
この記事のまとめ
カンヌライオンズ2026のBrand Experience & Activation部門では、1,919件のエントリーから57のライオンが授与されました。
グランプリはVICE Media向けの「The Unfiltered History Tour」が獲得し、大英博物館の論争的な収蔵品をめぐる非公式ガイドが評価されました。以下のポイントを押さえておくと、この部門の全体像をつかむことができます。
- グランプリ「The Unfiltered History Tour」は、Dentsu Creative(ベンガルール/ムンバイ/グルガオン)が制作し、同週2つ目のグランプリとなりました。
- ゴールド9件、シルバー20件、ブロンズ27件が選出され、ショートリストには158のファイナリストが名を連ねました。
- 審査員長はVMLのRafael Pitanguyが務め、ライブ体験やリテール領域の施策が多くの注目作を生みました。
- ショートリストの国別ではアメリカが最多で、日本の名前は確認されていません。
部門の定義と審査基準

ブランド体験とアクティベーションの違い
Brand Experience & Activation部門は「ブランド体験」と「アクティベーション」という2つの概念を軸に構成されています。
ブランド体験とは、消費者があらゆる接点を通じてブランドに対して抱く総合的な印象と感情的なつながりのことです。ウェブサイトや接客対応、店舗環境、広告にいたるまで、ブランドが消費者にどのような感覚を与えるかが問われます(参照*1)。
アクティベーションは、消費者の即時的な行動を促すことを目的とした、多くの場合短期的な取り組みを指します。参加や購買といった具体的な行動につなげるキャンペーンやイベントが該当し、ブランドを双方向的に体現することで認知や愛着を高めます(参照*1)。
この部門全体では、体験設計や顧客接点の最適化を通じて、親近感、参加意欲、商業的成果、文化的な価値をどこまで生み出せたかが審査されます(参照*2)。
つまり、長期的に築くブランドの印象と、短期的に起こす行動の両面が評価対象となっています。
対象セクターとサブカテゴリの全体像
Brand Experience & Activation部門の応募対象は、業種ごとに複数のセクターに分かれています。
A01「消費財」は食品・飲料、日用品、衣料品、家具、家電などの日用消費財と耐久消費財を対象とし、A02「ヘルスケア」は医薬品やウェルネス領域をカバーします。A03「自動車」は車両全般、A04「旅行・レジャー・小売・レストラン・ファストフードチェーン」は公共交通機関、観光局、美術館やフェスティバル、各種店舗、飲食チェーンなど幅広い業種が含まれます(参照*3)。
セクターに加え、施策の手法別にもサブカテゴリが設けられています。
ライブ体験、AR・VR・複合現実を用いた体験、デジタルインスタレーション、双方向型のブランド映像や製品、テクノロジー主導のブランド体験、コネクテッド体験、店頭体験、リテール・プロモーション、コンペティションなどがその範囲です(参照*1)。
応募作は業種と手法の両面から分類されるため、あらゆる規模やジャンルの施策にエントリーの道が開かれている構造です。
2026年の応募・受賞概況

エントリー数と受賞数の内訳
カンヌライオンズ2026のBrand Experience & Activation部門には、合計1,919件のエントリーが集まりました。
審査の結果、57のライオンが授与されています。内訳はゴールド9件、シルバー20件、ブロンズ27件です(参照*4)。ショートリストには158のファイナリストが選出されています。
ブランドがアクティベーション、リテール、テクノロジー、イベント、没入型体験などを通じてどのように消費者との関わりを深めているかを示す作品群が並びました(参照*2)。受賞率はおよそ3%にとどまり、1,919件から57件に絞り込まれた競争の厳しさがうかがえます。
体験設計、360度の顧客接点活用、没入型施策、小売領域での工夫といった多角的な観点で審査が行われました。
審査員長とジュリーの視点
2026年のBrand Experience & Activation部門で審査員長を務めたのは、VMLのDeputy Global Chief Creative OfficerであるRafael Pitanguyです。
アイデアがコミュニケーションの枠を超え、行動・体験・現実社会への影響にまで到達しているかどうかを重視する姿勢が示されました(参照*2)。
部門全体のテーマとして、ブランドが「注目を参加に、体験を選好に、アクティベーションを成果に、文化を成長に変えられるか」が問われました(参照*2)。
単に目を引くだけでなく、消費者を動かし、ビジネスや文化に具体的な変化をもたらす施策かどうかが、審査の軸となっていたことが読み取れます。
グランプリ受賞作の詳細

「The Unfiltered History Tour」の概要
Brand Experience & Activation部門のグランプリを獲得したのは、VICE Media向けに制作された「The Unfiltered History Tour」です。
制作を手がけたのはDentsu Creativeのベンガルール、ムンバイ、グルガオンの3拠点で、大英博物館の論争的な収蔵品をめぐる非公式ガイドとして企画されました(参照*4)。
同作品はBrand Experience & Activation部門にとどまらず、Radio & Audio部門でもグランプリを獲得しています。同週で2つのグランプリを手にした作品となりました(参照*4)。
制作背景と評価のポイント
「The Unfiltered History Tour」は、大英博物館の論争的な収蔵品をめぐる非公式ガイドとして企画されました。
審査において評価されたのは、コミュニケーションの枠を超えて現実世界に影響を及ぼす作品であるという点です。
2026年のBrand Experience & Activation部門では、ブランドが注目を参加へ、体験を選好へ、アクティベーションを成果へと転換できるかが審査の核にありました(参照*2)。
「The Unfiltered History Tour」は、メディアブランドの編集方針を体験へ接続することで、来館者の参加を促しました。複数部門でグランプリを受賞した事実は、施策の射程がひとつのカテゴリに収まらない広がりを持っていたことを示しています。
ゴールド・シルバー受賞作の注目事例

消費財・小売領域の受賞作
消費財セクターのショートリストには、日用消費財ブランドの多彩な施策が並びました。
Mars Snackingの「Protect the Peanut」、Huggiesの「Expensive Sh*t」、Kotexの「Art’s Missing Period」、Heinz Ketchupの「Heinz Dipper」、KITKATの「KITKAT Security Detail」、Skittlesの「Gaming Flute」、Appleの「No Frame Missed」などがファイナリストに名を連ねています(参照*2)。
小売領域では、家具ブランドの「Hidden Tags」が注目されました。
家具の耐久性に対する消費者の懐疑的な認識に対して、製品に隠された製造年月日タグを消費者自身に発見・撮影してもらい、SNSで共有する参加型の仕組みを採用しています。映像、ラジオ、屋外広告、インフルエンサーとの連携を組み合わせた結果、売上が20%増加し、耐久性への認識が17ポイント改善、さらに95,500人の新規会員を獲得しました。価格値下げや広告費の追加投下なしにこの成果を達成しています(参照*5)。
消費財から小売まで、消費者の能動的な参加を引き出す設計が共通項として浮かび上がります。
とりわけ「Hidden Tags」は、製品そのものを体験の起点にすることで広告費に頼らない成長を実現した好例といえます。
テクノロジー・デジタル体験の受賞作
テクノロジーやデジタルを活用した体験設計の領域でも、多彩なファイナリストが選出されました。
Columbia Sportswearの「Expedition Impossible」はアウトドアブランドならではの冒険体験をデジタル上で拡張した施策であり、Perfettiの「Chupa Chups Impossible」は菓子ブランドの世界観を技術で体現した取り組みです。Tecateの「Welcome Back, Paisano」は文化的な文脈にテクノロジーを組み合わせた施策として名を連ねました(参照*2)。
部門の対象サブカテゴリには、AR・VR・複合現実体験、デジタルインスタレーション、双方向型のブランド映像や製品、テクノロジー主導のブランド体験、コネクテッド体験などが含まれています(参照*1)。
ショートリストの傾向を見ると、テクノロジーの活用は手段の新しさ自体ではなく、消費者の記憶に残る体験をどう構築するかという目的から逆算されている点が特徴的です。
技術はあくまで体験の触媒として位置づけられ、ブランドの文脈に根ざした使い方をしている施策がファイナリストに選ばれています。
ショートリストに見る主要トレンド

ライブ体験とゲリラ施策の復権
2026年のショートリストで際立ったのが「Live Brand Experience or Activation」サブカテゴリの充実ぶりです。
Buchanan’sの「The Second Chance」、Jazz Pharmaceuticalsの「See a Seizure」、R.I.P. Medical Debtの「The Unburied Casket」、Australian Institute of Marine Scienceの「Witnessing Futures: Biofabricating Reef Species for Reef Recovery」、Specsaversの「Welcome Home」、「The LEGO Formula 1 Season & Drivers’ Parade」、Pumaの「The Running Towards Exhibition」、Subwayの「Baked by Distance」、Oister Globalの「The Fish Language」など、多数のファイナリストが名を連ねました(参照*2)。
これらの施策は医療、環境、スポーツ、飲食と多領域にまたがり、ライブアクティベーションが特定の業種に限定されない手法であることを示しています。
オンライン施策が主流化するなかでも、現場で人を動かす体験は引き続きインパクトの源泉として審査員に評価されました。
リテールとコマースの創造的融合
Brand Experience & Activation部門のA04セクターには、旅行・レジャー・小売・レストラン・ファストフードチェーンが含まれます。
公共交通や観光局、美術館やフェスティバル、各種店舗、飲食チェーンまで幅広い業種が対象です(参照*3)。
小売の事例として先述の「Hidden Tags」は、製品に最初から存在していた製造年月日タグを軸に体験を設計し、売上20%増、耐久性認識17ポイント改善、95,500人の新規会員獲得という成果につなげました。
価格値下げや広告費の追加なしに達成されたこの結果は、リテール施策が単なる販促ではなく、ブランドの信頼構築と商業的成長を両立させた事例として位置づけられます(参照*5)。
カンヌライオンズ2026では、体験がキャンペーンの戦術的な延長ではなく、デザイン、メディア、テクノロジー、リテール、イベント、コミュニティ、パーパスを組み合わせた戦略的な領域であると位置づけられました(参照*2)。
リテールの現場は、ブランドの世界観を消費者と共有する接点として、クリエイティブの最前線に置かれています。
日本からの挑戦と今後の展望

2026年のBrand Experience & Activation部門ショートリスト158作品を国別に見ると、アメリカが最多で、続いてイギリス、ブラジル、カナダ、アラブ首長国連邦、スペイン、ドイツ、イタリア、メキシコ、ペルー、シンガポール、オーストラリア、フランス、ニュージーランド、プエルトリコ、デンマーク、アルゼンチン、ギリシャ、パラグアイ、オランダ、コロンビア、スウェーデン、ベルギー、ポーランド、インド、タイ、南アフリカ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、インドネシアと続きます(参照*2)。
この一覧に日本は含まれていません。
アジア地域ではシンガポール、インド、タイ、インドネシアがショートリスト入りを果たしています。
グランプリを獲得した「The Unfiltered History Tour」もDentsu Creativeのインド拠点が制作したものであり、アジア発の作品がこの部門で評価されていることがうかがえます(参照*4)。
日本の企業やクリエイターにとっては、この部門が求める「消費者を行動に導く体験設計」と「文化的な文脈の接続」をどう構築するかが今後の焦点となります。
1,919件のエントリーから57件しかライオンが授与されない厳しい選考のなかで、日本独自の文化や社会的文脈を起点にした施策がどこまで世界の審査基準と交わるか。
「内から外へ」というメッセージの組み立て方が、国際的な舞台での突破口になり得ると考えます。
おわりに
カンヌライオンズ2026のBrand Experience & Activation部門は、体験がキャンペーンの一部ではなく、ブランド構築そのものの中核であることを改めて示しました。
グランプリの「The Unfiltered History Tour」からショートリストのライブ体験施策、リテール領域の成果事例まで、共通しているのは消費者を「見る人」から「動く人」へと変える設計です。
日本からのショートリスト入りは確認されませんでした。
一方で、アジア発の作品がグランプリを獲得した事実は、この部門の門戸が特定の地域に閉じていないことを意味しています。自社の想いを起点にした体験設計を磨くことが、次の一歩につながるはずです。
お知らせ
カンヌライオンズ×2026・Brand Experience・Activationで注目される体験施策は、表現設計とインナーの言語化が肝心です。私たちはインナー・コピーライティングで想いを社会につなげる戦略を描きます。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。