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カンヌライオンズ2026「Print & Publishing部門」受賞作まとめ

この記事のまとめ

カンヌライオンズ2026のPrint & Publishing部門は、応募418点に対して13点が受賞し、内訳はグランプリ1、ゴールド2、シルバー4、ブロンズ6となりました。要点は次のとおりです。

  • グランプリはハインツ・ケチャップの「Look Familiar?」(Rethink, Toronto)
  • ゴールドはDunkin’ At Homeの「ICONIC HOME」とIUCN×Fujifilmの「The Trojan Fax」
  • 審査の軸は、足し算ではなく「引く」勇気と、身の回りにある形の発見
  • Rethinkは同年のインディペンデント・ネットワーク・オブ・ザ・イヤーを獲得

Print & Publishing部門の概要

Print & Publishing部門の概要

部門の位置づけと審査軸

Print & Publishing部門は、印刷媒体で流通する広告表現の創造性を評価する部門です。

対象カテゴリーは消費財、食品飲料、日用品、家電、アパレルなど広い範囲にわたり、印刷という媒体で新しい発想を示せているかが問われます(参照*1)。今年の審査で語られたのは、要素を足すのではなく削ぎ落とし、ブランドが積み上げてきた記憶を信じて短いコピーと一枚のビジュアルで語り切る姿勢でした。審査員長は、加えることに執着した年に、抜き取る勇気を持った仕事を最良と評しています(参照*2)。

この部門で評価されたのは、ブランドの一貫性を土台に、身近な形や慣習を発見として提示できる編集眼でした。読者側から見ると、紙という制約下でどこまで意味を圧縮できたかが判断の物差しになっています。

エントリー数と受賞数の全体像

カンヌライオンズ2026のPrint & Publishing部門には、世界から作品が集まりました。

応募総数は418点で、受賞は合計13点でした。内訳はグランプリ1点、ゴールド2点、シルバー4点、ブロンズ6点となっています(参照*2)。グランプリはトロントのRethinkが手がけたハインツ・ケチャップの「Look Familiar?」でした。フェスティバル全体では、Audio & Radio、Creative B2B、Health & Wellness、Outdoor、Pharmaなどと並ぶ初日の発表枠でPrint & Publishingの結果が公表されています(参照*3)。

受賞数13点という規模は狭き門です。裏を返すと、印刷部門で選ばれた作品は、審査員が高く評価した表現に絞られています。

グランプリ「Look Familiar?」ハインツ・ケチャップ

グランプリ「Look Familiar?」ハインツ・ケチャップ

フライ箱とロゴの形の一致という発見

グランプリを獲得したのは、ハインツ・ケチャップの「Look Familiar?」でした。

世界のファストフード店で使われる台形のフライドポテト箱を集め、加工せずに紙面へ並べると、その形がハインツのキーストン型ラベルにそっくりだと気づかせる作品です。シカゴでもロンドンでも東京でも、店が違っても箱の輪郭はハインツになり、コピーはほぼ「LOOK FAMILIAR?」の一言だけで構成されています(参照*4)。制作の出発点は、人はフライドポテトの店は選ぶのに、それに添えられるケチャップにはあまり注意を払わないという観察でした。世界的なケチャップブランドという前提に対し、日常の風景そのものを証拠として提示する構造がとられています(参照*5)。

ここで読み解けるのは、ブランドが長年培ったロゴの形状記憶を、外の世界にある既存の物体で証明するという逆転の発想です。新しい絵を作るのではなく、既にある景色に名前を与える手つきが、印刷媒体の一枚性と噛み合っています。

審査員長が語る受賞理由

グランプリの選定理由は、審査員長の言葉に明快に表れています。

Print & Publishing部門の審査員長を務めたのはWieden+Kennedy Mexicoのチーフクリエイティブオフィサー、Jessica Apellaniz氏でした。同氏は、評価したのは商品の不在ではなくブランドの存在感であり、この作品はオーディエンスを信じ、長年の一貫性を信じ、時間をかけて築いたブランドが仕事をしてくれると信じていたと述べています(参照*6)。加えて、グランプリはハインツでしかありえず、そのシンプルさは表現上の選択ではなく並外れた自信の証明であり、足すことに取り憑かれた年に、最良の仕事は引くだけの自信を持っていたと語られました(参照*2)。

このコメントは、単に「ミニマルな表現が良い」という話ではありません。ブランドの過去の投資と受け手の記憶を資産として扱い、そこに頼り切る覚悟があるかを問う基準として読み取れます。

33市場で示した商業的インパクト

受賞作は、表現面だけでなく事業面の成果でも評価されました。

高インパクトのポスターは中国、カナダ、ブラジル、メキシコ、UAE、アメリカ、イギリスの道路沿いや地下鉄に掲出され、UAEでリーチ42%、トロントで33%を達成しました。屋外広告と購買導線を組み合わせたことで、アメリカのプラットフォーム内販売は前年比222%増となり、配荷店舗数は9.78%増加しました。カナダでは世帯浸透率が3.38ポイント上がって10.31%となり、2025年の総売上額は1,850万ドルに達しています(参照*7)。制作を担当したRethinkは同年、インディペンデント・エージェンシー・オブ・ザ・イヤーとインディペンデント・ネットワーク・オブ・ザ・イヤーの二冠を獲得し、グランプリを含む合計14点を受賞しました(参照*8)。

印刷という一見レガシーな媒体でも、複数市場での同時展開と販売指標の連動を示せば、審査の説得力が上がることが分かります。制作側は、表現の骨格と商流のKPIを最初から一本の線で結ぶ設計が求められます。

ゴールド受賞作の解説

ゴールド受賞作の解説

ICONIC HOME/Dunkin’ At Home

ゴールドの1点目は、Dunkin’ At HomeのためにBBH, New Yorkが制作した「ICONIC HOME」です。

ダンキンのコーヒー袋のパッケージをちょうどいい角度で切り取ると、その輪郭が家(ホーム)の形に見えるという発見を軸にしています。フレーバーごとに異なるグラデーションの空を背景に配し、朝のコーヒーには朝焼けの空を、夜のコーヒーには夜の空を合わせ、コピーは「ICONIC HOME」の2語だけで構成されました(参照*9)。Print & Publishing部門のゴールド受賞作として、Dunkin’ At Homeの「Iconic Home」がBBH, New Yorkの名義で発表されています(参照*5)。

家庭で飲むコーヒーというブランド文脈を、パッケージの物理的な形と2語のコピーだけで表現している点が特徴です。ハインツのグランプリと同様、既にある造形のなかに意味を発見する編集の型が共通しています。

The Trojan Fax/IUCN×Fujifilm

ゴールドの2点目は、IUCN French Committee×Fujifilm PrintのためにBETC, Parisが制作した「The Trojan Fax」でした。

議員のメール受信箱では埋もれて無視されるという課題に対し、あえてファックスで送るという解を選び、紙に出力されて物理的に机に残る一通を狙った企画です。時代遅れの媒体を逆手に取ることで注目を獲得し、生物多様性のグリーンリスト登録を訴求しました。コンバージョン率は26%で、メール送付時の2.3%を大きく上回っています(参照*10)。ゴールドの一覧には、IUCN French Committee×Fujifilm Printの「The Trojan Fax」がBETC, Paris名義で並んでいます(参照*5)。

紙メディアの受賞作でありながら、届ける経路そのものを企画の主役に据えた点が示唆的です。「紙に出力される」という物理性を、意思決定者の注意を勝ち取るための機能として設計しています。

シルバー・ブロンズ受賞作の見どころ

シルバー・ブロンズ受賞作の見どころ

シルバー4作品の視点

シルバーは4点が選ばれ、いずれも紙面表現の奥行きを広げる切り口を持っていました。

アルゼンチンのAmstelのために制作された「Los Campeones」「Lo de Facu」「La Guitarrita」(Shot Without Permission)は、ビール広告における演じられた友情を捨て、実在の街の店で本物の友達を無許可で隠し撮りする手法をとりました。撮影後に本人へ許可を取り、その店の地元紙に掲載することで、写った本人が自分を発見する仕掛けとし、台本も演出もゼロで「友情は演出できない」ことを示しています(参照*10)。

シルバー群の共通点として、「広告を演じる」ことをやめ、実在する場所と人物を印刷紙面のなかへ持ち込む方向性が見えてきます。

ブロンズ6作品の視点

ブロンズは6点が受賞し、社会課題を印刷という媒体で扱う工夫が目立ちました。

ブラジルのコリンチャンスのためにAlmapBBDOが制作した「Uncovering Racism」は、ユニフォームの襟の内側に「Racism is a crime. Report it(人種差別は犯罪だ、通報を)」と印刷しました。選手が入場時に襟を口元まで引き上げる仕草に合わせて、メッセージが顔の横に立ち上がる設計になっており、帰属の象徴であるユニフォームを人種差別への公的な宣言の舞台へと転換しています(参照*11)。

印刷を「紙面」に限定せず、身にまとう布や書類など、意味を運ぶ表面全体をキャンバスとして扱う発想が読み取れます。ブロンズ群を通じて確認しておきたいのは、印刷技術そのものよりも、印刷される場所と読まれる瞬間の設計に評価が集まっているという点です。

日本勢の動向と紙メディアの潮流

日本勢の動向と紙メディアの潮流

日本関連作品の状況

日本市場の関与について、部門ごとの状況を確認しておきます。

Print & Publishing部門で公開されているグランプリ、ゴールドの作品名と制作拠点は、トロント、ニューヨーク、パリの各拠点が担当しており、日本の制作会社が主担当として名を連ねる作品は確認できません(参照*5)。関連するデザイン部門のショートリストには、アメリカ、イギリスに続き日本を含む複数の国と地域から作品が選出されており、ブラジル、カナダ、フランス、UAE、スウェーデン、オランダ、デンマーク、ペルー、インド、ドイツ、スペイン、オーストラリア、ウクライナ、シンガポール、イタリア、サウジアラビア、インドネシア、プエルトリコ、韓国、ベルギーとともに名前が並んでいます(参照*12)。

日本の広告主・制作会社にとっては、Print & Publishing部門の上位を狙うために、グローバル配信を前提とした企画設計が課題になります。

「引き算」と「発見」が主流に

受賞作を通観すると、今年の印刷部門には明確な潮流が浮かびます。

審査員長のコメントでは、加算に執着した年に対して、最良の仕事は引くだけの自信を備えていたと語られました(参照*2)。実際、グランプリはフライ箱とロゴの一致という発見、ゴールドはパッケージの輪郭に家を見出す発見と、あえてファックスで届ける発見で構成されており、「紙という最も古いメディアが、いま何を発明しているのか」という視点でまとめられています(参照*10)。

経営者や担当者にとって示唆的なのは、印刷広告の勝ち筋が新素材や派手な加工ではなく、自社ブランドが既に蓄えている資産に気づき直し、それを一枚で提示する編集力に寄ってきているという事実です。内側にある想いや形の記憶を言葉と絵に凝縮する作業が、そのまま外への発信の強度に直結します。

おわりに

カンヌライオンズ2026のPrint & Publishing部門は、応募418点、受賞13点という狭き門のなかで、ハインツ・ケチャップの「Look Familiar?」がグランプリを獲得し、Dunkin’ At Homeの「ICONIC HOME」とIUCN×Fujifilmの「The Trojan Fax」がゴールドに選ばれました。審査で共有されていたのは、ブランドの一貫性という時間資産を信じ、要素を削ぎ落として一枚で語り切る姿勢でした。

日本の企業や担当者が学べるのは、経営者や現場が抱える想いを言語化し、既にある形や慣習のなかから発見を取り出す「引き算」の設計です。紙面や販促物を作る際は、加える前に何を抜けるかを検討することがポイントです。

お知らせ

カンヌライオンズ2026 Print & Publishingの潮流を受け、コピーライティングで企業の想いを言語化し、広告・広報・PRやネーミングを組み合わせたコミュニケーション設計で社会との新しいつながりを紡ぎます。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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