
この記事のまとめ
カンヌライオンズ2026のメディア部門は、2026年6月22日から26日にフランス・カンヌで開催された祭典のなかで、話題と成果を両立させた作品が評価されました。本記事の要点は次のとおりです。
- グランプリはKitKatの「The KitKat Heist」で、供給網の危機を参加型の物語に転換した点が評価されました
- ゴールドではHeinekenの「Could Have Been a Heineken」やPlenitudeの「Dark Mode Ads」が並びました
- Media Network of the YearはCaratが受賞し、ゴールド3件を軸に総合力を示しました
- ショートリストは141作品で、日本からは「The Life-Saving Receipt」がノミネートされました
カンヌライオンズ「メディア部門」の基礎知識

メディア部門の位置づけと審査観点
メディア部門は、伝え方の設計そのものを競う領域として位置づけられています。
メディアライオンズは1999年に、あらゆるコミュニケーション形態におけるメディア戦略とプランニングの卓越性を称えるために設けられました(参照*1)。デジタル化や新しいプラットフォームの登場、消費者行動の変化に合わせて、部門自体も進化を続けてきました(参照*1)。カンヌライオンズ2026では、Creative Brand Lionの新設を含む複数の部門更新も告知されました(参照*2)。
この流れをふまえると、メディア部門は単なる媒体選定の巧拙ではなく、チャネル・データ・文化・戦略を束ねて創造性を引き出す設計力を問う場になっています。読者としては、受賞作を見るときに「どのメディアを使ったか」よりも「メディアの使い方で何を動かしたか」に注目すると理解が進みます。
2026年開催概要と審査体制
2026年の開催概要と審査体制も、受賞作を読み解くうえで押さえておきたい前提です。
カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルは、2026年6月22日から26日にかけて開催されました(参照*3)。メディア部門の審査員長は、WPP MediaのChief Client OfficerであるSindhuja Rai氏が務めました(参照*3)。同氏の起用については、イノベーション、クライアント成長、実効性、そして創造の原動力としてのメディアの役割の変化を映すカテゴリーに、業界最強クラスのメディア視点をもたらす人選と紹介されました(参照*4)。
審査を主導する立場からのメッセージは、そのまま受賞作の傾向にも反映されます。効果とクライアント成長を軸に据える姿勢は、グランプリやゴールド作品に共通する評価軸として読み取れます。
メディア部門グランプリ「The KitKat Heist」

供給網の危機を物語化した発想
グランプリは、実際に起きたトラブルをブランドの物語に変えた大胆な発想が評価されました。
「The KitKat Heist」はVML LondonとBursonが手がけた作品で、PR部門でGrand Prixと2つのGold Lionを、メディア部門とSocial & Creator部門でGold LionとSilver Lionを獲得しました(参照*5)。イースター直前に12トンのKitKatバーが輸送中に消失した事件を、隠さずに公表し、消費者に「事件を解け」と呼びかける参加型のブランドストーリーへ組み直した点が特徴です(参照*5)。菓子カレンダー最大の週末を控えた時期に、イタリアとポーランドの間で413,793本が消えたという具体的な状況設定も報じられています(参照*6)。
危機を隠すのではなく、あえてメディア化して物語に変えた設計は、ブランドと消費者の距離を近づけるアイデアとして読み解けます。従来の危機対応の型を離れ、事件そのものを共通体験へと開いた点が、複数部門での高評価につながっています。
参加型トラッカーがもたらした成果
参加型の仕掛けが数字として跳ね返ったことも、グランプリを裏づける要素です。
公開されたトラッカーは220万を超えるエンゲージメントを集め、3つの不審なバッチコードを検知し、警察の捜査対象となる手掛かりを1件浮かび上がらせました(参照*6)。メディア出稿費ゼロで2億2,400万ドル相当のアーンドメディア価値を生み、Meta上の全視聴の44%を占め、次点の競合のおよそ3倍の存在感を示しました(参照*6)。イースター期間の会話を掌握し、220万件のエンゲージメントとMeta視聴シェア44%という結果は、別の報道でも同様に紹介されています(参照*7)。
有料出稿に頼らずに巨大な話題量を作り、なおかつ事件の解決にも寄与する構造は、メディアプランニングと物語設計を一体で組み立てた例として整理できます。読者としては、危機時の情報開示の設計次第で、リスクが資産に反転しうるという視点を持ち帰ることができます。
ゴールド受賞作に見る潮流

Heineken「Could Have Been a Heineken」
ゴールド勢で目立ったのは、日常の不満をブランド体験に転じたHeinekenの作品です。
Caratの受賞にはHeinekenの「Could Have Been a Heineken」向けのゴールド2つが含まれ、モバイルとソーシャル行動の活用が評価されました(参照*8)。同キャンペーンは「このミーティングはメールで済んだのでは」という職場でおなじみのミームを反転させ、3分以上の長い音声メッセージをWhatsAppボットに転送すると無料のHeineken引換券が届く仕組みを組み込みました(参照*8)。この作品はSocial & CreatorでGrand Prixを獲得し、Outdoor、Media、Directでもゴールドを得ています(参照*9)。
生活者の小さな不満に寄り添い、ブランドが介入する余地をメディア設計で作った例として読めます。既存メッセージアプリを引換の起点にした設計は、既存プラットフォームを活かす発想の参考になります。
Plenitude「Dark Mode Ads」
市場撹乱の視点からゴールドに選ばれたのが、エネルギー領域の作品です。
Carat Italyは、Plenitudeの「Dark Mode Ads」でMarket Disruption部門のゴールドを獲得し、クリエイティブエージェンシーはLePub Italyがクレジットされました(参照*10)。この受賞は、Carat Italyがクリエイティブ側のLePub Italyと組み、Market Disruption領域でPlenitudeのDark Mode Adsを打ち出した座組であることが公式リリースでも整理されています(参照*11)。
広告フォーマットの前提を問い直し、表示環境から広告体験を組み替えた発想として位置づけられます。メディア枠の使い方そのものを製品体験に寄せる設計は、ブランドと媒体の関係を再考する糸口になります。
ラテンアメリカ勢の躍進
ゴールド以上の受賞地図を見ると、ラテンアメリカ勢の存在感が際立ちました。
カンヌライオンズ2026の5日目時点で、ラテンアメリカ地域の作品は合計でGrand Prix 7、Titanium 2、Gold Lion 27を獲得しました(参照*9)。Grand Prixの内訳は、Audio & Radio、Outdoor、Entertainment for Sport、Creative Data、Social & Creator、Directなど広い部門にまたがっています(参照*9)。
複数部門にわたる分散した受賞は、単発の話題ではなく地域全体の制作力の厚みを示す指標として読み解けます。メディア部門の潮流を追う際にも、地域単位での勢いを合わせて見ることで、次の投資先や参照事例の探し方が具体化します。
Media Network of the Year「Carat」の評価

Caratの受賞内訳と勝因
メディアネットワークの年間王者は、総合的な受賞点数でCaratが選ばれました。
Caratはカンヌライオンズ2026のMedia Network of the Yearに選出され、次点はOMD Worldwide、3位はPHD Worldwideでした(参照*8)。OMD WorldwideとPHD WorldwideはいずれもOmnicom傘下です(参照*8)。この賞は、メディア出稿の役割でクレジットされた作品のうち、メディアライオンズのショートリストと受賞のポイント合計が最も高いネットワークに贈られます(参照*8)。Caratはゴールド3、シルバー1、ブロンズ2、ショートリスト3を積み上げ、100か国以上で12,000人超の専門家を擁するネットワークとして紹介されました(参照*10)。
受賞のポイント制と規模、そして代表作の話題性が重なった結果として、年間ネットワーク賞に到達した構図が読み取れます。単発のグランプリではなく、幅と質の両立が評価軸になっていることが確認できます。
データ・AI時代のメディア戦略
受賞コメントからは、AIとデータを前提としたメディア戦略の輪郭も見えてきます。
Caratが獲得したゴールド3件は、Heinekenの「Could Have Been a Heineken」のSocial BehaviorとUse of Mobileの2件、そしてPlenitudeの「Dark Mode Ads」のMarket Disruptionの1件で構成されました(参照*11)。ネットワーク側のコメントでは、AI、アルゴリズム、分断された注意によって業界が再編されるなかで、優れた人材、深い人間理解、市場をリードするエージェント型の能力、信頼あるパートナーシップを重ね合わせた成果として位置づけられました(参照*11)。
メディア部門の勝ち筋が、単なる出稿最適化から、データと創造性と技術を束ねる総合設計に移っていることが確認できます。読者としては、社内でメディアの役割を語る際に「創造の原動力」としての機能を含めて位置づけ直す視点が持てます。
ショートリスト全景と日本勢の動向

141作品のショートリスト傾向
ショートリストの全体像を押さえると、メディア部門の対象領域の広がりがわかります。
メディアライオンズ2026のショートリストは、141作品が37のサブカテゴリーに分布し、ブランドセクター、スクリーン、オーディオ、印刷、屋外、小規模メディア、大規模メディア、イベント、デジタルプラットフォーム、モバイル、ソーシャル、インフルエンサー、リテールメディア、オーディエンスインサイト、データ活用ターゲティング、ブランデッドIP、ソーシャル行動、パーパス、市場撹乱、文化的関与、メディアクラフトの卓越性まで及びました(参照*4)。ショートリストに多く登場したブランドとしては、Mercado Libre、Mercado Livre、McDonald’s、Heineken、IKEA、Kids Help Phone、Dove Hair、Penny、Uber Eats、Frecuencia Latina、Pedigree、Sapeurs Pompiers de France、Brewlanderが挙げられました(参照*4)。
サブカテゴリーの多さは、メディアの定義がチャネル横断へ広がっていることを示します。特定媒体の巧拙ではなく、複数領域を横断する設計が候補入りの前提になっている状況として整理できます。
日本・アジア圏の受賞状況
日本とアジア圏の動向としては、ショートリスト段階で存在感のある作品が確認できます。
日本からは「The Life-Saving Receipt」がCHOROGUSAN FOR CHILDREN、DMINUSONEの座組で参加し、Small-Scale MediaとAudience Insightsのショートリストに入りました(参照*4)。アジア圏では、BREWLANDERとBLKJ HAVASによる「A.I. IRRESPONSIBLY」が、Local BrandとChallenger Brandのショートリストに入りました(参照*4)。
小規模メディアやオーディエンスインサイトといった、限定された接点でも入賞候補になれる領域が用意されている点は、日本の中堅・スタートアップにとって参照価値があります。予算規模ではなく、着眼点と設計の精度で戦える余地が残っていることが読み取れます。
2026メディア部門が示す次の潮流
カンヌライオンズ2026のメディア部門が示したのは、危機、日常、表示環境といった身近な素材を、メディア設計で人が動く仕組みに変換した作品が上位を占める潮流でした。グランプリの「The KitKat Heist」は事件を物語化し、Heinekenは会議の不満を引換体験に、Plenitudeは表示モードを市場撹乱の切り口に据えました。
ネットワーク単位ではCaratが総合力で頂点に立ち、審査体制もクライアント成長と効果を重視する構えを示しました。読者としては、自社のメディア企画を組む際に「どの接点で、誰の何を動かすか」を最初に置き、チャネル・データ・物語を束ねて設計する順序を持ち帰ると、次の一手が具体化します。
お知らせ
カンヌライオンズ、2026、メディアの話題を踏まえ、受賞作にみる表現や伝播の本質を言語化して、組織の想いを外部へつなぐコミュニケーション戦略に落とし込みます。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) What You Need to Know
- (*2) Cannes Lions introduces the Creative Brand Lion
- (*3) Cannes Lions announces 2026 Awarding Jury line-up
- (*4) Roastbrief US – Cannes Lions 2026 unveils the Media Lions shortlist, featuring 141 finalists that show how data, channels, platforms, culture and strategy are redefining media creativity – Roastbrief US
- (*5) Cannes 2026: Social & Creator; Direct; Media; Creative Data; PR
- (*6) https://www.famouscampaigns.com/ – Case Study: KitKat Heist
- (*7) KitKat Wins PR Grand Prix For Turning A Crisis Into A Cultural Moment
- (*8) Carat Wins Cannes Lions Media Network Honors
- (*9) Cannes 2026: Every LATAM Grand Prix and Gold Win
- (*10) Carat wins Cannes Lions Media Network of the Year
- (*11) dentsu – Carat Named Media Network Of The Year At Cannes Lions 2026