
はじめに
The One Showは、50年以上にわたりクリエイティブの卓越性を測るグローバルなベンチマークのひとつとして位置づけられてきました。広告やデザインの世界には複数の国際的な賞がありますが、受賞歴はクリエイターのキャリアを左右するほどの影響力を持つとされており、その特徴や審査の仕組みを知ることは、広告制作に携わる方にとって大きな意味があります。
The One Showの部門構成と評価されるアイデアの傾向を押さえると、企画や応募準備の解像度が上がります。本記事では、設立の背景から他の国際賞との違い、近年の受賞作品の傾向までを順を追って解説します。
The One Showとは

設立背景と運営団体の概要
The One Showは、ニューヨークの非営利団体「The One Club for Creativity」によって1975年に設立された国際賞です。広告、デザイン、デジタルマーケティングの各分野において、アイデアの創造性とエグゼキューション(実行)のクオリティを評価し、Cannes LionsやClio Awardsに並ぶ世界三大広告賞のひとつとされています(参照*1)。
The One Showの収益は、教育、多様性と包括性、ジェンダー平等、クリエイティブ人材の育成という4つの柱に基づくプログラムに再投資されます。運営母体であるThe One Club for Creativityはクリエイティブ・コミュニティを支える非営利団体であり、賞の運営が業界支援と直結している点も特徴です(参照*2)。
Gold PencilとCrystal Pencil
The One Showを象徴するのが「Gold Pencil(金賞)」です。Gold Pencilはクリエイティブ業界で最も権威ある賞のひとつとされ、受賞はキャリアを決定づけるシンボルになるとされています(参照*1)。
さらに上位に位置するのが「Crystal Pencil」です。Crystal Pencilは「最高の最高」を称える賞であり、あらゆるディシプリン(審査領域)を横断して、その年の最も画期的な作品に贈られます。Gold Pencilが各部門の頂点だとすれば、Crystal Pencilはすべてのゴールドの中からさらに選び抜かれた存在といえます(参照*3)。
カンヌやD&ADとの違い

世界三大広告賞の位置づけ
The One Show、Cannes Lions、D&AD Awardsは、広告・デザイン分野で影響力を持つ主要な賞として挙げられます。ニューヨーク発のThe One Show、フランス・カンヌのCannes Lions、ロンドン発のD&AD Awardsの3つには、大概同じ作品がエントリーされるといわれています(参照*4)。
運営体制には違いがあります。Cannes Lionsが営利目的で運営されているのに対し、D&ADとThe One Showはいずれも非営利団体が母体です(参照*4)。
審査哲学と評価軸の比較
審査哲学の違いを押さえると、The One Showの特徴が見えやすくなります。D&AD Awardsは「革新的なアイデアか」「優れたエグゼキューション(実行)か」「パーパス(目的)に合っているか」という3つの基準で審査を行い、デザインの技術と表現の融合を意味する「クラフト」の視点を尊重しているとされています。また、D&AD Awardsの受賞は3賞の中で最も難しく、それは統計の数字に表れていると関係者は述べています(参照*4)。
The One Showは、審査が匿名で行われ、審査員はエントリー主体の情報を見ない仕組みです(参照*5)。また、ケーススタディの使用を審査材料として「カテゴリーにとって不可欠な場合」に限る基準が示されており、作品そのものへの焦点を強める設計になっています(参照*2)。
主な部門と審査の仕組み

ディシプリンとカテゴリーの構造
The One Showは、応募作品を大枠の「ディシプリン(審査領域)」に分類し、その中をさらに「カテゴリー」に分けて審査します。毎年、世界中から何千ものエージェンシー、ブランド、非営利団体、独立したクリエイターが参加し、作品は300人以上の業界リーダーからなる審査員によって評価されます(参照*3)。
2026年のエントリーからは、従来ひとつにまとめられていたDesign領域が「Design & Branding」と「Design in Advertising」の2つに分割されました。加えて、Creator Content領域やBest Use of TikTok Awardも設けられ、広告・マーケティングにおける新しい表現形態への対応が進んでいます(参照*2)。
Creative Effectiveness部門の特徴
The One Showには、クリエイティブの美しさだけでなくビジネス成果を問う「Creative Effectiveness」部門があります。この部門では、大胆なクリエイティブが明確に定義されたビジネス目標に対して測定可能な成果を生み出したかどうかが審査されます(参照*6)。
対象は単発の作品でもシリーズ(2〜10点)でも応募が可能で、農業から食品まで幅広い産業カテゴリーが設定されています。ブランドの目的達成に作品がどのような役割を果たしたかを具体的に示す必要があるため、「アイデアの面白さ」と「事業への貢献」の両立が求められます。
The One Show Indiesの新設
2026年から、The One Show内に「The One Show Indies」という独立系エージェンシー専用の領域が新設されました。大手ホールディングカンパニー傘下のネットワークと直接対決せずに、世界の舞台で競い合える場を独立系に提供する狙いがあります。公平性を保つため、1エージェンシーあたりのエントリー数は最大10点に制限され、1作品につき最大3カテゴリーまでの応募としています。エントリー費用は通常のThe One Showより20%低く設定されています(参照*7)。
審査員はすべて独立系エージェンシーのトップクリエイターで構成されます。Gold、Silver、Bronze Pencilに加え、Grand Prixに相当するCrystal PencilがBest of Indies受賞者に贈られます(参照*7)。
評価されるアイデアの傾向

匿名審査とクラフト重視の姿勢
The One Showでは、審査が匿名で行われる点が特徴として挙げられます。審査員はエントリー主体の情報を一切見ることができません(参照*5)。
ケーススタディの使用は、クリエイティブ作品そのものへの焦点を強化するため「カテゴリーにとって不可欠な場合」に限定される基準が示されています。ケーススタディは補足資料として添付できますが、審査材料の中心にはなりません。また、応募者には、記載内容や映像、エントリー素材の正確性を宣誓することが求められています(参照*2)。こうした制度設計によって、ブランドの知名度やエージェンシーの規模に左右されず、作品の独創性と実行力で評価される土壌が保たれています。
AI活用作品への評価拡大
近年のThe One Showでは、AIと人間の協働によるクリエイティブが評価対象として存在感を増しています。The One Show 2025ではAIパイオニア賞が創設され、AIと人間の協働から生まれた革新的なクリエイティブが高く評価されました(参照*8)。
この動きは、AIを単なる効率化の手段ではなく、クリエイティブの「協働者」として位置づける意識の変化を映し出しています。「AI=アシスタント」から「AI=協働者」への転換であり、人間とAIのチームによる制作が今後さらに広がっていくと考えられています。The One Showがこうした領域に賞を設けたことは、広告・デザイン業界におけるひとつの指標になります。
代表的な受賞作品

No Smiles(日本マクドナルド)
日本マクドナルドの「No Smiles」は、ブランド資産である「スマイル0円」を斬新なアプローチで再解釈したキャンペーンです。働く中でも自分らしくありたいと願うZ世代を中心に大きな共感を呼び、就業観のアップデートとブランドエンゲージメントを同時に実現しました(参照*9)。
この作品はCannes Lions 2024で金賞を受賞し、続いてNew York Festivals 2024、LIA 2024、Clio Music Awards 2024、Spikes Asia 2025でそれぞれグランプリを獲得、さらに2025 Clio Awardsで銀賞を獲得しています。The One Show 2025での受賞により、世界三大広告賞のすべてで受賞する快挙を達成しました(参照*9)。
Daisy vs ScammersとSpreadbeats
Virgin Media O2の「Daisy vs Scammers」は、Branded AIキャンペーン部門で金賞を獲得した作品です。高度なAI技術を使い、詐欺師に対して「AIのおばあちゃんデイジー」が長電話で応対するというアイデアが評価されました。デイジーは1,000人以上の詐欺師に最長50分間もの通話を強い、メディアでも大きく報じられました(参照*8)。
Spotifyの「Spreadbeats」は、The One Show 2025のファイナリストとして53のファイナリスト枠を獲得し、最も多い枠を記録した作品として紹介されています(参照*10)。AI活用と社会課題への着眼、そして音楽という文化領域への展開と、評価されるアイデアの幅広さがこの2作品からうかがえます。
広告制作への活用ポイント

The One Showの特徴を広告制作に活かすには、応募時に求められる記述項目を意識することが有効です。すべてのエントリーには、作品の背景、クリエイティブのアイデア、インサイトと戦略、実行方法、そして成果の記述が必要とされています(参照*11)。これらの項目は審査員が判断する材料であると同時に、制作チームが「なぜこの作品をつくったのか」を構造的に振り返る枠組みにもなります。
物理的・デジタルなプロダクトにとどまらず、ナラティブ(物語性)、世界観、コミュニティ、体験の継続性までを評価対象に含む部門がある点も押さえておきたいポイントです。長く続く価値をブランドがどのように築いているかが問われます(参照*1)。応募の有無にかかわらず、こうした視座を日常の企画段階から取り入れることで、アイデアの射程を広げる手がかりになります。
おわりに
The One Showは、匿名審査によって作品そのものに焦点を当て、非営利運営で業界全体への還元を行っている国際賞です。AI活用や独立系エージェンシーへの門戸拡大など、時代の変化に応じて審査の仕組みも更新しています。
押さえるべきポイントは、アイデアの核を磨くこと、ビジネス成果との接続を意識すること、そしてブランドの物語を長期的に設計することの3つです。これらはThe One Showへのエントリーに限らず、あらゆる広告制作の土台となる視点といえます。
お知らせ
The One Showの特徴を踏まえ、想いの言語化やインナー・コピーライティングで企業コミュニケーションを磨き、広告・広報・ネーミングや研修と連携して新たな社会とのつながりを創る視点を示します。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – TBWA HAKUHODOの米澤香子がThe One Show 2026の審査員に選出
- (*2) Campaign Brief Asia – Countdown to The One Show 2026 entry deadline: This Friday, 23 January, 2026
- (*3) About / The One Show 2026
- (*4) AXIS Web – D&ADアワード2024レポート後編 プロフェッショナルから学生まで、教育プログラムに力を注ぐ理由
- (*5) FAQ / The One Show 2026
- (*6) Creative Effectiveness
- (*7) The One Show Launches Indies Discipline to Spotlight Independent Agencies
- (*8) amanaINSIGHTS(アマナインサイト) – One Show 2025に見る「創造的なAI活用」の最前線
- (*9) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – TBWA HAKUHODO、「The One Show 2025」にて部門最高賞を含む5つの賞を受賞
- (*10) adobo Magazine Online – The One Show 2025 Finalists include 186 from APAC
- (*11) Campaign Brief WA – Countdown to The One Show 2025 final entry deadline: next Friday, 28 February, 2025