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インナーコピーライティングとは?顧客心理を動かす感情設計の全技術

インナーコピーライティングとは?顧客心理を動かす感情設計の全技術

はじめに

経営者や担当者が「伝えたいこと」を持っていても、それが社員や顧客の心に届かないケースは少なくありません。自社の経営目標や戦略に共感している社員がわずか約1割にとどまるという調査結果もあり(参照*1)、組織の内側にある想いと、外に届く言葉との間には大きな溝があります。この溝を埋めるために求められるのが、インナーコピーライティングという考え方です。

インナーコピーライティングでは、話し手・書き手の内面にある感情や価値観をまず言語化し、それを土台にして外へ向かう言葉を設計します。本記事では、その定義から感情設計の具体的な手法、組織での活用手順、そして実践事例までを順に解説します。

インナーコピーライティングの定義

インナーコピーライティングの定義

「内なる言葉」と「外に向かう言葉」

インナーコピーライティングを理解するには、言葉の構造を2つの層に分けて考えることが出発点になります。1つは、話す・書く・打つといった行為で外に出る「外に向かう言葉」です。もう1つは、考えたり感じたりするときに頭の中に浮かぶ「内なる言葉」です。言葉の構造を理解するためにまずすべきことは、この「内なる言葉」に目を向けることだとされており、外に向かう言葉だけでなく、考えや感情のときに浮かぶ内なる言葉を意識することがカギになります(参照*2)。

インナーコピーライティングとは、この内なる言葉を丁寧に掘り起こし、磨き上げたうえで、外に向かう言葉へと変換する一連の技術です。言葉にできないということは、言葉にできるほどには考えられていないのと同じです。外に向かう言葉だけを鍛えても巧みさは得られるかもしれませんが、重さや深さを得ることはできません。気持ちと言葉が一致していなければ、言葉と行動が一致するはずもなく、ここに技法だけで言葉を磨こうとする落とし穴が潜んでいます(参照*3)。

つまりインナーコピーライティングは、表現テクニックの前に「何を感じ、何を伝えたいのか」という内面の解像度を高める工程を重視する手法です。経営者や起業家が持つ想いを言語化し、社会との新しいつながりを生みだすためには、この「内から外へ」の順序が欠かせません。

インナーブランディングとの関係

インナーコピーライティングは、インナーブランディングと重なる領域を持ちます。インナーブランディングとは、企業の理念やビジョン、ブランド価値を社内に浸透させる活動です。単に理念を周知するだけではなく、従業員一人ひとりがその内容を理解・共感し、日々の業務で体現できる状態を目指します。従業員がブランドを「自分ゴト化」することで、組織全体のパフォーマンス向上が期待できます(参照*4)。

インナーブランディングが「理念を組織に浸透させる活動の全体像」であるのに対し、インナーコピーライティングはその活動の中核となる「言語化」の技術にあたります。経営層との対話を通じて理念やビジョンの内なる言葉を引き出し、社員が腹落ちできる表現に変換する工程がインナーコピーライティングの役割です。理念の浸透を目指すインナーブランディングは、言葉の精度が低ければ形骸化しやすいため、内面の想いを正確に言語化する技術が土台として求められます。

感情設計が求められる背景

感情設計が求められる背景

共感わずか1割の現実

組織の言葉が届いていない現状を、数字が裏づけています。ある調査によると、自社の経営目標や戦略に対して「共感している」と回答した社員は、わずか約1割にとどまることが判明しました(参照*1)。経営陣が掲げる理念やビジョンは、大半の社員にとって自分の感情とは結びつかない「他人ごと」の言葉にとどまっている可能性があります。

社内コミュニケーションには、単なるツール導入や制度設計だけでなく、「対話の質」「教育」「適切なツール」の3つの柱をバランスよく強化する必要があることも示されています(参照*1)。言葉を届ける前に、受け手の内面にある感情を理解し、それに応じた言葉を設計する発想がなければ、理念はいつまでも額縁の中の文字にとどまります。

働き方の多様化と言葉の断絶

感情設計の必要性は、働き方の変化によっても高まっています。テレワークやハイブリッド勤務など多様な働き方が普及したことで、これまで当たり前に行われていた対面での雑談や偶発的な情報共有が減少しています。その結果、職場の雰囲気や業務状況が見えにくくなり、組織として方向性をそろえることが難しくなりました。オンライン環境では相手の状況が把握しづらいため、意思疎通の質が生産性にも影響を与えます(参照*5)。

同じ会社に勤めていても働く時間や場所がばらばらになり、共通目標を持ちにくくなっています。多様なメンバーを1つの方向にまとめるためには、「共通認識」や「つながり」を意識して醸成する必要があります(参照*6)。こうした環境だからこそ、表面的なスローガンではなく、受け手の感情に根ざしたインナーコピーライティングの設計が求められるのです。

感情設計の実践メソッド

感情設計の実践メソッド

感情マッピングと欲求フォーカシング

感情設計は、「受け手がいま何を感じているか」を把握する工程から始まります。メッセージの受け手の感情がいまどのようなものなのかを分析し、メッセージを受け取ることでどのような感情を抱くのかをあらかじめ予測するという手順です。相手が抱くであろう疑問や誤解、そのほかのネガティブな感情を予測できれば、それを踏まえた発信が可能になります(参照*7)。

この工程を「感情マッピング」と呼ぶことができます。社員や顧客が抱えている不安・期待・疑問を一覧に書き出し、感情の現在地を地図のように可視化する作業です。可視化した感情のうち、最も強い欲求やためらいに焦点を合わせることで、どの感情にどんな言葉で応えるかという優先順位が定まります。感情の全体像を把握してから言葉を選ぶ順序は、技法先行の表現づくりとは対照的です。

T字型思考法による言語化

内なる言葉を掘り下げる手法として、「なぜ」「それで」「本当に」の3つの問いを使い、書き出した内なる言葉を拡張して解像度を上げていく方法があります。最初に書き出した内なる言葉は、考えを進めていく過程の出発点にすぎません。そのため「こんなことでいいのか」と思う必要はまったくないとされています(参照*8)。

この手法は、横方向に広げる「なぜ」と、縦方向に深める「それで」「本当に」が交差するため、T字型思考法と呼べます。「なぜ」で動機や背景を探り、「それで」で行動や結果を具体化し、「本当に」で思い込みを検証するという3方向の問いかけを繰り返すことで、漠然とした感情が具体的な言葉に変わっていきます。インナーコピーライティングにおいて、この言語化の深度がそのまま外に向かう言葉の説得力に直結します。

マインドセッティングの技術

受け手の心の準備状態を整える段階では、抽象的な理念を具体的な感情に変換し、言葉の響きやリズムを意識し、一読で感じ取れる表現を選びます。たとえば「挑戦者を実現に変える伴走者」や「私たちが築いているのは、インフラではなく希望です」のように、ブランドの理念や行動を感情で伝える一文が理想とされています(参照*9)。

マインドセッティングとは、こうした一文を通じて受け手の心のモードを切り替える技術です。読んだ瞬間にブランドの世界観が立ち上がるフレーズは、内なる言葉の解像度が高いからこそ生まれます。本質的に何をしているのかが自分の中でブレていないという状態が土台にあってはじめて、外に向かう言葉に芯が通ります(参照*10)。

組織での活用手順と施策例

組織での活用手順と施策例

現状分析から言語化までの5ステップ

インナーコピーライティングを組織に導入する際は、段階を追って進めることで成果につなげやすくなります。具体的には次の5つのステップが考えられます。

  1. 理念や存在意義の言語化として、なぜこの会社が存在するのかを明らかにする
  2. 約束する価値とスタンスの明確化として、何を大事にし、何をしないのかを定める
  3. 社員の行動指針への落とし込みとして、現場でどう振る舞うべきかを具体化する
  4. ロゴ・デザイン・メッセージへの反映として、言語化した内容を視覚と言葉の両面で表現する
  5. 発信と対話の場の設計として、浸透に向けた施策を継続的に運用する

最初の3つのステップは理念の棚卸しと行動への翻訳にあたり、4つ目以降が外に向かう言葉としての表現と運用にあたります(参照*11)。ステップの順序を守ることで、内なる言葉が外に向かう言葉へ自然に接続されます。

社内報・クレド・ワークショップへの展開

5つのステップで言語化した内容を定着させるには、日常の接点に落とし込む施策が必要です。従業員に理念を浸透させるためには、経営層が自ら理念を言葉と行動で示し、定期的に説明やメッセージ発信の場を設けることがポイントです。理念の意味や背景、作成の意図を伝える機会を積極的に設けることが推奨されています。さらに、理念に沿った行動や成果を評価・表彰する仕組みを導入し、報酬や人事制度と連動させることで実践を促せます(参照*12)。

社内報は理念を物語として届ける媒体となり、クレドは行動指針を携帯できる形にまとめたツールです。ワークショップは社員同士が内なる言葉を交換し合う場として機能します。これらの施策に共通するのは、一方向の発信ではなく、社員が自分の言葉で理念を語り直す双方向の仕掛けである点です。インナーコピーライティングの視点で設計された施策は、言葉を「受け取る」だけでなく「自分のものにする」体験を生みだします。

成功事例と失敗の落とし穴

成功事例と失敗の落とし穴

企業事例に学ぶ感情設計の実践

インナーコピーライティングの考え方を実践した取り組みとして、コーポレートメッセージの策定プロセスがあります。ある企業では、まずMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の意味や必要性を理解するだけでなく、一人ひとりが自身の価値観を言語化する「個人理念」の策定を行いました。それを発表し合うことで他者理解につなげるワークショップを、物流・店舗・本部・役員陣へと全拠点横断で実施しています。さらに、「ドラマティック」「ロマンティック」というキーワードから想起する言葉を付箋で書き出し、立場や役割の異なるメンバー同士で共有しました。言葉の捉え方の違いをすり合わせ、共通理解を丁寧に育てるプロセスを重ねた点が特徴です(参照*13)。

別の事例では、社内報や動画といった既存の広報チャネルによる「認知・理解」のフェーズから一歩踏み込み、「自分事化・行動変容」を目指して社員同士が直接語り合う対話型イベント施策を導入しています。既存チャネルでの発信を「空中戦」、対話の場を「地上戦」と位置づけ、コミュニケーションのフェーズを引き上げる作戦が策定されました(参照*14)。いずれの事例にも共通するのは、一方的に言葉を届けるのではなく、社員が自分の内なる言葉と向き合う場を設計している点です。

技法偏重と押し付けのリスク

インナーコピーライティングを導入する際に注意すべき点は、技法に偏りすぎることです。外に向かう言葉だけを鍛えても、巧みさは得られるかもしれませんが重さや深さを得ることはできないと指摘されています。気持ちと言葉が一致していなければ言葉と行動が一致するはずもなく、ここに技法だけで言葉を磨こうとする落とし穴があります(参照*3)。

話すべき内容である自分の思いがあるからこそ、言葉は人の心に響きます。どう言うか、どう書くかではなく、自分の気持ちを把握したうえで、自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるかが本来の順序です。内なる言葉が磨かれ、語彙力も解像度も高まった段階であれば、気持ちをすんなりと外に向かう言葉へ変換できるようになり、そこに取り繕いのスキルや技術は不要になります(参照*8)。美しい言い回しや洗練されたフレーズを先に用意し、それを社員に「浸透させる」という順序では、押し付けとして受け取られる危険があります。内面の感情を飛ばして外側の言葉だけを整えるアプローチは、共感ではなく反発を生む原因になりかねません。

おわりに

インナーコピーライティングで押さえるべきポイントは、内なる言葉の解像度を高めてから外に向かう言葉を設計するという順序、受け手の感情を事前にマッピングする工程、そして対話の場を通じて言葉を「自分ゴト化」させる仕組みづくりの3つです。

技法だけに頼れば言葉は軽くなり、内面を飛ばせば押し付けになるという両方のリスクを理解したうえで、経営層と社員の対話を起点にした言語化に取り組むことが、組織の想いを社会へ届ける確かな一歩になります。

お知らせ

インナーコピーライティングが示す想いの言語化は、経営者や起業家の価値を明確にし、BtoC・BtoBにおける広告や広報、ネーミングを絡めたコミュニケーション戦略へと自然につなげます。企業成長やブランドの共感創出を促します。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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