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カンヌライオンズとは?特徴・主要部門・受賞作品の傾向と最新トレンド

はじめに

広告やクリエイティブの世界で働く人にとって、カンヌライオンズは避けて通れない存在です。世界約100の国と地域からプロフェッショナルが集まるこのフェスティバルでは、広告の枠を超えたビジネス変革や社会課題への取り組みまでが評価の対象となっています。では、カンヌライオンズの特徴を知らないまま広告戦略を立てると、どのような機会を逃してしまうのでしょうか。

結論としては、いま世界の広告業界で「何が評価され、どこへ向かっているのか」を読み解く羅針盤がカンヌライオンズです。本文では、その歴史や部門構成、受賞作品の傾向、そして広告トレンドまでを順に解説します。

カンヌライオンズとは

カンヌライオンズとは

歴史と開催概要

カンヌライオンズの正式名称は「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」です。毎年6月、地中海沿いに位置するフランスのビーチリゾート、カンヌで開催され、昼夜を問わず世界中の参加者で街が溢れ返ります(参照*1)。

このフェスティバルの特徴は、エントリー数と来場者数が世界最大規模である点です。世界約100の国と地域から参加者が集い、約26,000点の作品が出品されます。対象分野も広告・マーケティング・PR・テクノロジー・エンターテインメントなど多岐にわたり、多様な分野の最前線で活躍するプロフェッショナルが一堂に会するグローバルなクリエイティビティの祭典として位置づけられています(参照*1)。

こうした規模感を持つからこそ、カンヌライオンズで示される評価軸は、世界の広告実務における共通言語として機能しています。開催地や時期だけでなく、どの分野から作品が集まるかを把握しておくことが、フェスティバル全体の理解につながります。

世界の広告賞における位置づけ

カンヌライオンズは「世界最大の広告賞」として知られています。全32部門に26,753点ものエントリーが集まった実績からも、その規模の大きさがうかがえます(参照*2)。

もうひとつの特徴は、単なる広告の枠を超え、ビジネス変革やB2Bのクリエイティビティまでを評価する場へと進化を遂げている点です(参照*2)。CEOのSimon Cookは、慣習を打ち破り問題を解決し、意義のあるつながりを生み出す「突破的なアイデアの変革力」を讃える場であると述べています(参照*3)。

広告表現の巧みさだけでなく、ビジネスや社会に対する実質的なインパクトが問われるところに、他の広告賞との違いがあります。経営の視点からクリエイティビティを考えたい方にとって、カンヌライオンズの動向は欠かせない参照軸です。

主要部門とトラック構成

主要部門とトラック構成

8トラックと30超の部門

カンヌライオンズの作品審査は複数のトラックに分かれ、その中に30を超える部門が設けられています。各部門は対象領域ごとに細かく定義されており、たとえば「Engagement」トラックには、Creative B2B Lions、Creative Data Lions、Direct Lions、Media Lions、PR Lions、Social & Influencer Lionsの6部門が含まれます(参照*4)。

部門名は時代の変化に合わせて微調整されることがあります。直近では、Social & InfluencerがSocial & Creatorに、Luxury & LifestyleがLuxuryへとマイナーチェンジされました(参照*5)。

こうした名称変更は小さな変化に見えますが、審査対象や評価の力点が移っていることの表れでもあります。エントリーを検討する際には、部門の最新定義を確認しておくことが欠かせません。

注目部門の審査基準

Entertainment Lions部門では、ブランドコンテンツ、短編映画、ブランデッドコンテンツ、デジタル動画、ライブイベント、AR・VR・MRなどの没入型体験が審査対象となります。インタラクティブな施策やゲーム化された体験、SNS向けのバイラルコンテンツ、さらには音楽を活用したキャンペーンやサウンドトラックもエンターテインメントの価値を高める作品として考慮されます(参照*6)。

Design Lions部門では、グラフィックデザインやブランディング、パッケージ、プロダクトデザイン、デジタルデザイン、環境デザイン、ロゴやウェブサイト、アプリのインターフェース、UXデザインが対象です。加えて、インタラクティブデザインやモーショングラフィックス、デジタルインスタレーションなど、テクノロジーと融合したデザインも評価されます(参照*7)。

いずれの部門も、単一の表現技法ではなく、複数の手法や技術が統合された作品に門戸が開かれていることがわかります。自社の施策がどの部門の審査基準に合致するかを見極めることが、エントリー戦略の出発点になります。

グランプリとライオンの種類

グランプリとライオンの種類

ゴールド・シルバー・ブロンズの階層

カンヌライオンズの受賞作品には、ゴールド・シルバー・ブロンズの3段階のライオンが授与されます。各部門のエントリー総数に対して受賞数は厳しく絞られており、たとえばEntertainment Lions部門では735件のエントリーに対し、受賞はゴールド5件、シルバー7件、ブロンズ9件の計22件でした(参照*8)。

この比率からも、ゴールドを獲得することの難度がうかがえます。さらに各部門の頂点に立つのがグランプリで、その年を代表する作品として業界全体の指標になります。Entertainment Lions部門のグランプリには、現代自動車の「Night Fishing」が選ばれました。7台の車載カメラだけで撮影された短編映画で、広告に懐疑的なミレニアル世代とZ世代をターゲットにした作品です(参照*8)。

受賞数の絞り込みは、審査の厳格さを物語っています。グランプリに至る作品には、表現の完成度だけでなく、対象への深い理解とビジネス上の意図が求められているといえます。

チタニウム・グラス・SDGsなど特別賞

通常の部門賞とは別に、カンヌライオンズにはいくつかの特別賞が存在します。チタニウム部門は、既存の枠を打ち破り、ブランドコミュニケーションの新たな地平を切り拓く事例を表彰する部門です。業界の新しい方向性を示し、前進させるような、挑発的で境界を壊す作品が対象になります(参照*5)。

グラス部門(Glass: The Lion for Change)は、社会変革を促す作品に贈られる賞です。253件のエントリーから、ゴールド1件、シルバー2件、ブロンズ4件に加えてグランプリが授与され、グランプリにはDoveの「Real Beauty: How a Soap Brand Created a Global Self-Esteem Movement」がOgilvy UK制作として選ばれました(参照*3)。

SDGs部門(Sustainable Development Goals Lions)は、国連のSDGs推進に寄与するクリエイティブな取り組みを幅広く受け付けます。公共意識向上キャンペーン、社会的インパクトを持つ施策、戦略的なパートナーシップなどが対象で、非営利・企業・行政を問わずエントリーが可能です(参照*9)。これらの特別賞は、カンヌライオンズがクリエイティビティの定義そのものを広げ続けていることの証左です。

評価される作品の傾向

評価される作品の傾向

社会課題解決とビジネス成果の両立

カンヌライオンズで高い評価を受ける作品の特徴として、社会課題への取り組みとビジネス成果を両立させている点が挙げられます。2024年のカンヌライオンズでは、ヒューマニティに焦点を当てたアプローチが多く見られました。前年は生成AI技術への関心が顕著でしたが、2024年はデジタル技術を駆使しながらも、人間の創造性や感性、文化的価値を表現し、社会課題の解決に挑んだ作品が印象的だったと報告されています(参照*2)。

受賞作品の傾向を分析した知見によると、優れたキャンペーンは声の大きさで勝負するのではなく、時代の空気を反映し、世界を再構想するものだとされています。たとえば「Daisy vs. Scammers」はAIを活用して詐欺師の時間を奪う施策で、説教ではなく実際のインパクトで評価されました。「Vaseline Verified」はTikTok上のバイラルな美容ハックを実験室で検証し、ポップカルチャーと科学を融合させた事例です(参照*10)。

これらの事例が示しているのは、社会の中にある課題を見つけ出し、ブランドならではの解決策を提示できるかどうかが評価の分かれ目になるという点です。

ファン参加型とテクノロジー活用

もうひとつの大きな傾向が、ファンの参加を起点とした施策です。2022年のCreative Effectiveness Lions受賞作品を分析した知見では、「ファンの力を取り込むことでクリエイティブなアイデアが加速する」というテーマが示されました。ファンを最優先に据えるアプローチは、特定のファンコミュニティとの結びつきを強めるだけでなく、大規模なリーチを獲得するキャンペーンの出発点にもなり得ます。Cheetos、Michelob、McDonald’sがファンとの関係構築を探究しており、「参加」がクリエイティブ戦略として増加傾向にあることが報告されています(参照*11)。

テクノロジーの活用も欠かせない要素です。同じ分析では、受賞作品がAIを活用したクリエイティブな実験に取り組んでいることが確認されています。社会の分断を修復する目的であれ、エンターテインメントとしてであれ、AIの創造的な応用が評価の対象になっています(参照*11)。

ファンの熱量を取り込む仕組みと、テクノロジーによる表現の拡張。この2つを掛け合わせた施策が、カンヌライオンズの場で繰り返し高い評価を得ています。

代表的な受賞作品

代表的な受賞作品

AXA「Three Words」の衝撃

チタニウム部門のグランプリを獲得したのが、保険会社AXAの「Three Words」です。この作品は、保険契約書にわずか3つの単語「and domestic violence(そして家庭内暴力)」を加えるだけで、DV被害に遭う女性が暴力的な関係から抜け出すための支援を可能にしたキャンペーンです(参照*3)。

審査員は「保険契約において言葉は大きな意味を持つ」と述べ、契約書をライフラインに変えたこの取り組みが、女性に暴力的な関係を離れる自由を与え、保険業界全体に改革の道筋を示したと評価しました。さらに、ビジネスへのインパクトも大きかったことが言及されています(参照*3)。

「内から外へ」という視点で見ると、契約書という企業の内部文書を社会への接点に変えた点に、この作品の本質があります。派手な表現ではなく、仕組みそのものを変えるクリエイティビティが最高賞に値するとされた事例です。

Dove「Real Beauty」の継続的評価

グラス部門のグランプリに選ばれたDoveの「Real Beauty: How a Soap Brand Created a Global Self-Esteem Movement」は、長期にわたって展開されてきたキャンペーンです。日常を生きる女性を「Real Women」として描き、本来の美しさを表現するこの活動は、もはやひとつのクリエイティブなアイデアにとどまらず、独自の視点から繰り返し新しいキャンペーンを生み出す基盤になっています(参照*3)。

審査員長は、受賞理由として「認知の獲得を超えて、一貫性のある測定可能な社会的インパクトを生み出した」ことを挙げました(参照*3)。

一過性の話題づくりではなく、長期にわたってブランドの信念を発信し続けること。その積み重ねが社会を変える力になると、カンヌライオンズの審査が改めて示した事例です。

日本勢の受賞動向

日本からも複数の作品が受賞しています。ゴールドを獲得した作品のひとつが、あすにはの「#2531佐藤さん問題」で、Creative Data部門とCreative Strategy部門の2部門でゴールドに輝きました。Creative Strategy部門ではブロンズも同時に受賞しています。制作を担当したのは電通デジタルです(参照*12)。

Creative Effectiveness部門ではマクドナルドの「スマイルあげない(No Smiles)」がシルバーを獲得しました。こちらはTBWA Hakuhodoが制作しています。日本勢全体では13作品がゴールド・シルバー・ブロンズのいずれかを受賞しました(参照*12)。

データ活用やクリエイティブ戦略の部門で日本の作品が評価されている点は、国内のクリエイティブ力が世界基準でも通用することを裏付けています。

最新の広告トレンド

最新の広告トレンド

カンヌライオンズの受賞作品から読み取れるトレンドのひとつが、「変革のためのエコシステム」というキーワードです。パーパス(社会的存在意義)をめぐる議論が深化するなかで、長期的にビジネス成長と社会的課題の解決を両立させるプラットフォームに注目が集まっています。RenaultとThreeは自社製品を実際に活用する仕組みを構築し、Michelobはサプライチェーンを変革して農家の有機農業への転換を支援しました(参照*11)。

ビジネスを利する施策であることが大前提でありながら、受賞作品はいずれも本質的な変革を志した結果、自社だけでなく「社会」という観点に立脚しているという指摘もあります。ムーブメントを起こすための文脈づくり、メッセージ、ビジュアルなどの表現が実務の参考になるとされています(参照*13)。

さらに、PRの役割を上流に移すべきだという提言も見られます。PRは文化にもっとも近い位置にあるにもかかわらず、クリエイティブの起点として位置づけられることが少ないため、ブリーフが固まってから関与するのではなく、コンセプト段階から参画すべきだという主張です(参照*10)。経営者やクリエイティブ責任者にとって、こうしたトレンドは自社のコミュニケーション設計を見直す契機となり得ます。

おわりに

カンヌライオンズの特徴は、広告表現の巧みさだけでなく、社会課題への取り組みやビジネス変革までを評価の射程に含めている点にあります。部門構成の変遷や受賞作品の傾向を追うことで、世界の広告が「どこに向かっているか」を具体的に把握できます。

押さえるべきポイントは、ファン参加型の施策設計、テクノロジーの創造的な活用、そして長期的なブランドの信念発信です。自社のコミュニケーションに「内から外へ」の視点を取り入れる際、カンヌライオンズの評価軸は実務の羅針盤になります。

お知らせ

カンヌライオンズの特徴を踏まえると、真の価値は想いを言語化して共感を生むクリエイティブ力にあり、ユー&ミーはインナー・コピーライティングでその価値を企業と社会につなげます。

株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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