」と定義し直すコミュニケーションにより、冷凍食品に対するネガティブな認識を転換しました(参照*2)。どちらの事例も、商品の中身を変えずに言葉の力で認識を書き換えており、パーセプションチェンジの実践として参考になります。
失敗を防ぐ注意点

パーセプションチェンジに取り組む際、ブランドの核となる部分まで変えてしまうリスクには注意が必要です。基本的な部分は変えないほうがよく、時代の変化や顧客層の変化に合わせて、芯を残したまま見せ方を調整するのがマーケティング戦略の本質だと指摘されています。ブランドエクイティ(ブランドの資産価値)に影響を及ぼすような変更は、パーセプションの話を超えたブランドマネジメントの根幹に関わる判断となります(参照*3)。
また、実行には調査費用、広告費用、市場を再教育するためのコミュニケーション費用など、さまざまなコストが発生します。適切な対象に適切なメッセージを届けるまでに時間がかかることもあり、消費者に受け入れられないリスクやブランドを毀損するリスクも存在します(参照*11)。
さらに、自社ブランドが現在どのような認識を持たれ、どのようなシーンで想起されているかを把握しないまま施策に入ると、的外れな方向に進みかねません。カテゴリー全体にネガティブなパーセプションが定着している場合は、自社の強みを活かした新しい切り口を見出すことが突破口になり得ます(参照*1)。コアの価値を守りながら認識だけを動かす、その加減がパーセプションチェンジの成否を分けます。
おわりに
パーセプションチェンジは、製品を変えずに消費者の認識を変えることで新たな需要を生み出す手法です。森永ラムネやシーブリーズ、Cook Doの事例が示すように、ブランドの核を守りつつ見せ方を変えることで、固定された市場のなかでも成長の道を開くことができます。
取り組みの成否を左右するのは、現状の認識を正確に把握し、ビフォーアフターを明確に言語化するプロセスです。自社が消費者にどう認識されているかを内側から見つめ直し、社会との新しいつながりを設計することが、パーセプションチェンジの第一歩となります。
お知らせ
パーセプションチェンジを通じて経営者の想いの言語化やインナー・コピーライティングが、社会との新しいコミュニケーション設計につながります。ブランドの核を明確化し、BtoC・BtoB問わず伝わる表現戦略へ導きます。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) パーセプションとは?選ばれる商品にするための考え方と実践方法を解説|コラム
- (*2) 既存ブランドを再生させる「パーセプションチェンジ」というアプローチ|コラム
- (*3) ブランドの基本は変えずに「見せ方」を変えるには 新しいニーズが生まれる「パーセプションチェンジ」の5条件
- (*4) MarkeZine – 変化し続けるマーケティング、「不変」なものは何か──マイクロソフト有園氏がパナソニックなど3社に問う (1/3):MarkeZine(マーケジン)
- (*5) https://www.tbr.co.jp/report/sensor/pdf/sensor_20180801_05.pdf
- (*6) Found Brand Agency – Brand Refresh vs. Rebrand vs. Repositioning: What’s Right?
- (*7) 広告・プロモーションの効果測定と評価指標|コラム
- (*8) Camphouse – Brand Lift: How to Measure Your Campaign’s Real Impact
- (*9) MarTech – How to measure the impact of brand marketing
- (*10) NewsPicks – 商品の隠れた可能性を引き出す!味の素 「Cook Do オイスターソース」 のジョブ理論マーケティング
- (*11) Brandwell – The Ultimate Guide to Product Repositioning