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カンヌライオンズ2026「デザイン部門」受賞作まとめ

この記事のまとめ

カンヌライオンズ2026のデザイン部門では、応募792件から26作品がライオンを獲得しました。受賞作の傾向と要点は以下のとおりです。

  • グランプリはAppleの「Apple TV Rebrand」。CGではなく実写のガラスロゴで、人の手によるクラフトの力を示しました。
  • ゴールド受賞作のうち、本記事ではVolvo、Dancebook Brasil、Supernova Adaptive、NPRの4作品を紹介します。
  • 日本からは博報堂による「Tigris – Condensed Identity」、SHIPSの「Craftman.Ships」、電通による「Dear Different(竹鶴ピュアモルト)」の3作品がシルバーを受賞しています。
  • 全体を通して、AI時代における手仕事への回帰と、誰もが使えるインクルーシブデザインの広がりが際立った年となりました。

デザイン部門の概要と審査基準

デザイン部門の概要と審査基準

デザイン部門の位置づけと役割

カンヌライオンズのデザイン部門は、グラフィックデザインやブランディング、パッケージ、プロダクトデザイン、デジタルデザイン、環境デザインなど幅広い領域を対象としています。

革新的なビジュアルアイデンティティ、ロゴデザイン、ウェブサイトやアプリのUI、UXデザインも審査範囲に含まれます(参照*1)。

物理から体験まで幅広い表現が評価対象であり、パッケージや店頭ディスプレイ、インスタレーションなどの物理的な要素に加え、公共空間やイベントで没入体験を生み出すデザインも対象です。インタラクティブデザイン、モーショングラフィックス、デジタルインスタレーションなど、テクノロジーと融合した作品も含まれます(参照*1)。

2026年のデザイン部門は、デザインを装飾ではなくビジネスの課題を解く思考として捉えた年だったと総括されています(参照*2)。見た目の美しさだけでなく、戦略としてのデザインが問われた点に、この部門の本質的な役割が表れています。

15のサブカテゴリと審査の視点

デザイン部門には複数のサブカテゴリが設けられており、その1つがA01「Brand/Corporate Identity」です。

このカテゴリでは、あらゆるプロダクト、サービス、組織のための新しいブランドまたはコーポレートアイデンティティの構築が審査対象となります。ロゴ、ステーショナリー、そのほかのブランド関連素材が含まれます(参照*3)。

審査全体を通じて重視されるのは、デザインがどのようにブランドと消費者の体験を変えたかという点です。クラフトの力がブランドを変革し、ファンとの関係性をビジネス成長につなげている作品が高く評価される傾向にあります(参照*4)。

つまり、見た目の完成度だけでなく、デザインがどんな問題を解き、どんな成果を生んだのかまでが一貫して問われる構造です。こうした審査の枠組みを踏まえると、各受賞作品がなぜ選ばれたのかをより深く理解できます。

全体結果と審査員長コメント

全体結果と審査員長コメント

応募数792件・受賞26作品の内訳

カンヌライオンズ2026のデザイン部門には792件の応募がありました。

そこから選ばれた受賞作品は合計26点で、内訳はゴールド5点、シルバー8点、ブロンズ13点です。グランプリにはTBWA\Media Arts Lab(ロサンゼルス)とApple(クパチーノ)による「Apple TV Rebrand」が選出されました(参照*4)。

Appleはこのグランプリだけでなく、開催からわずか2日間で10の賞を獲得しています。デザイン部門のグランプリに加え、Apple Marcomが制作したミュージカルフィルム「I’m Not Remarkable」でもゴールドライオンを2つ獲得しました(参照*5)。

792件から26作品という選出率は約3.3%にあたり、審査の厳しさがうかがえます。この狭き門を突破した作品には、どのような共通点があるのかが、以降の各受賞作の紹介から見えてきます。

審査員長Greg Quintonの評価軸

デザイン部門の審査員長を務めたのは、Design Bridge and PartnersのChief Creative OfficerであるGreg Quintonです。

グランプリの選定理由について、Quintonは「この作品は見事に人の手で作られている。映画のドラマと、光と音の純粋な魔法を取り戻した」と語りました(参照*6)。

さらに「テクノロジーの脅威に世界が取り憑かれている時代に、これは美しい反抗だ」と述べ、制作過程を見せたことで魔法が消えるのではなく、注ぎ込まれた愛情を実感できたと評価しました。「鮮やかにシンプルで魂のこもったデザインであり、本物の鼓動を持つ見事なブランド変革だ」と締めくくっています(参照*6)。

デザイン審査の結論としても、グランプリ作品は「作品やフィルムと同じくらい映画的であり、卓越したクラフトがコンテンツと同等の重み、質感、存在感をもたらしている」と評されました(参照*7)。人の手仕事による質感と、テクノロジーに対する姿勢が、2026年の審査で最も重視された軸だったといえます。

グランプリ:Apple TV Rebrand

グランプリ:Apple TV Rebrand

課題と戦略:認知33%の壁

Apple TV+は、コンテンツの質とブランド認知の間に大きなギャップを抱えていました。

ドラマ「テッド・ラッソ」や「セヴェランス」は文化現象と呼べるほどの人気を得たにもかかわらず、調査では「テッド・ラッソがApple TV+の作品だ」と認識している加入者はわずか33%にとどまっていたのです(参照*8)。

この認知のズレを解消するため、Appleはサービス名から「+」を外し、Apple TVという1つのプラットフォームに統合しました。そのうえでブランドアイデンティティ全体をゼロから再構築するという大胆な戦略をとっています(参照*9)。

コンテンツの力は十分にあるのに、どのプラットフォームの作品なのかが伝わらない。このビジネス上の課題に対して、デザインの力で答えを出そうとした点が、グランプリに選ばれた出発点です。

実写ガラスロゴという選択

このリブランドの最大の特徴は、あらゆる場面で使われるロゴそのものを実写で制作した点にあります。

一見するとCGに見えるロゴは、実際にはすべてガラスなどの素材と照明だけを使ってスタジオで撮影されたものです(参照*10)。

TBWA\Media Arts Labが手がけたこのロゴは、ガラスの彫刻として手作りされ、回転するたびに光と色を屈折させます(参照*9)。さらにミュージシャンのFinneasがサウンドアイデンティティのためにオリジナルスコアを作曲し、専用フォントを含む白黒のビジュアルシステムが107市場・340タイトルにわたって統一されています(参照*9)。

「白は、すべての色を含む」という発想で、白黒の引き算のシステムにスペクトル全体を内包させ、ブランド自身は一歩引いて作品を主役にしました。そしてその引き算を、CGではなく本物のガラスと光で物理的に作ることで、人間が手で作り込んだというクラフトの証拠にしています(参照*8)。

成果と業界への示唆

Apple TVリブランドの公開後、わずか24時間以内に290ものメディアが取り上げました。

SNSでも「人間の手によって作られるアートを尊重してくれてありがとう」といった多くの賞賛の声が投稿されています(参照*10)。

生成AIによるクリエイティブが日常の一部になりつつある時代だからこそ、実写で作るクリエイティブの意義を見つめ直した姿勢が評価につながったといえます(参照*10)。審査員長が「美しい反抗」と表現したように、テクノロジー企業であるApple自身が、あえて手仕事を選んだという事実が、業界全体に対する強いメッセージとなりました。

デザイン性とその裏にある思想だけで多くの注目を集めた本作は、まさにDesign Lionsにふさわしい事例と評されています(参照*10)。

ゴールド受賞4作品

ゴールド受賞4作品

Volvo Safety Standardの安全言語

Volvoは、目に見えない「安全」をスペックではなく一貫したデザイン言語として翻訳しました。

シートベルトの斜線からグリッドを生み出し、衝突試験車のオレンジ色を「Safety Orange」として採用しています。専用書体「Volvo Centum」は可読性を高めることで運転中の注意散漫を減らす設計となっており、書体そのものが安全を実行する仕組みです。100周年を機に、これらの成果を競合にもオープンソースとして公開しました(参照*2)。

Dancebook Brasilの舞踊記譜

「Dancebook Brasil」は、BradescoのためにサンパウロのLovelyが制作した作品で、ゴールドに選ばれました(参照*9)。

ブラジルの舞踊をデザインの力で記録し体系化するという試みであり、文化の保存と視覚表現の両立を果たした作品です。ブランドの社会的役割をデザインで具体化した事例として評価を集めました。

Supernova Adaptiveの共創設計

「Supernova Adaptive」は、AdidasのためにTBWA\Canada(トロント)が手がけた作品で、ゴールドを獲得しています(参照*9)。

多様な身体的条件を持つ人々と共に設計されたプロダクトデザインであり、使い手との共創によって生まれた点が特徴です。誰もが使えるものを美しく設計するという姿勢が、デザイン部門で高い評価を得ました。

NPR:問いに変えたロゴ刷新

NPRは、ニューヨークのMischief at No Fixed Addressと組み、「For Your Right to be Curious」というコンセプトでロゴを刷新しました(参照*9)。

報道機関としての存在意義を、ロゴという最小限の接点に凝縮して問いかけに変えた作品です。デザインがメッセージそのものになるという好例として、ゴールドにふさわしい評価を受けています。

日本のシルバー受賞3作品

日本のシルバー受賞3作品

Tigris – Condensed Identity

博報堂(東京)、Anywhere(東京)、博報堂デザイン(東京)の3社が手がけた「Tigris – Condensed Identity」が、デザイン部門のシルバーに選ばれました(参照*6)。

飲料ブランドTigrisの裏ラベル、つまり成分やアレルゲンの表示といった法令遵守のための限られたスペースを、ブランドの顔へと変えた作品です。専用の凝縮書体、多言語タイプフェイス、モジュラー設計によって、情報密度の制約を拡張可能なアイデンティティに転換しました。結果としてSKU数は2から20に拡大し、卸売りは400%増加しています(参照*2)。

ラベルの裏面という通常は見過ごされる領域にデザインの可能性を見出した点が、独自の着眼として際立っています。制約をそのまま強みに読み替える発想は、限られた接点でブランドを構築する際のヒントになります。

Craftman.Ships:50周年の手刺繍

博報堂グラビティ(東京)と博報堂キャビン(東京)が制作した「Craftman.Ships」も、シルバーを受賞しました(参照*6)。

この作品は、SHIPSに関わる職人にアニメーターではなく依頼し、42.5kmの糸を使って連続したシーンを制作したものです。600時間に及ぶ手作業のステッチが膨大に積み重なることで、揺るぎない情熱を体現しています。専門的な職人技と物理的な素材がブランドの物語を定義するとき、最高レベルのクラフトが実現することを証明した作品です(参照*11)。

映像を手刺繍で表現するという大胆な手法は、ブランドの核にある「ものづくりへのこだわり」を、そのまま制作プロセスで体現するものです。職人の手を通してブランドの価値を可視化するという構造が、カンヌライオンズ2026のデザイン部門で評価される軸と合致しました。

Dear Different:竹鶴ピュアモルト

電通(東京)がニッカウヰスキーのために手がけた「Dear Different」が、日本からの3つ目のシルバー受賞作です(参照*6)。

竹鶴ピュアモルトの深みを、絵具の実験で作った極微のアナログドットで表現しています。ウイスキーのブレンドが生む調和と、創業者の人生の物語を、印刷から空間体験まで一貫して可視化しました(参照*2)。

デジタル表現が主流となるなかで、絵具という物理的な素材を起点にしたアナログの質感づくりは、この作品ならではの選択です。ウイスキーという嗜好品の奥深さと、手触りのあるデザイン体験が結びつくことで、ブランドの世界観が空間全体に広がる仕上がりとなりました。

シルバー・ブロンズ注目作品

シルバー・ブロンズ注目作品

シルバー:社会課題を解くデザイン

「Tilt Accessible Beauty」は、TiltのためにEstablishedが手がけた作品で、身体的な困難を抱える人々に美しさを届けるためのデザインです。

手の震えや関節炎があっても使えるよう、人間工学に基づいたパッケージに点字を施し、低視力向け書体「Atkinson Hyperlegible」を採用しています。化粧品として初めて、アメリカの関節財団によるEase of Use認証を取得しました(参照*2)。

「美しさ」という価値を、障がいのある人にも開いたこの作品は、デザインが社会の壁を取り除く手段となり得ることを具体的に示しています。認証の取得という客観的な裏付けがある点も、審査における説得力を高めた要素です。

ブロンズ:ブランド儀式と体験設計

「Dressed for Wimbledon」は、Stella ArtoisのためにGUTが制作した作品で、ブランドの象徴色を手放すという大胆な判断が光る事例です。

145年にわたる赤と金の象徴色を捨て、ウィンブルドンの純白のドレスコードに合わせた「ほぼ真っ白」の缶を作りました。ラベルは印刷ではなくエンボス加工とし、アルミ缶をオーダーメイドの品のように仕立てています。スポンサーの立場を、大会の作法に従う敬意で表現しました(参照*2)。

自社のアイデンティティを一時的に脱ぎ捨てることで、かえってブランドの懐の深さを見せる。こうした「引き算」の体験設計は、カンヌライオンズ2026のデザイン部門全体に通じるテーマでもあります。

受賞傾向から読む判断基準

受賞傾向から読む判断基準

クラフト回帰とAI時代の対比

カンヌライオンズ2026のデザイン部門を貫く大きな流れは、AIの生成ツールが広まるなかで、人々がかえって「クラフト」、すなわち人の手の痕跡を求めるようになっているという対比構造です(参照*8)。

グランプリのApple TVリブランドは、この2つの潮流への同時の答えとして位置づけられています。CGではなく本物のガラスと光で物理的にロゴを作ることで、人間が手で作り込んだというクラフトの証拠を刻みました(参照*8)。実際に公開から24時間以内に290ものメディアが取り上げ、SNSでも人間のアートへの尊重に感謝する声が相次いでいます(参照*10)。

テクノロジー企業自身が手仕事を選んだ意味は大きく、デザインの判断基準として「どう作られたか」がこれまで以上に問われる時代に入っていることがうかがえます。

インクルーシブデザインの台頭

もう1つの顕著な傾向は、誰もが使える「インクルーシブデザイン」が複数の受賞作に見られた点です。

ゴールドのSupernova Adaptiveは多様な身体的条件を持つ人々との共創によって設計されたプロダクトであり、シルバーのTilt Accessible Beautyは化粧品として初めてEase of Use認証を取得しました(参照*2)。

Volvoの安全デザイン言語も、専用書体を通じて運転中の注意散漫を減らすという形で、すべてのドライバーに安全を届けようとする設計思想を備えています。さらに競合にもオープンソースとして公開したことで、業界全体への波及を意図しました(参照*2)。

美しさや機能を特定の誰かに限定せず、より多くの人に届けようとする姿勢が、2026年のデザイン部門における評価の軸として定着しつつあります。デザインを「問題を解く思考」として捉えるこの部門の方向性と、インクルーシブな設計思想は、本質的に同じ方向を向いています。

おわりに

カンヌライオンズ2026のデザイン部門は、人の手仕事への回帰と、誰もが使えるインクルーシブな設計思想が評価の中心にありました。グランプリのApple TVリブランドが象徴するように、テクノロジーの時代だからこそ「どう作られたか」が問われるという逆説が、デザインの新しい判断基準を示しています。

日本からも3作品がシルバーを獲得し、制約を強みに変える発想や手仕事の力がグローバルに通用することを証明しました。デザインを装飾ではなくビジネスの課題を解く思考として捉える視点は、経営やブランド戦略に携わるすべての方にとって、自社の取り組みを見つめ直すきっかけとなるはずです。

お知らせ

カンヌライオンズ、2026、デザインの潮流を踏まえ、インナー・コピーライティングで企業の想いを言語化し、事業会社からスタートアップまで共感を生む表現設計につなげます。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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