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ADFESTとは?特徴・部門・受賞作品の傾向をわかりやすく解説

はじめに

アジア太平洋地域には独自の文化や価値観から生まれた広告表現が数多く存在します。こうした表現を正当に評価する場がなければ、地域固有のクリエイティブは国際的な舞台で埋もれてしまいかねません。

では、アジア太平洋の広告をどのような視点で評価し、どんな仕組みで世界に発信しているのか。その中心的な役割を担っているのが、タイを拠点とする国際広告祭ADFESTです。本記事では、ADFESTの特徴や審査哲学、部門構成、そして受賞作品の傾向まで、順を追って解説します。

ADFESTの概要と歴史

ADFESTの概要と歴史

設立経緯と非営利の理念

ADFESTは1998年に創設されたアジア太平洋地域を代表する国際広告祭です。世界中の広告代理店、制作会社、ブランド担当者、クリエイターが集まり、優れた広告・デジタルコンテンツ・フィルム・デザイン作品が表彰されています(参照*1)。

ADFESTの大きな特徴は、非営利団体として運営されている点にあります。アジア太平洋およびMENA(中東・北アフリカ)地域のクリエイティブ産業を育成・支援することを使命として掲げています。その信頼性はランキング機関からも認められており、WARC Creative 100 Rankingsに含まれる世界7つの地域広告祭のひとつであるほか、Campaign Brief Asia RankingsやThe Drum World Creative Rankingsにも選ばれています(参照*2)。

営利目的ではなく地域のクリエイティブを育てるという理念が、ADFESTの審査や運営全体を貫く土台になっています。

開催地・時期・規模感

ADFESTはタイのパタヤを拠点に毎年開催されています。2025年は3月20日から22日にかけて行われました(参照*3)。

2026年のLotus Awardsには合計1,405件のエントリーが寄せられました。2025年の1,641件からは減少したものの、Digital Craft、Direct、INNOVA、Lotus Roots、Outdoorの5部門では前年を上回る応募がありました。審査には17都市から56名の審査員が参加し、7つのグループに分かれて選考にあたりました。審査委員長はdentsuのグローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサーである佐々木康晴氏が務めています(参照*4)。

17都市にまたがる審査体制は、ADFESTがアジア太平洋全域を横断する広がりを持つ広告祭であることをよく示しています。

ADFESTの審査哲学と評価軸

ADFESTの審査哲学と評価軸

地域文化×グローバル視点の融合

ADFESTの審査で際立つ特徴は、「地域文化とグローバル視点の融合」を重視している点です。アジア各国の社会的背景や生活者のリアリティから生まれたアイデアを尊重し、その土地ならではの文脈をもとに新しいクリエイティブの形を探る姿勢が評価の軸に据えられています(参照*1)。

2026年の審査委員長メッセージでも、この姿勢は明確に打ち出されました。審査員に対し、ローカルな視点とグローバルな視座を同時に持つことが求められています。具体的には、アジア各地に存在する小さいが深く大切な課題に注意を払い、作品のなかにそれが現れたとき敏感に認識する力が必要だと述べられています。同時に、その課題を世界の注目を集めるために誇張するのではなく、正確に理解し誠実に表現する姿勢が求められました(参照*2)。

地域の真実を出発点にしながらも、それを誠実に世界へ届けるという二重の視点が、ADFESTの審査哲学の核にあります。

審査基準の4要素と配点

ADFESTの審査基準は部門ごとに細かく設定されています。たとえばSustainable Lotus部門では、4つの基準とその配点が公開されています。Creativity/Idea/Insightが30%、Strategyが15%、Executionが15%、Resultsが40%です(参照*5)。

Resultsの配点が40%と最も高い点は注目に値します。アイデアの独創性だけでなく、実際に成果を出したかどうかが重く問われる設計です。ここからは、優れた着想を社会やビジネスの変化へ結びつけることがADFESTでの評価に直結するといえます。

戦略と実行がそれぞれ15%と対等に配分されている点も、企画の構想力と現場での実現力をバランスよく見ようとする意図がうかがえます。

Spikes Asiaとの違い

Spikes Asiaとの違い

運営母体と対象地域の差

アジア太平洋地域を対象とする広告賞には、ADFESTのほかにSpikes Asiaがあります。両者は対象地域が重なる部分もありますが、運営の仕組みと応募資格に違いがあります。

ADFESTへの応募は、アジア太平洋地域(オーストラリア、ニュージーランド、中東を含む)に拠点を置く広告・コミュニケーション・制作関連企業に限られます。地域外の企業が地域内のクライアントのために制作した作品は応募できません(参照*6)。一方、Spikes Asiaはアジア太平洋地域で最も権威あるクリエイティビティとマーケティング効果の賞とされており、ビジネスインパクト、包括性、イノベーションを推進する作品を評価する方針を打ち出しています(参照*7)。

ADFESTが「地域に根ざした企業による作品」に対象を限定しているのに対し、Spikes Asiaはビジネス成果や多様性を重視する設計であり、応募の門戸の広さに差が生まれています。

審査思想と部門設計の比較

審査の思想にも違いがあります。ADFESTは非営利の立場から、アジア太平洋およびMENA地域のクリエイティブ産業を育成・支援する役割を掲げ、地域文化の文脈を尊重する審査を行っています(参照*2)。Spikes Asiaは2026年に向けて、地域の急速に変化するクリエイティブの状況を反映し、ビジネスインパクト・包括性・イノベーションを推進する作品を称える方向へアップデートを進めています(参照*7)。

部門設計においてもADFESTには独自性があります。地域の文化的価値を体現した作品を表彰するLotus Rootsは、ADFESTだけに存在する部門です。こうした部門の有無が、両広告祭の志向の違いを端的に映し出しています。

主な部門(Lotusカテゴリー)

主な部門(Lotusカテゴリー)

21部門の全体像

ADFESTのLotus Awardsは全21部門で構成されています。具体的には、Brand Experience Lotus、Commerce Lotus、Creative Strategy Lotus、Design Lotus、Digital & Social Lotus、Digital Craft Lotus、Direct Lotus、Effective Lotus、Entertainment Lotus、Film Craft Lotus、Film Lotus、INNOVA Lotus、Lotus Roots、Media Lotus、New Director Lotus、Outdoor Lotus、PR Lotus、Press Lotus、Print & Outdoor Craft Lotus、Radio & Audio Lotus、Sustainable Lotusです(参照*8)。

部門構成は年ごとに更新されています。たとえば、かつて独立していたMobile LotusのサブカテゴリーはDigital & Social Lotusに統合されました。さらにBrand Experience Lotus、Commerce Lotus、Creative Strategy Lotus、Digital & Social Lotus、Direct Lotus、Effective Lotus、Media Lotusには新たなProducts & Servicesのサブカテゴリーが追加されています。Entertainment Lotusも、Music & Audio、Gaming、Sportsのサブカテゴリーが拡充されました(参照*9)。

デジタル領域の統合やエンターテインメント分野の拡張は、広告表現の境界が広がり続けている現状を反映した動きといえます。

独自部門Lotus RootsとINNOVA

21部門のなかでも、ADFESTの特徴を象徴するのがLotus RootsとINNOVA Lotusです。Lotus Rootsは、文化・宗教・信条・伝統・言語・インサイト・文脈といったローカルな価値を体現した作品に贈られる、ADFESTだけの賞です。各地域の豊かな遺産や文化的価値を保存し称える作品が対象となります(参照*5)。

2026年のエントリー状況を見ると、全体の応募数が前年より減少したなかでも、INNOVA LotusとLotus Rootsは前年を上回る応募を集めました(参照*4)。応募者がこの2部門に寄せる関心の高さがうかがえます。

さらに特別賞も拡充されており、Independent Network of the Yearが新設されました(参照*9)。独立系ネットワークを評価する枠組みが加わったことで、大手以外のクリエイティブ組織にも光が当たる設計になっています。

アジア各国の受賞傾向

アジア各国の受賞傾向

インド・タイ・フィリピンの強み

2025年のADFESTでは、アジア各国の受賞結果に明確な傾向が見られました。インドはGrande3件、Gold10件、Silver6件、Bronze17件、Lotus Roots1件、INNOVA1件の合計38件を獲得しています。タイもGrande3件、Gold4件、Silver9件、Bronze15件で計20件と存在感を示しました。フィリピンはGold1件、Silver10件、Bronze8件、Lotus Roots1件の計18件です(参照*10)。

インドとタイはともにGrandeを3件ずつ受賞しており、最高賞の獲得数で他国を上回っています。フィリピンはSilverが10件と銀賞の層が厚く、幅広い部門で安定した評価を得ていることが読み取れます。

日本勢の実績と評価ポイント

2025年のADFESTで最多受賞国となったのは日本です。Grande9件、Gold17件、Silver17件、Bronze1件、Lotus Roots1件、INNOVA1件の合計45件を獲得しました(参照*10)。

なかでもdentsuは合計43の賞(Gold9件、Silver15件、Bronze19件)を受けています。この成果について同社は、ADFESTが重視する地域文化の独自性を取り込んだ多様な表現と、ブランド課題の解決に貢献する革新的なクリエイティビティが認められたものと位置づけています。さらに同社はAgency of the YearおよびEast Asia Agency of the Yearにも選ばれ、グループとしてNetwork of the Yearも獲得しました(参照*11)。

受賞件数の多さだけでなく、地域文化の文脈をクリエイティブに落とし込む力が高く評価されている点が、日本勢の受賞傾向を読み解くうえで欠かせない視点です。

注目の受賞作品

注目の受賞作品

The Meaning of Benz(タイ)

Lotus Roots部門のGrandeを受賞したのが、BBDO Bangkokが手がけたMercedes-Benzの「The Meaning of Benz」です。タイでは「ベンツ」という名前が家族にとって繁栄と夢を象徴する存在とされており、そのブランド名が持つ文化的な意味を掘り下げたキャンペーンでした。タイの家族が「ベンツ」という名前をどのように捉え、どんな夢を抱いているのかを描いた感動的なストーリーが展開されています(参照*1)。

審査の場では、Lotus Rootsの意義についてこう語られました。この部門はADFEST Lotus Awardsのなかでも美しいカテゴリーであり、グローバルな会話のなかで誤解されたり見過ごされたりしがちな独自文化を称えるために作られたものだ、と。Grandeを選ぶ際に審査員が問うたのは「この作品は世界のほかの場所でも成立するか」という点であり、「The Meaning of Benz」に対する答えは明確に「ノー」だったと述べられています(参照*12)。

その土地でしか生まれ得ない物語であることが、最高賞の決め手になりました。

Drops of Joy(インド)

もうひとつ注目すべきGrande受賞作が、Leo India(ムンバイ)によるLay’sの「Drops of Joy」です。この作品は、ポテトチップス工場から蒸気として排出されていた水に着目しています。ジャガイモの約80%は水分であるという事実と、工場から失われる水蒸気という2つの観察が結びつき、「もしこの水を回収できたら」という発想から生まれました(参照*13)。

審査委員長のSusan Credle氏は、工場の生産工程そのものを再構築して持続可能性を高めるというアイデアに対し、クライアントとの協業の可能性を広げる事例だと評価しました。製品そのものではなく、製造の仕組みにクリエイティブの力を注いだ点が、従来の広告表現とは異なる角度を示しています。

アジア広告を見る意義

アジア広告を見る意義

2026年の審査委員長メッセージでは、アジアならではの課題解決を国境を越えた価値へと転換する作品を探してほしいと審査員に呼びかけられました。ローカルな真実からグローバルな共感へとつなげつつ、作品の真正性を失わないことが求められています(参照*2)。

実際に、アジアはもはやヨーロッパやアメリカの後を追う立場ではなく、いま生み出されている作品によって独自の声を形作りつつあると指摘されています(参照*4)。ADFESTを通じて浮かび上がったのは、「地域の文脈から紡がれる表現が新しい発想の源泉になる」という潮流です。地元ならではの慣習や言葉、生活のリアリティを出発点にしながら、AIやサステナビリティ、ジェンダーといった普遍的テーマにアプローチした作品が目立ちました(参照*1)。

深く根付いた伝統と現代のテクノロジーが融合したとき、ほかの地域には真似できない何かが生まれる。審査委員長はそれを「アジアン・クリエイティビティの魔法」と呼びました(参照*4)。アジア広告を見ることは、自分たちの足元にある文化をクリエイティブの起点として捉え直す行為でもあります。

おわりに

ADFESTの特徴は、非営利の理念のもとで地域文化とグローバル視点の融合を審査の軸に据えている点にあります。Lotus RootsやINNOVAといった独自部門、成果を重視した配点設計、そしてアジア各国の多様なクリエイティブが集まる場としての厚みが、この広告祭ならではの価値を形作っています。

自社のコミュニケーションを「内から外へ」と構想するとき、ADFESTの受賞作品が示す「ローカルな真実を起点にした表現」は、大きなヒントを与えてくれます。

お知らせ

ADFEST 特徴を踏まえた表現の磨き上げは、企業の想いを言語化するインナー・コピーライティングと親和性が高く、広告・広報・PRやネーミング開発と組み合わせることで、クリエイティブな価値を社会との新しいつながりへと昇華できます。
株式会社ユー&ミーは、経営者・起業家・担当者が持つ想いの言語化「インナー・コピーライティング」を通じて、社会との新しいつながりを生みだします。事業会社からベンチャー企業・スタートアップまで、BtoCからBtoBまで、幅広い企業やサービスのコミュニケーション開発に携わってきました。

コピーライティングを軸として、広告・広報・PR・ネーミング開発・書籍プロデュースなどの手段を組み合わせたコミュニケーション戦略の策定を得意としています。コピーライティングに関する業務に加えて、講演や研修、メディア取材の問い合わせも、お気軽にご連絡ください。

監修者

梅田悟司(うめださとし)

コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授
博士(学術)東京科学大学 環境・社会理工学院 博士後期課程修了

1979年生まれ。電通、ベンチャーキャピタルでのスタートアップ支援を経て現職。企業の根幹となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、コーポレート・メッセージ構築の第一人者として、経営層の思考の言語化を得意とする。

ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などを担当。核融合スタートアップ「Helical Fusion」をはじめ、次世代スタートアップ企業のブランド戦略の立案に従事する。

武蔵野大学では、日本初となるアントレプレナーシップ学部の立ち上げにおいて、教員としても着任する傍ら、コピーライティングを中心としたコミュニケーション・ブランディングに携わっている。

CM総合研究所が選ぶコピーライターラインキング・トップ10に5年連続選出。カンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。

著書に、シリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』『きみの人生に作戦名を。』(日本経済新聞出版社)などがある。4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆。100を超えるメディアで取り上げられ、大きな話題となる。

参照

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