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はじめに
ADC賞は、日本の広告やグラフィックデザインの先端を映し出す年次公募展として、長年にわたり国内外から注目されてきました。2025年の受賞作を把握しないままでいると、アートディレクションの潮流をつかむ機会を逃しかねません。
ADC賞2025では、グラフィック・映像・ブランディングなど多領域にわたる作品が選出され、社会課題との接続やデジタルとフィジカルの横断といった表現の広がりが見て取れます。本記事では、主要受賞作の一覧から分野別の注目作品、評価されたデザイン表現まで順を追って紹介します。
ADC賞2025の概要

審査対象期間と応募規模
ADC賞の特徴は、東京アートディレクターズクラブ(ADC)の全会員が審査員を務める点にあります。東京アートディレクターズクラブ(ADC)は1952年に結成された組織で、日本を代表するアートディレクター85名により構成されています(参照*1)。
2025年の審査対象期間は、2024年6月1日から2025年5月31日までに発表・使用・掲載された作品です。応募総数は約6,000点にのぼり、ADC会員による厳正な審査を経て受賞作品と年鑑収録作品が選出されました(参照*1)。
85名の現役アートディレクター全員が審査に関わる仕組みは、多角的な視点を反映した選考を可能にしています。約6,000点という応募規模は、ADC賞が実務の第一線で活動するデザイナーにとって自身の仕事を問う場であり続けていることを示しています。
展覧会・年鑑の開催情報
受賞作品を直接観覧できる「日本のアートディレクション展2025」は、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)にて2025年10月31日から11月29日まで開催されます。展示では、受賞作品や優秀作品が年鑑刊行に先駆けて紹介され、その年の視覚言語が鮮やかに立ち上がる構成とされています(参照*2)。
巡回展として、市立小諸高原美術館・白鳥映雪館では2025年12月7日から2026年1月25日まで開催され、学びの杜ののいちカレードでは2026年4月に開催が予定されています(参照*3)。受賞作品・優秀作品を掲載する『ART DIRECTION JAPAN / 日本のアートディレクション』(旧称『ADC年鑑』、美術出版社)は2026年4月に刊行予定とされており、展覧会と年鑑の双方で作品に触れる機会が用意されています。
主要受賞作の一覧

ADCグランプリと会員賞
ADC賞2025のADCグランプリには、岡崎智弘個展「STUDY」(クリエイションギャラリーG8)の映像・展示が選ばれました。アートディレクションは岡崎智弘が担当しています。映像と展示空間を一体で設計した作品が最高賞に選出された点は、ADC賞2025の審査が領域横断的な表現を高く評価したことの象徴といえます。
ADC会員賞には3作品が選ばれています。1つ目は三澤遥個展「Just by | だけ しか たった」(クリエイションギャラリーG8)の展示で、アートディレクションは三澤遥が手がけました。2つ目は多摩美術大学「オープンキャンパス2023」のVI(ビジュアル・アイデンティティ)で、大貫卓也がアートディレクションを担当しています。3つ目は大塚製薬「カロリーメイト」のポスターとコマーシャルフィルムで、榎本卓朗がアートディレクションを務めました(参照*4)。
ADC賞・原弘賞の受賞作
ADC賞には多様なジャンルの作品が選出されています。沖縄セルラー「わたしたちが、絶滅危惧種になるまえに。」の新聞広告、炭平旅館「うかわ」のパッケージデザイン・ロゴタイプ、メリーチョコレートカムパニー「RURU MARY’S」のパッケージデザイン・空間デザインなど、紙媒体から空間設計まで幅広い作品が名を連ねています。
映像分野ではソニー・ミュージックレーベルズ「宇多田ヒカル 何色でもない花」のMVや、日本マクドナルド「ティロリミックス」のMV、本田技研工業「The Power of Dreams How we move you.」のコマーシャルフィルムが受賞しました。さらに、甲子化学工業「HOTAMET」のプロジェクト、大塚製薬「カロリーメイト リキッド」のポスター・ウェブサイト、PROP「BIRDS展-花と鳥-」のポスターもADC賞に選ばれています(参照*4)。原弘賞は、CAMEL「Kurigami88」のブックデザインが受賞しています(参照*4)。新聞広告・パッケージ・MV・プロジェクト・ブックデザインと、受賞作のジャンルの広さがADC賞2025の特徴のひとつです。
分野別の注目作品

グラフィック・広告の注目作
グラフィック・広告領域では、沖縄セルラー「わたしたちが、絶滅危惧種になるまえに。」の新聞広告が受賞作に名を連ねています。この作品はアートディレクションを江波戸李生、クリエイティブディレクションとコピーを野崎賢一、イラストレーションを山田博之が担っています(参照*4)。絶滅危惧種という社会的テーマを新聞広告というメディアで表現した作品であり、ADC賞2025においてグラフィックの力が社会課題と結びつく事例として位置づけられます。
そのほかにも、花王「メリット」のポスター・コマーシャルフィルムや、長崎新聞「核の脅威のタイムライン ―3秒から79年―」の新聞広告、日本グラフィックデザイン協会「JAGDAデザイン会議 Graphic Design Now」のVIなどが優秀作品として展示に含まれていました(参照*2)。
映像・MV領域の受賞作
映像・MV領域では、ソニー・ミュージックレーベルズ「宇多田ヒカル 何色でもない花」のMVが注目を集めました。フィルムディレクターは山田智和、シネマトグラファーは今村圭佑が務めています。音楽と映像の親和性を追求した作品として、ADC賞2025における映像表現の到達点を示す一作です。
日本マクドナルド「ティロリミックス」のMVも受賞しており、アートディレクションは小柳祐介と堀田さくら、ディレクションは志賀匠、キャラクターデザインはアッキーブライトが担当しています(参照*4)。大塚製薬「ポカリスエット」のコマーシャルフィルムも展示作品に含まれており、広告映像からMVまで多様な映像表現がADC賞2025で評価されたことがわかります(参照*2)。
ブランディング・パッケージの受賞作
ブランディング・パッケージ領域では、炭平旅館「うかわ」のパッケージデザイン・ロゴタイプが受賞しています。アートディレクションは藤田佳子、カリグラファーは寺島響水、イラストレーションはマリア・メデムが担当しました。また、メリーチョコレートカムパニー「RURU MARY’S」のパッケージデザイン・空間デザインでは、川上恵莉子がアートディレクションを手がけています(参照*4)。いずれもパッケージだけでなく空間やロゴタイプを含めた総合的なデザインが評価された作品です。
プロダクト寄りの取り組みとしては、甲子化学工業「HOTAMET」のプロジェクトが挙げられます(参照*4)。さらに展示作品には、タミヤ「TAMIYA PLAMODEL FACTORY TOKYO」のVIや、カモ井加工紙「Diagonal Cut Tape」のプロダクトも含まれていました(参照*2)。ブランドの世界観を製品・空間・ロゴの統合で構築する方向性が、ADC賞2025のブランディング領域に共通する傾向です。
評価されたデザイン表現

社会課題と接続する視覚言語
ADC賞2025の各作品は、視覚言語としての洗練された表現と、社会や文化と接続する意識のあり方を示しており、デザインの現在地を知る資料としても機能しています(参照*5)。沖縄セルラーの「わたしたちが、絶滅危惧種になるまえに。」や長崎新聞の「核の脅威のタイムライン ―3秒から79年―」といった新聞広告は、環境問題や核の脅威という社会課題を視覚表現で伝える試みです。
こうした作品群を見ると、ADC賞2025ではデザインの美的完成度だけでなく、社会に対してどのようなメッセージを届けるかという視点が審査の中で存在感を持っていたと読み取ることができます。竹尾「かつて木だったものたち」の展示作品も、素材と向き合う姿勢を通じて環境への意識を感じさせる取り組みです(参照*2)。
デジタルとフィジカルの横断
ADCグランプリを受賞した岡崎智弘個展「STUDY」は、映像と展示空間を融合させた作品であり、デジタルとフィジカルを横断する表現の象徴的な事例です。ADC賞2025の展覧会そのものも、タイポグラフィからアートディレクション、キャンペーン設計に至るまで多層に交差する実践に触れられる場として構成されていました(参照*3)。
デジタル技術がデザインの現場に与える影響については、ADC会員の大貫卓也が、AIが制作した映像の出来栄えに驚愕したと語り、以前なら3億円規模の予算が必要だった映像を予算ゼロでわずか15秒で生成できてしまう現実に言及しています(参照*6)。AIの進展がアートディレクターの役割にどう影響するかという問いは、ADC賞2025の受賞作が示す「人の手による表現の意味」を考えるうえでも避けて通れない論点です。
おわりに
ADC賞2025では、約6,000点の応募作品の中からグラフィック・映像・ブランディング・プロダクトと幅広い領域の作品が選出され、社会課題との接続やデジタルとフィジカルの横断といった表現の多層性が際立ちました。年鑑『ART DIRECTION JAPAN / 日本のアートディレクション』の刊行や巡回展を通じて、受賞作に触れる機会はまだ続いています。
2026年のADC賞では、AI技術のさらなる浸透や社会環境の変化を受けて、アートディレクションがどのような表現へ向かうのかが問われることになります。ADC賞2025の受賞作が示した到達点を踏まえたうえで、次年度の動向にも目を向けてみてください。
お知らせ
ADC賞・2025で注目される表現力と伝達力は、インナー・コピーライティングによる想いの言語化が社会との新しいつながりを築く鍵となります。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) ギンザ・グラフィック・ギャラリー – 日本のアートディレクション展 2025
- (*2) ADFウェブマガジン|ADF Web Magazine – 「日本のアートディレクション展2025」がギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で開催
- (*3) QUI – Fashion & Culture media – 「日本のアートディレクション展 2025」日本の広告・グラフィックの“いま”
- (*4) 蔦屋書店オンラインストア – ART DIRECTION JAPAN/日本のアートディレクション 2024 東京アートディレクターズクラブ編
- (*5) 美術手帖 – 日本のアートディレクション展 2025
- (*6) 大貫卓也|NPO法人建築思考プラットホームPLAT|プラット