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第一想起を獲得する方法:メンタルアベイラビリティをクリエイティブに活かす

第一想起を獲得する方法:メンタルアベイラビリティをクリエイティブに活かす

はじめに

あるカテゴリーで買い物をしようとしたとき、最初に頭に浮かぶブランドはほぼ決まっています。この「第一想起」を獲得できるかどうかが、売上に直結する分岐点です。では、第一想起を獲得する方法として、クリエイティブの設計にはどのような原則があるのでしょうか。

鍵になるのは「メンタルアベイラビリティ」という概念と、音・色・ロゴなどのブランド資産を一貫して反復する実装設計です。本記事では、その構造と具体的な方法を、事例や測定指標とあわせて解説します。

第一想起とメンタルアベイラビリティ

第一想起とメンタルアベイラビリティ

第一想起の定義と購買への影響

ブランドの想起には段階があります。純粋想起とは、ヒントなしで思い浮かぶブランドすべてを指し、第一想起はそのなかで最初に思い浮かんだブランドだけを指します。第一想起は購買行動への影響が最も強く、マーケティングにおいて特に重視される指標です(参照*1)。

映画産業を対象にした分析でも、「純粋想起」と「第一候補」の2つだけが興行収入と相関を示し、公開の12週前からその関係が確認できたという結果があります(参照*2)。つまり、第一想起を獲得することは単なるブランド認知の話ではなく、実際の購買や売上に先行して表れるシグナルだといえます。

メンタルアベイラビリティの構造

メンタルアベイラビリティは、「購買状況においてブランドが想起されたり、気づかれたりする傾向」を指します(参照*3)。買い手が意思決定する瞬間に、頭のなかにブランドが浮かぶかどうかを左右する確率的な概念です。

約200のFMCGブランドを対象にした調査では、競合より多くの購買場面で想起されるブランドほど成長の確率が高いという結果が再現されています(参照*4)。さらに、メンタルアベイラビリティは「フィジカルアベイラビリティ」、すなわち店頭やオンラインでブランドを見つけやすいかどうかと対になる概念であり、この両方がそろうことで選ばれる確率が高まります(参照*5)。第一想起を獲得する方法を考えるうえで、メンタルアベイラビリティの強化は出発点になります。

Distinctive Brand Assetsの設計

Distinctive Brand Assetsの設計

「有名性×独自性」の評価グリッド

ブランド独自の資産、すなわち識別可能なブランド資産(Distinctive Brand Assets、以下DBA)を評価する際には、「有名かどうか」と「独自かどうか」の2軸が用いられます。DBAには2つの特性が求められ、そのブランドだけを連想させる「独自性」と、誰が見てもそのブランドだと分かる「有名性」です。このうち独自性のほうがより重視されます(参照*6)。

ブランド要素は、有名性と独自性の強さで4象限に分類されます。有名性と独自性の両方を備えた要素は「Use or Lose(活用すべき資産)」、独自だが有名でない要素は「Invest(投資して育てるべき資産)」、有名だが独自でない要素は「Avoid(競合に模倣されるため回避すべき資産)」、どちらも弱い要素は「Test or ignore(検証もしくは無視すべき資産)」と位置づけられます(参照*6)。

同様の考え方を実務に落とし込んだ評価体系として、GOLDはブランド名がなくてもブランドを表せるほど強い資産、SILVERはある程度の認知と独自性はあるが単独でブランドを代弁するには至らない資産、BRONZEは認知もブランド固有性も低い資産とされます(参照*7)。自社の資産がどの象限・ランクにあるかを把握することが、第一想起を獲得する方法の設計を始める第一歩となります。

視覚資産:ロゴ・色・キャラクター

視覚に訴える資産は、DBAのなかで最も活用頻度が高い領域です。2,000本以上の動画広告を実視聴環境で分析した調査によると、視覚的なブランド資産は広告の約92%に登場していました(参照*8)。ロゴ、ブランドカラー、キャラクターなどは消費者の目に触れる機会が圧倒的に多く、広告制作の現場でも最初に検討される要素です。

視覚資産を評価する際にも、前述の「有名性×独自性」のグリッドが有効です。たとえばパッケージデザインは、独自性が高ければブランド名を見せなくても商品を判別できるGOLD資産になりえます。一方で、ありふれた色やフォントだけで構成された要素は、競合との見分けがつかず「Avoid」に該当するリスクがあります。視覚資産の設計では、競合にはない色やモチーフを選び、それをあらゆる接点で統一して使い続けることが求められます。

聴覚資産:ソニックロゴとジングル

ソニックブランディングとは、ブランドの認知や連想を強化するために独自の音を戦略的に用いる手法を指します。ジングルだけでなく、視覚のロゴと同様の役割を果たす短い音声フレーズ「サウンドロゴ」も含まれます(参照*9)。

しかし聴覚資産は、視覚資産に比べて大幅に活用が遅れています。前述の調査では、視覚資産が広告の約92%に登場した一方、聴覚資産が含まれていた広告は10%未満でした(参照*8)。音声なしで自動再生される広告環境が背景にあるとみられますが、この偏りは逆にいえば聴覚資産を持つブランドにとっての差別化余地が大きいことを意味します。第一想起を獲得する方法として、視覚と聴覚の両面からDBAを設計することが有効な選択肢になります。

クリエイティブ実装の方法論

クリエイティブ実装の方法論

CEPとアセットの共同提示

カテゴリエントリーポイント(Category Entry Point、以下CEP)とは、消費者がカテゴリーへの購買意欲を感じる具体的な場面や動機のことです。第一想起を獲得する方法として、このCEPとDBAをセットで提示する「共同提示」が重視されています。CEPはブランドのDBAと一緒に提示されたときに、より強くブランドと結びつきます。しかし多くのブランドはCEPとの結びつけに失敗しており、その原因はメッセージの問題ではなく、ブランディングの弱さにあります(参照*4)。

人は、関連する情報が同時に提示されるとその結びつきを学習します。Gordon’sというジンブランドは、700を超える新規競合に直面した際、独自性を軸にブランドアイデンティティを刷新しました。新しいボトル、タグライン、広告スタイルをすべての施策に展開し、新しく作ったDBAを見せるときには必ずブランド名を併記する共同提示を徹底しました(参照*10)。DBAを提示するたびにブランド名を重ねることで、消費者の記憶のなかにブランドとCEPの接続回路が太くなっていきます。

一貫性と反復の設計原則

DBAの効果は、一度つくって終わりではなく、一貫して反復することで蓄積されます。動画広告を分析した調査では、最初の2秒以内にブランドを提示する手法が、ブランド認知の向上と強く結びついていました。この手法は「素早い流暢性(Fast Fluency)」と呼ばれ、視聴者がほぼ瞬時にブランドを識別できる状態をつくることを目指しています(参照*8)。

また、広告の効果を分析した調査では、感情的な反応が生まれても広告の独自性が低い場合にはその効果が失われることが示されています。複数のDBAを組み合わせて用いることで、広告の独自性が高まる可能性があるとされています(参照*11)。つまり、第一想起を獲得する方法として、ロゴ、色、音などの複数のDBAを広告の冒頭から一貫して提示し続ける設計が有効です。

成功事例と失敗事例

成功事例と失敗事例

長期運用で成果を出したブランド

英国の金融機関Lloydsは、数年間にわたりリーチを優先した大量の広告展開を行い、そのすべてにシンボルである「黒い馬」を登場させました。その結果、Lloydsの広告は競合よりも高いブランド結びつきを達成し、ブランド認知と新規取引の拡大につなげました(参照*10)。ひとつのDBAを大量の接点で反復し続けた好例です。

自動車メーカーのAudiは、タグライン「Vorsprung durch Technik」を約40年にわたって使い続けています。ドイツ語のタグラインはドイツ語圏以外の市場でかえって際立ち、ブランドのドイツ的なアイデンティティを長期間支え続けました。長寿のタグラインでありながら、クリエイティブの自由度を縛ることなく戦略の土台として機能した事例です(参照*10)。

食品分野では、タイ風味調味料「Ros Dee」が2009年度から広告投資を倍増し、販促費を縮小する方針へ転換しました。その結果、マインドシェアが上昇し、それに続いて市場シェアも増加しました(参照*12)。短期的な販促から広告によるメンタルアベイラビリティ強化へ投資を移したことで、第一想起の獲得と売上成長が連動した事例といえます。

リニューアルで失敗した教訓

既存のDBAを安易に変更した場合には、深刻な損失を招くことがあります。Tropicanaのパッケージ変更はその代表的な事例です。Tropicanaは、象徴的だった「オレンジにストローが刺さったイラスト」をパッケージから外し、無地のグラスに入ったオレンジジュースの画像に差し替えました。その結果、消費者はブランドをほとんど識別できなくなりました(参照*6)。

この変更は発売から1か月足らずで元のデザインに戻されましたが、売上損失は推定2,630万ドルにのぼったとされています(参照*6)。長年にわたって消費者の記憶に蓄積されたGOLDレベルのDBAを一度手放すと、その回復には大きなコストがかかります。リニューアルを検討する際は、前述の「有名性×独自性」のグリッドで資産を評価し、GOLD資産には手をつけないという判断基準が欠かせません。

効果測定と投資判断の指標

効果測定と投資判断の指標

第一想起を獲得する方法を実行に移したあとは、効果を継続的に測定する必要があります。メンタルアベイラビリティの主要な測定指標はメンタルマーケットシェア(MMS)です。MMSの力は、売上マーケットシェア(SMS)との相関にあります。競合よりも多くの購買場面で想起されるブランドはMMSが高まり、それがSMSの上昇へとつながります(参照*4)。

広告のクリエイティブ品質とメディア投下量を1,265のキャンペーンにわたって分析した調査では、報告されたビジネス成果の60.1%を説明できたとされています(参照*11)。クリエイティブの質が投資対効果に直結することを示す数値です。

聴覚資産を評価する場合には、独自の測定観点があります。具体的には、独自性(競合に誤って帰属されない度合い)、ブランド適合性(ブランドの価値観に合った感情を引き出すか)、連想力(消費者が音からブランドを正しく想起できるか)、直感性(音がどれだけ早くブランドと結びつくか)の4つです(参照*9)。視覚と聴覚それぞれの資産を測定し、投資すべき資産と維持すべき資産を見極めることが、第一想起の獲得を持続的な成果につなげる判断の軸になります。

おわりに

第一想起を獲得する方法は、一つの施策で完結するものではありません。メンタルアベイラビリティの構造を理解し、DBAを「有名性×独自性」の評価で管理しながら、CEPとの共同提示と一貫した反復で記憶を積み上げていく設計が求められます。

成功したブランドはいずれも、数年から数十年という時間軸で資産を守り続けました。まずは自社のDBAがどの象限にあるのかを棚卸しし、クリエイティブ実装の方針を定めるところから始めるとよいでしょう。

お知らせ

第一想起獲得の方法は、インナー・コピーライティングで経営者の想いを言語化し、広告・広報・PR・ネーミングを組み合わせた戦略で社会との新しいつながりを継続的に設計することです。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

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