
はじめに
広告やプロダクトの世界では、デザインの質を客観的に測る手段として広告賞やデザイン賞が活用されています。しかし、国内外に数多くの賞が存在し、それぞれ審査基準や対象領域が異なるため、どの賞に挑戦すべきかを見極めないと、労力や費用が分散してしまいます。
デザイン領域に合った賞を選ぶことで、受賞が持つブランディング効果を高められます。本記事では、ADC・JAGDA・Red Dot・iF・Pentawardsといった国内外の主要賞について、定義・審査領域・応募時の注意点を横断的に整理していきます。
デザイン系広告賞の定義と背景

広告賞とデザイン賞の境界
広告賞とデザイン賞は、ともに優れたクリエイティブを顕彰する仕組みですが、評価の軸が異なります。広告賞は広告としてのメッセージ伝達力や消費者への影響を重視する傾向があり、審査員に広告の関係者を含まず、広告の受け手である消費者が生活者の視点から審査を行う賞も存在します(参照*1)。
一方、デザイン賞は造形や機能、ユーザー体験といったデザインそのものの完成度を評価の中心に据えます。Red Dot Design Awardは「Product Design」「Brands & Communication Design」「Design Concept」の3部門に分かれ、デザインの専門家が審査を行います(参照*2)。このように、広告としての効果を測るか、デザインの質を測るかという出発点の違いが、両者の境界線を形づくっています。
デザイン評価が重視される理由
デザイン系の賞がこれほど多くの応募を集める背景には、デザインの質が事業成果に直結するという認識の広がりがあります。iF DESIGN AWARDは1954年の初開催以来、毎年70か国から10,000を超えるエントリーを受け付けており、評価基準の5分の1をサステナビリティが占めます(参照*3)。
Red Dot Design Award 2025も毎年20,000件を超える応募が寄せられ、世界的なデザインの専門家が審査にあたります(参照*4)。企業がこうした国際的なデザイン系広告賞に積極的にエントリーする動きは、デザインを経営資源として位置づける考え方と結びついています。
国内主要デザイン賞の概要

東京ADC賞・JAGDA賞
東京ADC賞は、東京アートディレクターズクラブが主催し、広告やグラフィックデザインの分野でアートディレクションの質を審査する国内有数のデザイン系広告賞です。ADC会員であるアートディレクターが互選で審査を行う点が特徴で、表現の独自性と完成度が問われます。
JAGDA賞は2008年に創設され、年鑑『Graphic Design in Japan』の出品作品のなかから、各カテゴリーの高得票作品を対象に数作品を選出します。カテゴリーはポスター、CI・VI・シンボル・ロゴ・タイプフェイス・モーションロゴ、ブック・エディトリアル、パッケージ、環境・空間、インタラクティブデザイン、映像など多岐にわたります(参照*5)。グラフィックデザイン全般を幅広く網羅しているため、制作物がどのカテゴリーに該当するかを事前に確認しておくことが応募準備の第一歩になります。
東京TDC賞・毎日広告デザイン賞
東京TDC賞は「文字や言葉の視覚表現」を軸に1990年から毎年開催されているグラフィックデザインの国際賞です。2025年には国内1,630作品、海外1,954作品の計3,590作品が寄せられ、審査員30名によるメインカテゴリー審査に加え、タイプデザイン部門選考委員16名、オンスクリーン部門審査員9名による専門審査が行われました。その結果、486の入選作品と11の受賞作品、52のノミネート作品が決定しています(参照*6)。
毎日広告デザイン賞は毎日新聞社が主催し、経済産業省が後援するデザイン系広告賞です。第93回では「一般公募・広告主課題の部」の最高賞として、岩波書店「雑誌『世界』」の課題を制作した軽米かおるさん(日本デザインセンター)の作品が選ばれ、「広告主参加作品の部」では味の素の企業広告「SOUND FUL RECIPE」が最高賞を獲得しました(参照*7)。新聞広告を起点とした表現力が問われる歴史ある賞であり、グラフィックの実力を測る場として根強い支持を得ています。
海外主要デザイン賞の概要

iF Design Award
iF DESIGN AWARDは1954年にドイツで創設された国際デザイン賞で、世界で最も歴史あるデザインコンペティションの1つです。応募はプロダクトデザイン、パッケージデザイン、ブランディング&コミュニケーションデザイン、建築、インテリア建築、サービス、システム&プロセスデザイン、UX、UI、コンセプトの9分野・合計93カテゴリーで受け付けています(参照*3)。
2024年には過去最多となる10,800件のエントリーが72か国・4,970の参加者から寄せられました。23か国から集まった132名のデザイン専門家で構成される国際審査団が審査を行い、52か国・2,294の参加者にiF DESIGN AWARD 2024が授与されています。そのなかで最も卓越した75作品がiF DESIGN AWARD 2024 Goldに選ばれました(参照*8)。審査基準にはアイデア、フォルム、機能、差別化、サステナビリティの5項目が設定されており、デザインの総合力が問われる構造になっています。
Red Dot Design Award
Red Dot Design Awardは1955年に創設された国際デザイン賞で、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン・デザインセンターが主催しています。iF DESIGN AWARD、アメリカのIDEA(International Design Excellence Awards)と並び、世界三大デザイン賞の1つに数えられます(参照*2)。
部門はProduct Design、Brands & Communication Design、Design Conceptの3つに分かれ、年に一度、毎年20,000件を超える応募のなかから世界的なデザインの専門家が審査を行います(参照*4)。Brands & Communication Design部門ではブランディング、広告、パッケージデザイン、UI、UXなど多様なカテゴリーが設けられており、1つの製品が複数の領域で高い評価を得る事例も生まれています。
Pentawards・D&AD
Pentawardsはパッケージデザインに特化した国際コンペティションで、パッケージの造形、棚での存在感、開封体験、輸送効率といった実用面を含む多角的な基準で審査が行われます。すべてのエントリーに対して「Pentawards Excellence Score」と呼ばれるフィードバックが提供され、審査基準ごとの得点、同じサブカテゴリー内での相対評価、そしてショートリスト入りに必要だったスコアまで開示される仕組みです(参照*9)。
D&ADはイギリスを拠点とする広告賞兼デザイン賞で、クラフトの卓越性に重きを置くことで知られます。受賞の難易度が高い「Black Pencil」「Yellow Pencil」といった段階的な評価体系を持ち、広告表現からプロダクト、デジタル体験まで幅広い領域をカバーしています。こうした海外のデザイン系広告賞は、自社のデザインを国際的な尺度で検証したいときの有力な選択肢となります。
領域別の審査カテゴリー比較

グラフィック・ブランディング領域
グラフィックやブランディング領域は、多くのデザイン系広告賞が共通して設けている審査カテゴリーです。JAGDA賞ではポスター、ジェネラルグラフィック、CI・VI・シンボル・ロゴ・タイプフェイス・モーションロゴ、新聞広告・雑誌広告といった細分化されたカテゴリーが用意されています(参照*5)。
iF DESIGN AWARDでは「ブランディング&コミュニケーションデザイン」という分野名で、広告ビジュアルやブランド戦略のデザインを受け付けています(参照*3)。同じグラフィック作品でも、国内賞では制作物単体の造形美が評価軸になりやすく、海外賞ではブランド全体との整合性や社会的文脈が加味される傾向があります。応募先を選ぶ際は、評価軸の違いを意識することが欠かせません。
プロダクト・パッケージ領域
プロダクトとパッケージの領域は、手に取れる実物が審査対象になる点で他のカテゴリーと性質が異なります。iF DESIGN AWARDはプロダクトデザインとパッケージデザインをそれぞれ独立した分野として設定しています(参照*3)。
Pentawardsでは、棚での存在感、製品の見え方、保護性能、そして心地よい開封体験が設計の柱として挙げられ、輸送効率を高める平坦化可能なダイカット構造も評価対象になっています(参照*10)。パッケージ領域では見た目の美しさだけでなく、物流や環境負荷への配慮も審査に組み込まれている点が、グラフィック領域との大きな違いです。
UX・UI・サービスデザイン領域
デジタル分野の拡大にともない、UX・UI・サービスデザインを独立したカテゴリーとして設ける賞が増えています。iF DESIGN AWARDは9分野のなかにUXとUIをそれぞれ設置しており、2025年にはユーザー体験(User Experience:UX)部門のCommunication UXカテゴリーにおいて、Form(造形)、Function(機能)、Idea(アイディア)の3要素が評価された受賞事例があります(参照*11)。
Red Dot Design AwardのBrands & Communication Design部門でも、プロダクトデザイン、UIデザイン、パッケージグラフィックデザインの複数領域で同一製品が高い評価を受けた事例が報告されています(参照*2)。UX・UIの審査では、画面上の見た目だけでなく、利用者が体験する一連のプロセスが評価されるため、エントリー資料にはユーザーの行動フローや改善の過程を盛り込む工夫が求められます。
受賞作に見るトレンドと傾向

デザイン系広告賞の受賞作を横断的に見ると、いくつかの共通した傾向が浮かび上がります。iF DESIGN AWARD 2024の審査では「持続可能なデザインは良いデザインである」という認識が示され、素材の選定や活用においてサステナブルな基準がますます取り入れられていること、そして優れたデザインが消費者の正しい購買判断を後押しできるという見解が示されました(参照*8)。
タイポグラフィの分野でも新しい視点が評価されています。東京TDC賞2025では、40年にわたり地域や民族を越えて策定が進められてきたUnicodeという文字コードに着目した短編アニメーションが受賞しました。狭義のタイポグラフィを越え「文字そのもの」に目を向けた試みが高く評価された事例です(参照*6)。
UX領域では、利用者目線への徹底したこだわりが受賞の鍵となっています。あるアプリ開発事例では、機能面だけを追求するのではなく、会員のニーズに基づいたさまざまな機能をできるだけ簡単にわかりやすく使えるよう、顧客目線でのデザインに徹底的にこだわった点が評価につながったと報告されています(参照*12)。サステナビリティ、表現領域の拡張、そしてユーザー中心設計という3つの軸が、現在の受賞作の傾向を形づくっています。
賞の選び方と応募時の注意点

デザイン系広告賞に応募する際、まず確認すべきは審査基準と自社の強みとの一致度です。iF DESIGN AWARDの審査基準はアイデア、形、機能、差別化、持続可能性の5項目で構成されており、21か国から集まった129名のデザイン専門家が約68か国・10,000件を超える作品を審査します(参照*13)。自社の制作物がどの項目で優位性を持つかを事前に整理しておくと、エントリー資料の訴求ポイントが明確になります。
費用面も事前に把握しておく必要があります。iF DESIGN AWARD 2027の場合、応募登録費用は300ユーロから500ユーロで、受賞した場合には分野に応じて2,900ユーロから3,300ユーロの受賞者費用が発生します(参照*14)。
応募の目的を明確にすることも大切です。あるアプリ開発チームは、自分たちのデザインが本当にユーザーにとって使いやすいものになっているかを客観的に、かつハイレベルな候補者と比較して評価してもらいたいという動機から、あえて国際的なデザイン賞にエントリーしたと述べています(参照*12)。社内の成果を数字で示しにくいデザイン領域だからこそ、外部評価を活用するという視点は、応募先を選ぶ際のひとつの判断軸になります。
おわりに
デザイン系広告賞は、審査基準・対象領域・費用体系がそれぞれ異なるため、自社のデザイン資産をどの角度から評価してもらいたいかを明確にすることが出発点になります。国内賞で造形やタイポグラフィの精度を問い、海外賞でブランド全体の統合力やサステナビリティへの対応を検証するといった使い分けも有効です。
賞への応募は、社内のデザイン品質を外部の基準で測り直す機会でもあります。受賞そのものだけでなく、審査フィードバックを次の制作に活かすことで、デザインを経営の言葉に翻訳する回路が生まれます。
お知らせ
広告賞やデザイン系での評価を目指すなら、表現力と戦略的コピーライティングが鍵です。ユー&ミーは想いの言語化で広報・ネーミングを含むコミュニケーション設計を行い、企業の魅力を受賞につながる形で磨き上げます。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。
コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。
監修者
梅田悟司(うめださとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了
1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。
武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。
CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。
著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。
参照
- (*1) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – デザイン仏壇を起用した雑誌広告「これからの祈りのかたち。」第61回JAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクール・メダリストを受賞
- (*2) Fujifilm Wins “Red Dot Award: Brands & Communication Design 2024”
- (*3) iF DESIGN AWARD 2026への登録は、2025年11月5日まで可能です。
- (*4) Yahoo!ニュース – 【バレー】JVAのブランディングプロジェクトがドイツの国際デザイン賞で入賞(バレーボールマガジン)
- (*5) JAGDA:JAGDA賞
- (*6) ギンザ・グラフィック・ギャラリー|プレスリリース・広報用ダウンロードシステム|ARTPR
- (*7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 第93回毎日広告デザイン賞決まる 最高賞「一般公募・広告主課題の部」に軽米かおるさん、「広告主参加作品の部」は味の素
- (*8) the results are in!
- (*9) Pentawards 2026 – Judging Process
- (*10) Pentawards Festival Winners Gallery
- (*11) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 「MyJCBアプリ」が世界三大デザイン賞「iFデザインアワード 2025」を受賞
- (*12) JCB公式note|JCB to(ジェーシービート) – MyJCBアプリが国際的デザイン賞を受賞!ユーザー目線の使いやすさを追求したデザインとは?|JCB公式note|JCB to(ジェーシービート)
- (*13) 日産自動車ニュースルーム – 「日産パトロール/アルマーダ」がドイツの「iF デザインアワード」を受賞
- (*14) https://kidsdesignaward.jp/docs/2026/iFPressrelease.pdf