
はじめに
広告コピーの良し悪しは、売上や認知度だけで測れるものではありません。言葉そのものが人の心を動かしたかどうかを正面から問う場が、TCC賞です。もしコピーの「表現力」を磨く基準を持たないまま仕事を続けると、成果指標だけに振り回され、言葉の本質的な力を見失う恐れがあります。
TCC賞は、効果測定ではなく「表現のおもしろさ」という一点に集中して審査される、他に類をみない広告賞です。本記事では、TCC賞の歴史や特徴、審査対象、受賞コピーの傾向、そして良いコピーに共通する視点まで、順を追って解説します。
TCC賞の定義と歴史

東京コピーライターズクラブと創設経緯
TCC賞は、東京コピーライターズクラブ(TCC)が主催する広告賞です。TCCの前身は1958年に発足した「コピー十日会」で、1962年に現在の名称へ改称されました。TCC賞もこの1962年にスタートしており、優れた広告コピーを表彰し、日本の広告表現水準の向上を図ることを目的としています(参照*1)。
TCC賞の大きな特徴は、現役の最前線にいるコピーライターやCMプランナーが「広告コピー」に着目して選ぶ点にあります。広告の制作者が制作者を評価する仕組みであり、他に類をみない広告賞と位置づけられています(参照*2)。こうした成り立ちを知ると、TCC賞が単なる業界イベントではなく、コピーの「言葉の力」を正面から問う場として設計されていることが見えてきます。
60年超の歩みと広告界での位置づけ
TCC賞は60年を超える歴史を持つ広告賞です。2025年度で63回を迎えたことが報じられており、半世紀以上にわたって途切れることなく続いてきました(参照*3)。日本の広告業界において、これほど長くコピー表現に特化して運営されてきた賞はほかにありません。
受賞作品だけでなく、ファイナリスト作品への選評も年鑑に収録されています。最終審査委員がなぜその広告やコピーを評価したのか、何に着目したのかがそれぞれ記されており、コピーの切り口や視点、着目した表現からも学ぶことができる構成です(参照*2)。審査過程が言語化されて共有される点は、次世代のコピーライターにとっての教材としても機能しています。
TCC賞最大の特徴

「表現のおもしろさ」一点に集中する審査
TCC賞の最大の特徴は、「表現のおもしろさ」という一点にほぼ集中して審査される点です。広告賞にありがちな「リザルトはどうだったか」「効率がどうだったか」といったことはほとんど考慮されず、「心の中でグッときたかどうか」を重視して審査が行われます(参照*3)。
「表現のおもしろさ」は、既成概念を揺さぶる視点の転換として語られています。審査に携わった関係者の言葉を借りれば、言葉として美しいかどうかよりも、世の中がAだと思っていることに対して「実はBなんじゃないの」とハッとさせられるかどうかが重要とされています(参照*4)。つまりTCC賞では、既成概念を揺さぶる視点の転換こそが「おもしろさ」として評価されるわけです。経営者やブランド担当者にとっても、自社の言葉が人の心をどう動かすかを考えるうえで、この評価軸は示唆に富んでいます。
効果測定や実績を問わない評価基準
TCC賞では、売上への貢献度やメディア露出量といった数値的な実績は、ほとんど考慮されません。「心の中でグッときたかどうか」が審査の基準であり、数字で測れない表現の力そのものに焦点が当たります(参照*3)。
この特徴は、コピーの本質を考えるうえで見逃せないポイントです。認知を獲得する、売上を上げる、そのために広告はつくられるけれども、それ以上の「何か」がある。その「美しさ」のようなものを追い求めることをやっていて、その「粋」のようなものがTCCに集まっているのではないか、と審査の関係者は語っています(参照*3)。効果とは別の次元で言葉を磨く場がTCC賞であり、そこに他の広告賞とは異なる存在意義があります。
審査対象とカテゴリ

一般部門の賞構成と応募規模
TCC賞の審査は一般部門と新人部門に分かれています。一般部門では「TCCグランプリ」「TCC賞」「審査委員長賞」の3つの賞が設けられており、毎年実際に使用された広告の中から優秀作品が選ばれます(参照*5)。
応募規模も相当な数に上ります。2025年度の一般部門には合計4,405点の作品が寄せられました。内訳はグラフィック2,230点、TVCM・その他映像971点、ラジオCM175点、WEB1,029点です。このうち年鑑に掲載されたのは645点で、掲載率は14.7%でした(参照*6)。約7点に1点しか年鑑に載らない計算であり、掲載そのものが一つの評価といえます。
新人部門の賞構成と応募資格
新人部門では「最高新人賞」と「新人賞」の2つが選出されます。一般部門が「作品」単位でエントリーするのに対し、新人部門は「人」単位で応募する仕組みです(参照*5)。
2025年度の新人部門には339名から応募がありました。カテゴリはグラフィック108名、TVCM・ラジオCM・TVラジオ混合19名、混合173名、WEB39名に分かれています。一次通過者は78名で、通過率は23%でした(参照*6)。応募者の約4人に1人が一次を通過する計算ですが、そこから最高新人賞や新人賞に到達するにはさらに厳しい選考が待っています。
TCC賞と新人賞の違い

TCC賞(一般部門)と新人賞(新人部門)は、同じ東京コピーライターズクラブが主催する賞でありながら、評価の対象と選出の単位が異なります。一般部門は「作品」に焦点を当て、TCCグランプリ・TCC賞・審査委員長賞を選出します。一方、新人部門は「人」に焦点を当て、最高新人賞・新人賞を選びます(参照*7)。
応募規模にも差があります。2025年度は一般部門に4,405作品、新人部門に339名からの応募がありました(参照*8)。一般部門は作品数が桁違いに多く、業界全体の広告表現を俯瞰する性格を持っています。対して新人部門は、応募者個人の才能を見極める場です。2024年度の新人部門では324名の応募から最高新人賞1名と新人賞18名が選ばれており、受賞者はごく少数に絞り込まれます(参照*7)。「作品を評価する賞」と「人を評価する賞」という違いを理解しておくと、TCC賞全体の構造がつかみやすくなります。
受賞コピーの傾向と事例

近年のグランプリ・TCC賞受賞作品
近年のTCCグランプリを見ると、生活に身近な商品やブランドが受賞する傾向がうかがえます。2025年度のTCCグランプリは、栗田雅俊氏(電通)と早坂尚樹氏(電通)による花王「メリット」のポスターやテレビCMシリーズが受賞しました(参照*9)。日用品というなじみ深い商材を、コピーの力でどう新鮮に見せるかが評価された例です。
その前年にあたる2024年度のTCCグランプリは、麻生哲朗氏(TUGBOAT)が日本マクドナルド「ビッグマック」のCMで受賞しています。麻生氏は壇上で「コロナとどう向き合うかで苦しんだけれど、一旦落ち着いて『ごはんを食べようよ』というタイミングなのかもしれない」と振り返りました(参照*10)。時代の空気を捉えた言葉が「心の中でグッとくる」表現として評価されていることが、この受賞コメントからも読み取れます。
新人賞受賞作品に見る多様性
新人部門の受賞作品は、媒体もジャンルも多彩です。2025年度のTCC最高新人賞は、平田純一氏(BBDO J WEST)がACジャパンの全国キャンペーン「決めつけ刑事」のテレビCMやポスター等で受賞しました(参照*9)。公共広告というジャンルで新人が高く評価された点は注目に値します。
また、2024年度の最高新人賞は原田堅介氏がタマノイ酢「すしのこ」のラジオCMで受賞し、受賞コピーは「お前、家でポテチ食うてんなぁ!」でした(参照*7)。2025年度には、佐藤充氏がWebMovieの作品「お耳拝借いたします。『五月蝿い方が得をする世の中』」で新人賞を受賞しています(参照*5)。ラジオCMからWebMovieまで、媒体を問わず「言葉の力」が審査されていることが、これらの事例から確認できます。
良いコピーに共通する視点

TCC賞の審査や受賞者の言葉からは、良いコピーには「課題解決」と「公共性」の両面があるという視点が浮かび上がります。広告は表現であり、クライアントの課題解決のためのものであると同時に、公共物として世の中の人に何かを心に残す使命も作る側にはあるのではないか、と審査経験者は語っています。さらに「見たくない人にも見せるのが広告で、他のコンテンツにはない特徴の一つ」だという指摘も添えられています(参照*4)。
認知や売上のために広告はつくられるけれども、それ以上の「何か」がある。その「美しさ」を追い求め、その「粋」のようなものがTCCに集まっている、と関係者は述べています(参照*3)。数字には表れない言葉の美しさや視点の転換を大切にする姿勢は、経営者が自社のメッセージを磨く際にも通じるものです。「内から外へ」自分たちの想いを言語化し、社会との接点を言葉でつくる。その土台となる思想が、TCC賞の受賞コピーには共通して宿っています。
おわりに
TCC賞は、効果や効率ではなく「表現のおもしろさ」を唯一の基準とする、60年超の歴史を持つ広告賞です。その特徴を理解することで、コピーの評価軸が売上数字だけではないことを改めて認識できます。
経営者やブランド担当者にとっても、自社の想いをどんな言葉で社会に届けるかを考えるうえで、TCC賞の視点は大きなヒントになります。受賞コピーの事例や審査基準を参照しながら、自分たちの言葉を見直すきっかけにしてみてください。
お知らせ
TCC賞の特徴を踏まえ、受賞作品が伝える想いを可視化する視点は、インナー・コピーライティングで組織の言語化を促し、コミュニケーション戦略に活かせます。社会や顧客とのつながりを強める表現設計にも直結します。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – AIマネージャーアプリ「NORDER」のCMが2025年度TCC新人賞を受賞
- (*2) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【新刊書籍のご案内】優れた広告465点を収録『コピー年鑑2023』発売
- (*3) 東京コピーライターズクラブ(TCC) – 2025年度のTCC賞授賞式レポートPart 1 新人賞・TCC賞
- (*4) ADKマーケティング・ソリューションズ – 2024年度TCC新人賞 受賞者対談!クリエイターとしての「これまで」と「これから」
- (*5) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – ADKマーケティング・ソリューションズの佐藤充と船引悠平が2025年度 TCC新人賞を受賞
- (*6) 東京コピーライターズクラブ(TCC) – 2025年度 TCC賞 ファイナリスト
- (*7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – ADKマーケティング・ソリューションズ、2024年度TCC最高新人賞と新人賞を受賞
- (*8) https://www.daiko-wedo.co.jp/assets/pdf/20250702.pdf
- (*9) https://www.admt.jp/communication/news/article/pdf/TCC%E8%B3%9E2025%E5%B1%95_%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9_20250827-172409.pdf
- (*10) AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議 – 宣伝会議が運営する、広告界のニュース&情報プラットフォーム「AdverTimes.(アドタイ)」 – 2023TCC賞授賞式に440人来場 『コピー年鑑2023』も紹介